スマートフォンがVAIOの世界観を広げる――「VAIO Phone Biz」誕生秘話:SIMロックフリースマホメーカーに聞く(2/2 ページ)
良くも悪くも話題を振りまいた、日本通信の「VAIO Phone」発売から約1年。ついに、VAIOが自ら手掛けたスマートフォン「VAIO Phone Biz」が登場する。OS、スペック、デザインなどを中心に、開発ストーリーをVAIOに聞いた。
IOTは「かなり大変だった」が、差別化につながる
―― 通信に関しても、快適さを追求するというポリシーは同じでしょうか。IOTを取り、キャリアアグリゲーションに対応している端末はなかなかありません。
林氏 VAIOはご存じのように後発組ですから、何か他社との差異化要素が必要になります。PCだと、それはCPUの性能や、ストレージの容量、最新のテクノロジーを取り入れることなどでしたが、同様に通信も、やるのであれば、お客さまがもっと快適に使える環境を提供したい。今のチップセットを選んだ理由の1つも、通信です。
Snapdragon 617はバランスの取れたチップだと思っています。これをフル活用して、国内のバンドにはなるべく対応するようにしました。国内企業にフォーカスしたとき、やはりバンドはきちんと対応していた方がいい。かつ快適に使えるよう、キャリアアグリゲーションに対応し、ドコモのIOTも取得しようとしています。
―― IOTの進捗(しんちょく)状況はいかがでしょう(インタビューは、3月10日に実施した)。
戸國氏 テスト自体はほぼ終わっていて、今は最終的なご判断を待っているところです。
林氏 ただ、アンテナ性能には、自負もあります。アンテナもIOTの中の項目の1つですが、その部分は既にパスしていて、いい結果も出ています。
―― 試験はかなり厳しいと聞きますが、いかがでしたか。
戸國氏 正直なことを申し上げると、かなり大変でした。よくここまで来たなという感じです。NDAがあるため詳細には言えませんが、通信プロトコルから始まり、エアの感度まで、全てを見られる厳しいテストでした。また、Windows 10 Mobileに関しては、過去にIOTを通した端末がなかったので、その辺も大変だった理由の1つです。
―― ただ、IOTがあれば、ドコモのネットワークにいきなりつながらなくなるという心配はなくなります。その点では、安心感につながりますね。
林氏 数多くの選択肢がある中では、安心感で選びやすくなるのではないでしょうか。
戸國氏 選択の決め手になるわけではありませんが、(法人の)お客さまが声をかけてくる時点で、既にIOTは取っているという認識を持っていることが多いですね。
―― つまり、法人に販売するなら、取っていて当然ということですね。
後継機についても議論をしている
―― ここまでは法人に関してですが、個人ユーザーについては、どうお考えでしょうか。
岩井氏 発表会のタイミングでは、楽天モバイルさん、BIGLOBEさんが決まっていましたが、その後も、引き続きMVNOの方々とはお話をしています。恐らくあと1社、近々ご案内できるのではと思います。
―― あとは量販店ですね。
林氏 量販店さんでのタッチポイントも、増やしていくつもりです。多くのお客さまは、写真や展示会でしか触れる機会がありません。ぜひ、VAIO Phone Bizを触っていただき、その良さを体感していただければと思います。
―― VAIO Phone Bizは初めて作ったスマートフォンですが、PCと違って苦労した点はありますか。
林氏 いっぱいあります(笑)。ハードに関しては、何年も経験しているので、そこに苦労は感じていません。ただ、通信というものに対しては、本当に経験が少なかった。先ほどのIOTもそうですが、恥ずかしい話、専門用語も知らないままやろうとしていました。そこも探りながらです。一方で、ちゃんとしたものを作りたいという要望も強く、意欲ばかりがありました(笑)。さまざまな有識者や、専門家、ODMに加えて、ドコモさんにもものすごく協力していただき、その中で実現することができました。
―― Windows 10 Mobileに関しては、まだまだ未完成なところがあると思います。この点、VAIOさんからフィードバックするようなこともあるでしょうか。
戸國氏 常にやっています。バグを出したり、希望を直接ぶつけたり、こういったアプリを置けないのかというようなことも言っています。
岩井氏 個人的には、ATOKを使いたいですね(笑)。
―― 文字入力は、まだサードパーティーにも開放されていませんからね。最後に、ちょっと気が早いかもしれませんが、後継機などはすでにお考えでしょうか。
岩井氏 今、まさに考えているところで、現状ではチーム内で議論をしているところです。具体的には申し上げられませんが、まずは今のBizのラインを定番としてできるだけ続けていく。あとは、そのバリエーションに、どれだけのニーズがあるのか。1号機を売りながら、その反響を見て考えていきたいと思います。実際、もっと小さいのが欲しいという声や、逆にもっと大きい方がいいという声もいただいていますが、(VAIO Phone Bizが)まだ何台売れるか分かりませんからね。
取材を終えて:法人をメインターゲットにする戦略は合理的
監修だけにとどまり、「これじゃない」と大炎上した初代VAIO Phoneに対し、VAIO Phone Bizは、VAIOが一からきちんと設計した端末だ。ODMに製造を任せている点はどちらも同じだが、設計やデザインはもちろん、アンテナの選定などの細かな部分まで、VAIOが関与している。その上で、最終的な検品やOSのインストールは、安曇野FINISHで行っている。製造までVAIOが一貫して手掛けているわけではないが、こちらこそが、「真のVAIO Phone」といえるだろう。
当初は法人をメインターゲットに据えた戦略も、合理的だと感じた。Windows 10 Mobileはまだ立ち上がったばかりのOSで、個人ユーザーが楽しめるようなアプリが少ない。これまでiPhoneやAndroidに慣れ親しんできたユーザーが、いきなり乗り換えるには少々ハードルが高いのだ。一方で、法人市場であれば、Microsoftのサービスとの親和性の高さが生かせる。まだ検証が始まったところだが、Continuumを取り入れようとしている企業もあると聞く。
このVAIOの狙いを考えると、ドコモのIOTを取得したのは正解だ。同社の法人営業が扱えることで、販路も広がりそうだ。“VAIO Phoneショック”から、約1年。ようやく登場したVAIO Phone Bizで、VAIOも日本のスマートフォン市場に足掛かりを築けそうだ。
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ついにベールを脱いだ「VAIO Phone」だったが、フタを開けてみたら、VAIOらしさの感じられないごく普通のスマートフォンだった。ネットでは大炎上し、よくも悪くも話題を振りまいている本機の疑問点を挙げていきたい。
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