進化と拡大の中でのダウンサイジング――iPhone SEと新型iPad ProにAppleの原点を見た(3/3 ページ)
Apple本社の通称“キャンパス”のタウンホールで、同社の新商品発表会が開催された。このタウンホールで開催された最後のイベントで、iPhone SEと9.7型版iPad ProというAppleの原点を感じさせる製品が発表されたことに、同社の変わらぬ哲学を垣間見た気がした。
9.7型版iPad Proは、iPadの本流を目指す
そして今回の発表会で真打ちとなったのが、9.7型の「iPad Pro」である。既報の通り、これは2015年11月に発売された12.9型iPad Proを小型化したものであり、iPad Air 2のサイズにiPad Proの高性能を詰め込んだものになる。
「9.7型は当初から最も人気の高いサイズであり、Appleでは9.7型のiPadを2億台も売っている」(Apple ワールドワイドマーケティング担当 シニアバイスプレジデントのフィリップ シラー氏)
iPad Proの12型モデルは、ハイエンドなプロやプロシューマー向けの製品だった。しかし、今回の9.7型iPad ProはiPadシリーズの本命であり、iPad Air 2の後継としてiPad市場全体をけん引することが期待されている。それだけに9.7型iPad Proには、破格ともいえる性能と機能が用意されている。
まず心臓部となるCPUは、12.9型iPad Proと同じ「A9X」。これは“プロ仕様”のグラフィックソフトやCADソフトをiPad Pro上で動かすことを前提に開発されたものであり、Appleが「ほとんどのポータブルPCよりも動作が速い」と豪語するものだ。ティム・クック氏も、このA9Xを搭載したiPad Proシリーズから「PCユーザーにとっても、PCを置き換えるのに最適なデバイスだ」と語っている。
そして、iPad Proではディスプレイも一新された。9.7型(2048×1536ピクセル)である点はiPad Air 2と同じだが、環境センサーで周囲の状況をモニタリングし、画面の色合いや輝度を自動調整して自然な表示を行う「True Tone Display」を搭載。またApple Pencilを使うためのカスタム・タイミング・コントローラーも内蔵された。Apple Pencilとの組み合わせで実現されるペン入力の書き心地は、まさに“紙に書いているような自然さ”である。
iPad Proのもう1つの特徴であるスマートキーボードにも対応。こちらも12.9型版と仕様は同一のサイズ違いであり、スマートコネクタによる接続やキータッチなどは9.7型版でも変わらない。唯一違うのはキー同士のピッチの部分であり、サイズが小さい分、9.7型版iPad Pro用の方はコンパクトキーボードっぽい使い勝手である。
他にも、4つのHi-Fiスピーカー搭載や1200万画素のiSightカメラ搭載など、9.7型と小型化されたからといって、機能・性能面での妥協は一切ない。
「シンプルに無駄なく」というAppleの原点
いみじくも今回発表されたiPhone SEと9.7型iPad Proに共通するのは、ハイエンドモデルの性能を維持したままサイズを小さくするダウンサイジングだった。無論、この2つをもってAppleや市場のトレンドが小型化に進むとは思わないが、スマートフォンやタブレットの進化がサイズ拡大と同義だった中で、一定の“ブレーキ”がかかったのは特筆すべきところだろう。
振り返れば、かつてのAppleはやみくもなサイズ拡大を好まない傾向が強かった。必要な要素をうまく取捨選択し、シンプルに無駄なく、最良なバランスのサイズを見つけるのがうまかったのだ。そう考えると、今回のダウンサイジングは単なるラインアップの拡充以上に、Appleにとって原点の再確認ともいえる。
発表会の最後にティム・クック氏は、「これがタウンホールで行われる最後のイベントになるだろう」と語った。Appleは現在キャンパス2と通称される新社屋を建設中であり、そこにはタウンホールよりも巨大でモダンなイベントスペースも用意されるという。それが完成すれば、タウンホールが歴史の現場になることはない。
新社屋と同様に、Appleという会社が新しい時代に進んでいるのは間違いない。だがタウンホールで開催された最後のイベントで、iPhone SEと9.7型版iPad ProというAppleの原点を感じさせる製品が発表されたことに、同社の変わらぬ哲学を垣間見た気がした。
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