同じ垂直統合でも戦略は対照的――「FREETEL」と「TONE」が目指すもの:石野純也のMobile Eye(11月21日~12月2日)(1/2 ページ)
MVNOが台頭する中、あえてハードウェアからネットワークまでを一手に手掛ける異色のMVNOも登場した。FREETELとTONEは、ネットワークから端末、店舗を一手に手掛ける。実は対照的ともいえる両者の違いを読み解いていく。
スマートフォンの台頭に伴い、キャリアが端末開発に関与する度合いは、以前より減っている。ネットワークやサービスなどの仕様を決め、メーカーに対応を求めることはあるが、グローバルモデルに関しては、デザインなどの大きな変更はなく、メーカーブランドの端末がそのまま発売されることも多い。
MVNOでは、端末とネットワークが、より切り離されているのが一般的だ。端末を取り扱っているキャリアでも、用意しているのはメーカーブランドのスマートフォンで、カスタマイズもアプリがインストールされている程度にとどめられている。小規模なMVNOの場合、端末の取り扱いがないことも多く、ユーザーは家電量販店などで別途購入する形となる。
こうした中、あえてハードウェアからネットワークまでを一手に手掛ける異色のMVNOも登場した。その1社が、プラスワン・マーケティングのFREETEL。同社はもともと、SIMロックフリー端末を手掛けていたベンチャー企業で、その後、MVNO事業も始めてネットワークまで提供するようになった。もう1社が、トーンモバイルのTONEで、こちらはほぼ1機種、1料金プランで、分かりやすさを訴求している。
ある意味、垂直統合的にサービスを提供するFREETELとTONEだが、戦略は対照的だ。FREETELは「フルラインアップ戦略」を掲げ、ローエンドからハイエンドまで、多数の端末を発売している。これに対し、TONEは、1モデルを「1年半ぐらいと考え、動かしてきている」(代表取締役社長、石田宏樹氏)。ハードウェアのバリエーションに重きを置くのがFREETEL、ハードウェアは器と考え、その上でのソフトウェア開発を強みにしているのがTONEといえるのかもしれない。
両社がスタートする新たなサービスから、戦略の違いを読み解いていきたい。
「スマートコミコミ」で他社端末の提供も開始するFREETEL
FREETELは、10月にスタートしていた「かえホーダイ」の内容を刷新し、「スマートコミコミ」として提供を開始した。ベースとなっていたかえホーダイは、スマートフォンのアップグレードプログラムと料金プランがセットになったサービスで、最短半年で機種変更できるのが特徴だった。料金には端末代、通信料、無料通話、端末補償、データ復旧サービスが含まれており、同社の「Priori 3」で、データ容量の最も少ない「XSプラン」を選んだ場合の月額料金は1790円からと設定されていた。
これに対し、スマートコミコミは、データ容量ごとに異なっていた無料通話を5分間の音声定額に変更したうえで、故障時にも端末を機種変更できるように改善したプランとなる。最短半年で機種変更できるというかえホーダイの特徴はそのままだが、料金プランには、使ったデータ量に応じて段階的に課金される「使った分だけ安心プラン」も選べるようになった。わずか1カ月強でパッケージの中身を変え、それに合わせて名称も変更したというわけだ。スマートコミコミは、使った分だけ安心プランを組み合わせられるようになったことで最低料金がさらに下がり、Priori 3を選んだ場合は1590円からになった。
それ以上に大きな変化が、セットで選べる端末にある。もともとのかえホーダイではFREETELの端末のみが対象だったが、スマートコミコミでは「他社の端末も選べるようにした」(増田薫社長)。具体的にどの機種が提供されるかは正式に発表されていないが、会見では、ASUSやHuaweiの端末が紹介されており、SIMロックフリースマートフォンの主力メーカーが名を連ねたことになる。増田氏によると、かえホーダイは「FREETELの端末とSIMがセットになっていることに気づいた。そのままでいくと、縛りをつけてしまうことになり、うちのポリシーに反していることに気づいた」という。
FREETELのビジネスモデルは「垂直統合型で、ハードと通信、アプリを1社でやっている。そこは今も変わっていないし、今後も変わらない」(増田氏)。一方でユーザーに対しては、「縛って提供したことは1回もない。楽天のSIMでも他社のSIMでも構わない」といい、あくまで端末と回線の組み合わせの決定権はユーザーに委ねている。スマートコミコミで他社端末の提供に踏み切ったのは、セットプランでもその方針を貫くためだ。
ただ、キャリアとしてのFREETELにとって、他社製端末の提供は初になる。以前から、端末とSIMカードを自由に組み合わせることはできたが、ユーザーからは、幅広いメーカーのラインアップを持つ、他のMVNOに近づいたようにも見えるはずだ。他社端末の比率が増えると、端末と通信を密接に連携させるのも難しくなってくるはずだ。例えば、現状では「FREETEL UI 2.0」の一環として、標準の電話アプリから「FREETELでんわ」で発信できるようになる予定だが、端末が他社製となると、ここまでのカスタマイズは難しくなる。
もっとも、FREETELの端末はもともと、サービスと密接に連携した作りにはなっていなかった。端末の一部は他のMVNOでも販売されているため、FREETELならではのサービスを入れ込みづらい側面はある。他のMVNOと同様、FREETELの端末も選択肢の1つでしかないため、差別化の材料にもしづらい。垂直的にビジネスを手掛けているが、端末とネットワーク、サービスが個別に提供されており、垂直“統合”まではされていないという見方もできそうだ。他社端末の販売を行うことで、組み合わせが増し、よりオープンな形になったともいえそうだ。
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