同じ垂直統合でも戦略は対照的――「FREETEL」と「TONE」が目指すもの:石野純也のMobile Eye(11月21日〜12月2日)(2/2 ページ)
MVNOが台頭する中、あえてハードウェアからネットワークまでを一手に手掛ける異色のMVNOも登場した。FREETELとTONEは、ネットワークから端末、店舗を一手に手掛ける。実は対照的ともいえる両者の違いを読み解いていく。
1機種を磨き込むTONEは音声定額や子ども向けサービスを拡充
端末を自社で開発しつつ、MVNOとしてはオープンな方向を目指すFREETELに対し、TONEは垂直統合を強く志向するMVNOだ。「端末自体を自社で作っている。それも1機種。10機種ではなく、1機種で10倍のコストをかけて作る」(石田氏)というのが、TONEの方針。ソフトウェアまで徹底的にカスタマイズしており、端末と回線はセットで提供する。他社のSIMロックフリースマートフォンの販売も「軸がぶれる」(同)という理由で行っていない。そのTONEが重視しているのが、「端末のスペックよりも顧客価値」(同)だ。
現行の主力モデルは、2015年に発売された「TONE m15」。7月に合計28項目に及ぶ大型アップデートをかけ、その結果として「端末への満足度もアップしている」(石田氏)。ハードウェアの種類を増やすのではなく、ソフトウェアでバリエーションを出すというのがTONEの方針。子どもに持たせることを想定した機能制限や、シニア向けのシンプルなユーザーインタフェース(UI)などは、全てTONE m15の中に入れ込んでいる。発想としては、iPhone1機種で幅広い層をカバーするAppleに近い。
多モデル展開する方向性については、「端末数を増やすと夜も眠れない資金繰りになってしまう(笑)。エグゼモード(石田氏がかつて手掛けたハードウェアベンチャー)でそれは懲りた」と否定的だ。大手キャリアと比べるとリソースが限られるMVNOが端末を増やそうとすると、SIMロックフリースマートフォンメーカーから調達せざるをえなくなる。そうなると、端末はどうしても横並びになりがちで、差別化が難しくなる。1機種に集中しているのは、大手キャリアに比べるとリソースの乏しいMVNOならではの戦略といえるだろう。
端末から回線、サービスまで、全てを1社で手掛けることで、バラバラだと提供が難しい機能も実現している。12月のアップデートでスタートした「あんしんインターネット」はその1つだ。あんしんインターネットは、フィルタリングサービスと一体になったブラウザで、開発には1年半をかけ、「ファームウェアまで作り込んでいる」(石田氏)という。単なるアプリとして作ると、「子どもに解除されてしまうおそがある」からだ。
あんしんインターネットは、閲覧制限機能をネットワーク側から親が設定できるだけでなく、子どもがどうしても見たいサイトがある場合は、“おねだり”することもできる。子どもから、制限解除のリクエストを受けた親が個別に判断して、そのサイトを見せるかどうかを決められるため、「ご家庭の形に合わせて運用できる」(石田氏)というわけだ。
TONE m15に搭載されたIP電話アプリにも、端末とネットワークを垂直統合的に提供するメリットが生かされている。「IP電話の(品質を保つうえで)一番の問題がWi-Fiだった。Wi-Fiにはさまざまな環境があり、変なものをつかんでしまうと着信もできない」(石田氏)という欠点を解消するために、このアプリは、Wi-Fi接続時でも、強制的にLTEで通信を行う仕様になっている。もちろん、LTEも無線区間の混雑などはあるため、100%というわけにはいかないが、Wi-FiよりはTONE側で品質を管理しやすくなる。
このIP電話アプリにもアップデートがかかり、月額700円(キャンペーン時は500円)で、最大10分までの通話が無料になる音声定額を開始した。「お子様とシニア層、ファミリー層が多い」(石田氏)という同社のユーザーは電話を使う頻度も高く、定額プランのニーズが高かったためだ。こうしたユーザー層が安心して使えるよう、定額が終わる30秒前の9分30秒で通知音を鳴らす機能も搭載した。
同じ垂直統合のビジネスモデルを目指すFREETELとTONEだが、その方向性は真逆だ。オープンを志向し、他社端末の提供にも踏み切ったFREETELに対し、TONEは1機種1料金を貫き、地道にユーザーを増やす方針を変えていない。当然、どちらにも一長一短がある。FREETELの場合、端末のバリエーションが多く、幅広いユーザーを狙うことができる。ハードウェアの進化にキャッチアップしやすいのも、メリットといえるだろう。逆に、TONEほど、ネットワークレイヤーやアプリレイヤーと端末が密接に連携したサービスは、提供できていない。
対するTONEの場合、端末、回線、アプリをバラバラで提供している以上のサービスを実現できる一方で、ハードウェアのバリエーションが限られてしまい、新機種の提供スパンも長くなるため、どうしても店頭の変化が出しづらい。代わり映えがしないと思われてしまうと、ユーザーが店頭から遠のいてしまう恐れもあり、実際、MVNOの主要ユーザーである30代、40代の男性層が手薄になっている。現時点では、どちらのビジネスモデルが正解かは見えていないが、単に料金を安くする“格安スマホ”にとどまらない異色のMVNOとして、今後の動向にも注目しておきたい。
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