インタビュー

ソフトバンクSIMを提供する日本通信の勝算は? 福田社長に聞くMVNOに聞く(1/3 ページ)

MVNO市場を切り開いてきた日本通信は、MVNE戦略に軸足を移しつつ、ソフトバンク回線を使ったサービスも提供。8月16日には音声SIMの提供を始めた。同社はソフトバンク回線の目標を「100万」に定めているのが、勝算はあるのだろうか?

 いち早く参入し、時には総務省とタッグを組んでMVNO市場を切り開いてきた日本通信。さまざまなサービスを他社に先駆け提供してきたが、「格安スマホ」や「格安SIM」という言葉が普及するにつれ、競争も激化し、MVNOとしての存在感は徐々に小さくなってきていた。誤解を恐れずいえば、販売力やブランド力という点では、後発のMVNOに見劣りするのも事実だ。

 こうした市場での立ち位置を踏まえ、同社は一般ユーザーに直接サービスを提供するMVNOから、MVNOを支援するMVNEに戦略の軸を移している。同時にコンシューマー事業のb-mobileはU-NEXTとタッグを組み、技術面での支援を行う枠組みに移行。一方で、MVNEとして市場を広げるため、ドコモだけでなく、ソフトバンクからもネットワークを借りることになった。

 当初はデータ通信だけだったソフトバンク回線を使ったサービスも、8月からは音声通話の提供を開始。MNPも可能になり、ようやくMVNOとしての体裁が整ってきた格好だ。ただ、ソフトバンク回線の目標は早期に100万と、非常に高い。日本通信の勝算はどこにあるのか。福田尚久社長が全貌を語った。

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日本通信の福田尚久社長

データと音声の同時スタートは難しい

―― ソフトバンクの音声通話まで含めたサービスが始まりました。ようやくといった感じですね。

福田氏 ようやく(溜息)……ですね。本当に長い時間がかかりました。一番(の原因)は接続義務があるのに応じていただけなかったところで、命令申し立てがあったのは、まさにそういう部分です。ドコモとの大臣裁定が2007年にあり、当時と法律は同じなのでずっと前に実現していてもおかしくない話ではありました。ただ、そこに対してもキャリアごとに考えがあり、相当な時間をかけ、協議しないといけないというのが現実です。


8月16日から提供している、ソフトバンク回線の音声SIM

―― データ通信から音声通話提供まで、半年弱の時間がかかっています。

福田氏 これについては、むしろ早かったと思っています。ドコモさんとのときには、(音声通話提供まで)2年ちょっとかかっていますから。データ通信は相互接続でやっているので、応諾の義務がありますが、音声通話は卸契約のみで、各キャリアにその義務がありません。義務があれば、強引にやることで……相当強引にやってきましたが(笑)、道は開かれます。周りから見ると音声の方が“戦い”に見えるのかもしませんが、実際にはお願いするしかありません。その部分に関してはドコモで2年ちょっとかかっていますが、それと比べると今回は比較的早く実現できたと思っています。

―― データ通信と同時に提供開始というのは難しいのでしょうか。

福田氏 あちらからすると応じる義務はないので、必ずデータ通信が先行せざるを得ません。物事には順番があります。2月の決算説明会で「ソフトバンクのデータ通信を始めます」と言ったときも、一番言われたのは「音声がないのか」ということです。ご質問もいただきましたが、音声がないのは困ると一番分かっていたのは、たぶん私だと思います(笑)。ただ、義務とお願いだとどうしても一緒にはいかない。下手をすると(ドコモのときと同様)2年先になっていてもおかしくはありませんでしたが、今回はそれなりにいいタイミングでローンチできました。

―― データ通信でソフトバンクと見解の相違があった点として、SIMカードを設備と見なすかどうかという議論があったと思います。これについて、あらためて伺いたいのですが。(※2017年1月に、電気通信紛争処理委員会が総務省に対して、日本通信からソフトバンクへの協議再開を命じた件。詳細はこちら

福田氏 (ソフトバンクは)設備ではないと主張されましたが、本気でそう思っていたのか。総務省も私どもも疑問に思ったところです。相互接続というのは、アクセス網をつなぐことですが、全てのアクセス網につなげなければ意味がありません。固定網で、NTT東日本と電話接続しても、ある地域までしかつなげないとなったらおかしいですよね。そこからすると、SIM(の種類でつなげる端末が変わるのは)はおかしい話ですし、議論がすり替わっていると感じました。ただ、実際問題には争点にもなっていません。協議の間にSIMは設備ではないと主張されたことはありませんでした。命令申し立ての中で、初めてそういった見解が出てきたのです。

―― 一方で、早期実現のためにも、ソフトバンクiPhone以外がつなげるSIMカードで始めるという選択肢はなかったのでしょうか。

福田氏 それもありましたが、ドコモの格安SIMの場合は、ドコモと契約している端末でSIMを変えただけで安くなるというのがメリットで、SIMロックを解除しなくても使えました。お客さまの中には、それと同じような形での期待があります。当然そうやっていくのが自然だと思いました。

SIMロックを外せることを分からない人も多い

―― 同時に6s以降のiPhoneはSIMロックを外せるため、SIMロックを外さず使える意義が日を追うごとに薄れている印象もあります。

福田氏 それはそうだと思います。ただ、これは私どもの試算ですが、今日の段階でもだいたい900万台ぐらいのiPhone、iPadがSIMロックを外せない状態で利用されています。そういった方々には、選択肢がない。これが10万人ぐらいなら別ですが、今は1000万人近くいる巨大な市場です。また、6s以降のiPhoneでも、ロックを外せるのかどうか、ちゃんと分かっているお客さまは少ない。今私どもに入ってくる問い合わせでも、「iPhone 7は使えますか?」というものが多くあります。業界側にいると(SIMロック解除のことは)分かるのかもしれませんが、一般の方だとまだそうではないというのが現実です。

 SIMロックがかかっているのかどうかよく分からない方でも、ソフトバンクのiPhoneに挿せば使えるというのは、非常に分かりやすいメッセージです。ですから、以前よりサービス提供の意義が薄れたかといえば薄れましたが、意味がないほどに薄れたわけではないと考えています。むしろ(SIMロック解除を)知っている方の方が少数派で、それを考えると、まだまだ大きな市場だと思っています。

―― SIMロック解除だけでなく、その間にY!mobileも勢力を拡大しています。正直、邪魔だなと思うことはありませんか。

福田氏 それは思いますよ(笑)。むしろ、今(MVNOで)思わない人はいないと思いますし、総務省も問題視し始めているところです。最終的にY!mobileには何らかの規制が入ることになるとは思いますが、それはあくまで総務省がやること。お客さまからすると、(ソフトバンクからY!mobileへ移っても)端末は買い替えなければいけないですし、そういったところはボトルネックになっています。

 先ほど申し上げたように、iPhone 6以前のユーザーも900万人いますから。もちろん端末を買い替えてY!mobileに行くという選択肢もありますが、逆に、自分でSIMカードだけ変えればいいというのであれば、それを使う選択肢もあります。影響は確かにありますが、端末代もそれなりに高くなっています。買い替えなければいけないというのは、それなりに影響があると見ています。そのために格安SIMなら半額になることはきっちりアピールしていますし、おかわりSIMと同じ仕組みが入っているので、1GBから5GBまで料金が自動で変動するのもメリットです。


iPhone 6/6 Plus以前のiPhoneはSIMロックを解除できない。これらのユーザーは日本に900万人ほどいるという

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