“レイヤー2接続”が生む高い付加価値――日本通信が「Doccica」で挑む新MVNOビジネス(2/2 ページ)
日本通信が発表した3G+無線LANの通信サービス「Doccica」。シームレスなマルチアクセスをシンプルかつ低価格で提供できた秘密は、ドコモとのレイヤー2接続にあった。三田社長は「これからが本来のMVNOビジネス」と意気込みを見せる。
分かりやすい時間従量制を採用
Doccicaは、端末と500分の初期利用分(5000円相当)を含めて1万4800円という価格で販売される。最初の500分を使い切った場合は、1000円から1万円の範囲で料金をチャージして継続利用できる。
他社のデータ通信サービスのほとんどは、1パケットあたりの料金を元にした料金制となっているが、三田氏は「現在のパケットは分かりにくい。どれくらい使ったかすぐに分からない料金制度は不親切で、こういう環境は変えるべき」と指摘する。また、定額料金プランについても、「いくらでも使えるからと常につなげっぱなしにしたり、使っていなくても料金を負担しなくてはならないなど、無駄が多い。そこで、前払いで使った分だけ引き落とされる『Suica』をモデルに、Doccicaの料金プランを考えた」と説明する。
「Suicaは、どれくらい使ったかが駅と駅の距離感で判断できる。料金はプリペイドなので、突然高額の請求が来ることがない。Doccicaも、時間(分)という体感できるものをベースにしたプリペイド式だ。追加料金も帯域を効率的に使うことで、安く提供できる。ノートPCでメールを送受信し、Webサイトを閲覧するという一般的な使い方なら、(現在最安値の)イー・モバイルと比較しても、10分の1の接続料金だ」(三田氏)
また同社セールス バイスプレジデントの沢昭彦氏も、「定額料金制は毎月の出費が固定されるので安心だが、使わなくても支払う必要があり、それが定額最大のデメリットだ。また、ほとんどの場合2年間契約が必須で、この見通しの悪い市況では敬遠されることも多い」と指摘。最低料金と上限額が定まっている2段階定額プランについても、最低料金を超えた場合は割高になることや、いわゆる“100円PC”についても「多少の安心感はあるが、実は高い買い物」と分析する。
「パケットやデータ量をもとにした料金制度はそもそも分かりにくい。例えばイー・モバイルさんのスーパーライトデータプランは、最低料金が2万3825パケットで1000円だが、有名企業のトップページを6つみただけで2万5000パケットを超えてしまう。Webコンテンツはアクセスして初めてデータ量が分かる世界。ユーザーがコントロールできない範囲で、突然高いパケット料金を請求されることもある。こうした定額制と従量制の欠点を解決するのが、Doccicaのチャージ式時間従量制だ」(沢氏)
「Doccica」は、マルチアクセスサービスのファミリーネーム
Doccicaの特徴は3G接続に加え、ホットスポット(NTTコミュニケーションズ)、BBモバイルポイント(ソフトバンクテレコム)、FREESPOT(FREESPOT評議会)、エアポートネット(成田国際空港/空港情報通信)が提供する全国約1万5000カ所の公衆無線LANスポットも利用できることだ。
三田氏は「“Doccica”とは、日本通信が提供するマルチネットワークアクセスのファミリーネーム(シリーズ名)。マルチネットワークは今後、日本通信のコア事業になる。それは、場所によって通信サービスに得意不得意があるからだ。今回はFOMAと無線LANだが、将来的にEV-DO(CDMA2000)やWiMAX、次世代PHS(XGP)、LTEなどとの組み合わせも考えられるだろう」と、同シリーズのラインアップ拡充に意気込みを見せた。ただし、CDMA2000についてはKDDIとの接続できていないこと、また商用化直後のWiMAXとXGPについては接続料金が高額になることが予想されることから、次世代規格を組み合わせたDoccicaのハードルは高そうだ。
ただWiMAXを使うキャリアについては、全国をサービスエリアとするUQコミュニケーションズだけでなく、出力が小さい地域WiMAXも存在する。日本通信は地域限定のMVNOサービスであるふるさとケータイ事業を進めており、その経緯でいくつかの地域WiMAX事業者と協議を行っているという、そのため「(UQよりも)地域WiMAXとの協業のほうが早く進むかもしれない」(三田氏)。
また沢氏は、「ドコモ網は日本最強であり世界最強。人口カバー率がHSPDA対応エリアでも100%と広く、これは類を見ない。同じW-CDMAを使うソフトバンクモバイルさんも全国展開をしているが、基地局数やHSPDA対応エリアが限られるなど、差がある。イー・モバイルさんもかなりエリアを広げているが、基地局数がまだまだ少ない」と、ドコモ網を使うメリットを強調した。
シームレスに3Gと無線LANにアクセスできるDoccicaを支えるのが、専用の接続ソフト「bアクセス」だ。同社 常務取締役CMO兼CFOの福田尚久氏は、「Doccicaが何の設定もなく3Gと無線LANに接続できるのは、bアクセスが端末の固有識別番号とノートPCのハードウェア構成からIDとパスワードを自動で生成し、RADIUS(認証)サーバに送っているから。従来のレイヤー3接続では、ユーザー認証を(転送先で行う)RADIUSプロキシを使うしかなかった。レイヤー2接続では自前のRADIUSサーバなので、こうしたことができる」と、bアクセスの特徴をアピールした。このIDとパスワードを自動生成する仕組みは、現在特許を申請しているという。
bアクセスにはほかにも、クレジットカードによるオンラインチャージやヘルプデスクなどのサポート情報、電波状況をアンテナで表示する機能、あらかじめ設定した時間で自動的にネット接続を切断する機能が追加された。
先行する「b-mobile3G」との違いは?
先述のとおり、日本通信はすでにドコモ網を使ったMVNOサービスのb-mobile3Gをスタートしている。レイヤー2とレイヤー3の違いはあれども、ユーザーから見れば同じようなサービスに見える。
三田氏はDoccicaとb-mobile3Gの違いについて、「b-mobile3Gは3万9900円と個人では手が出しにくい価格であり、どちらかといえばビジネス向けだ。また無線LANに対応していない点も違う。Doccicaは価格も低く、コンシューマー向け。レイヤー2接続で低コスト化できたため、できるだけ安く提供することを考えた」と説明する。
販売台数の目標については明言を避けたが、発売時は約5000台を用意するという。
「(端末メーカーの)ZTEは1時間で1万台を生産できる工場を持っているそうなので、品切れになるようならすぐに増産できる。そうなるように願いたい」(三田氏)
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