変化するキャリアのAndroid戦略 新機種が減り続ける理由とは:佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)
キャリア各社が商戦期ごとに発表するスマートフォンの新機種。最近はかつてほど種類も多くなく、発表会を開催しないケースも出てきた。各社の端末戦略にどんな変化が起きているのだろうか。
大きく変化するキャリアとメーカーとの関係
そうした背景からキャリアは端末の種類を大幅に絞る戦略に出ているのだが、その影響を大きく受け、苦しんでいるのがアップル以外のスマートフォンメーカーだ。「Xperia」のブランド力を高めて支持を得たソニーモバイルコミュニケーションは比較的健闘しているが、2013年はパナソニック モバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズがコンシューマー向けのスマートフォン市場から撤退するなど、ほとんどの国内メーカーは総じて厳しい状況にある。
厳しい状況に追い込まれているのは国内メーカーだけではない。スマートフォン黎明期に、性能の高いハイエンドモデルとドコモとの強力なタッグで「GALAXY」を強いブランドに育て上げてきたサムスン電子でさえ、Androidスマートフォンの没個性化の波にのまれたうえ、NTTドコモがiPhoneに注力したことで販売面での支援を受けづらくなったことから、存在感を急速に低下させている。アップル以外の海外メーカーも、総じて厳しい状況にあるのだ。
そうしたことからメーカー側も、日本市場での生き残りをかけて戦略を大きく変更するケースが目に見えて増えてきた。中でも非常に大きな動きとして注目されたのが、LGエレクトロニクスの戦略変化である。同社はフィーチャーフォンの時代より、ドコモ向けを重視して端末供給をしてきたメーカーの1つ。だが2013年にドコモが実施した、特定の2機種を販売面で優遇する「ツートップ戦略」に採用されなかったことで、急速に端末販売数を落としたようだ。
そこでLGは、2013年秋モデルでKDDIと共同で開発したスマートフォン「isai」を投入、au向けを重視するよう方針を転換した。2014年の夏商戦でも、LGはauにフラッグシップモデル「isai FL LGL24」を供給する一方、ドコモ向けスマートフォンの新機種はゼロとなるなど、明確な戦略転換が見て取れる。
キャッシュバックが減少すると端末数は増える?
iPhoneを重視し端末数を減らすキャリアと、生き残りをかけキャリアから距離を置き始めたメーカー。iPhoneの好調がもたらしたキャリアのスマートフォン戦略変化は、これまで密接だったキャリアとメーカーの関係にも、大きな変化をもたらしている。
もしこの傾向に、再び変化が起きる可能性があるとするならば、それには“キャッシュバック”が大きく影響してくるだろう。2014年の春商戦にはキャリア各社が、MNP利用者に対し非常に高額の多額のキャッシュバックを付与して販売促進していたということは、ご存じの方も多いと思う。
この高額キャッシュバックで販売を伸ばしていたのはiPhone、しかもハイエンドモデルのiPhone 5sである。なぜなら、各キャリアがMNP利用者に対して多額の販売奨励金を積んだことで、多くの端末の購入代金が0円、かつキャッシュバックが付与されるという異常な販売スタイルが横行した。高額なハイエンドモデルまでもが0円で購入でき、しかも“お釣り”が来るような状況であったことから、人気の高いiPhone 5sにますます人気が集中した訳だ。
だが高額キャッシュバックの問題がメディアに大きく取り上げられたことで、春商戦の終わり頃からキャリアがキャッシュバックの額を抑制するなど、自粛ムードが広まっていった。それとともに、iPhone 5sの販売も落ち着く傾向にある。iPhoneの新機種投入が控えていることも影響しているだろうが、最近の端末販売ランキングの傾向を見ると、iPhone 5sの販売シェアが従来より落ちてきているのは明らかだ。
一方で最近では、スマートフォンに詳しくない人達を中心に、いわゆる“格安スマホ”が大きな注目が集めるなど、価格の安いスマートフォンへの人気が高まっている。それだけに今後、キャッシュバックの減少による端末の高額化の影響を受ける形で、比較的安価なモデルを中心として、再び新機種投入が活性化する可能性も十分考えられそうだ。
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