総務省の中の人が語る、MVNOの現在と未来:SIM通
1月24日に開催された第6回IIJmio meeting。スペシャルゲストとして総務省の「中の人」が登壇するとあり、250名の会場にも関わらずキャンセル待ちが出るほどの人気となりました。総務省の人が語る、MVNOの将来像をレポートします。
1月24日、IIJセミナールームで開催されたIIJmio meeting。第6回となる今回は、スペシャルゲストとして総務省の「中の人」が登壇するとあり、250名の会場にも関わらずキャンセル待ちが出るほどの人気。総務省の人が語る、MVNOの将来像をレポートします。
ゲストプレゼンターは総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 企画官の富岡秀夫氏。「加速するMVNO政策」というタイトルで講演が行われました。電気通信についての政策立案を行っているまさに「中の人」による講演ということで、大変貴重な機会となりました。
「(先週開催された大阪のイベント後)Twitterを見ていたら『総務省の人のベストが格好良い』というコメントがあったので、調子に乗って同じ格好で来ました」と切り出した富岡氏。正直、お堅い人を想像していましたが、非常に軽妙な語り口で笑いを誘っていました。
そもそもなぜ総務省はMVNOを推進しているのか?
ここ数年で大きく認知度を伸ばしたMVNOですが、その背景には総務省による後押しがあります。富岡氏はまずこの理由を解説しました。
モバイルがますます重要性を増す一方、現在の市場はドコモ、KDDI、ソフトバンクによる寡占状態であり、かつ料金もほぼ横並びで世界的に見ても高止まりしていると言います。また、本来利用料金やサービス内容で競争すべき所、高額なキャッシュバックに頼って顧客を獲得するなど、あまり健全でない競争が行われている点を問題視。また、現在は変わりましたが、以前は7GB/月のデータ容量が基本で、そこまで必要としないライトユーザー向けの廉価なプランがない、といった問題もありました。
とは言え、電波は有限の資源であり、電波の割り当てを受けるMNO(キャリア)を増やすのは非効率。そこで、MNO(キャリア)から無線通信施設を借り受けるカタチのMVNOを増やし、より良いサービス、より安価なサービスが国民に提供されるよう促す、というのが総務省の狙い。
具体的な対応策を挙げたのが下記のスライドです。
「端末の自由化」「ネットワークの自由化」「訪日外国人に対する利用促進」の3点からMVNOの発展を後押しし、競争を促すことで利用者にメリットをもたらすとしています。
次に、MVNOの現状について。興味深いのがMVNO契約数の推移を記した次のグラフです。
赤い線がMVNOの総契約数ですが、2014年6月〜9月にかけての伸び率がそれまでと比較し向上しています。これだけを見ると昨年後半からMVNOの勢いが増したように見えるのですが、これには裏があると富岡氏は話します。
黒い線と茶色の線に注目してください。これは赤い線(MVNO総契約数)の内訳にあたりますが、茶色は「BWAのMVNO契約数」。BWA(Broadband Wireless Access)とは広帯域移動無線アクセスのことで、2.5GHz帯を用いるUQコミュニケーションズのWiMAXとWireless City PlanningのAXGPがこれにあたります。この2社はMNO(キャリア)としてWiMAXとAXGPをそれぞれKDDIとソフトバンクに卸しており、KDDIとソフトバンクはMVNOとして、これらのネットワークを利用者に提供しています。
茶色の線を見ると昨年6月〜9月の伸び率が向上していますが、これはiPhone 6の影響が大きいとのこと。iPhone 6はiPhoneで初めてWiMAX 2+とAXGPに対応し、iPhone 6の販売分が「BWAのMVNO契約数」として計上されたため、このような結果となったそうです。
また、iPhone以外でも現在KDDI、ソフトバンクから発売されている端末の多くがBWAに対応しており、今後もこの伸びは加速するだろうと話されていました。
では、このWiMAXやAXGPを除いた、「純粋なMVNO」の伸び率はどうなのでしょうか。
こちらがそのグラフ。ペースは緩やかなものの、堅調な伸びを示しています。全契約数に占める比率は昨年9月末時点で5.1%。その後楽天モバイルやNifMo、DMMモバイルなど新規参入が相次いでいますので、成長率は更に上昇するものと予想されます。
SIMロック解除について
続いてSIM通的にも注目のSIMロック解除について話が及びました。
2010年度SIMロック解除ができる端末はほぼ皆無だったものの、同年6月「SIMロック解除ガイドライン」の策定に伴い大幅に増加。ですが、特にペナルティがなかったこともあり、その後ロック解除熱は冷めつつあります。それを受け、総務省では昨年12月にガイドラインを以下のように改正しました。
この改正により、SIMロック解除が実質的な義務化となりました。5月1日以降発売される端末(M2Mで使われるモジュールなど、非汎用端末は除く)に対し、無料かつ容易な方法でロック解除サービスを提供する必要があります。
なお、販売時点でSIMロックがかかっていることは問題ないとのこと。しかし、「一定期間経過後は応じること」としており、その一定期間も2年とかではなく、数ヶ月というレベルで各キャリアと調整中だそうです。具体的な方針は5月までに各キャリアから発表される予定です。
この講演に先立って行われたIIJ堂前さんによるセッション「SIMフリースマホの選び方」では、各キャリアの端末をロック解除しても、異なるキャリアで利用すると対応する周波数帯が異なるため圏外が増えてしまう、という話をしていました。この問題についても総務省で認識されていて、どの端末がどの周波数帯に対応しているか、ユーザに分かりやすいカタチで周知するようにと依頼しているそうです。
更なるネットワークの解放に向けて
下記スライドは現行のルールですが、すでにMNO(キャリア)に対し、MVNOの参入を阻害しないよう強く求めていることが分かります。その成果が現在のMVNO参入ラッシュです。ですがまだ問題点も残っているそう。例えばMVNOにより柔軟なサービス提供を可能にする「アンバンドル」。
現状拘束力がないため、MNO(キャリア)側で積極的に対応していないそうです。また、MNO(キャリア)を希望する企業からの接続請求には応じる義務が定められていますが、その手続きまでは定められていないため、MNO(キャリア)側で時間稼ぎをするといった問題があると言います。
そのような問題にも、総務省では電気通信事業法の改正を通しメスを入れようとしています。MVNOが求めるアンバンドルに迅速に対応すること、手続きに関しても規定を整備し意味なく遅延することのないよう求める方針です。
「アンバンドル」が可能になるとどうなるの?
あまり馴染みのない「アンバンドル」。これが認められるとどんなサービスが可能になるのでしょうか。その一例として富岡氏が挙げたのが、HLR/HSS。一言で言えば携帯番号や所在地、契約状況などを管理するデータベースです。
現在MVNOはこのHLR/HSSを独自運用出来ない状況にあります。MNO(キャリア)がこの部分を切り離して(アンバンドルして)くれないため、MVNOは顧客情報に関してはMNO(キャリア)に頼らざるを得ません。
MVNOがHLR/HSSを運用可能になると、上記スライドのように状況が大きく変わります。例えば1つのSIMでドコモとソフトバンク両方のネットワークが利用できるようになったり、MNO(キャリア)のプランと同様の音声通話割引サービスが提供可能になるとのこと。MNPした際のSIM即日発行やAPN自動設定機能も魅力的ですね。
ですが、これはまだ理想像。まずは当事者であるMNO(キャリア)とMVNO間で協議を進めて頂き、うまくまとまればガイドラインに追記する形で後押ししたいとのこと。ただMNO(キャリア)側は渋い顔をしているそうで、今後の展開に要注目です。
訪日旅行客にも国内SIMを!
最後は訪日外国人を対象とした、国内発行SIMの利用促進について。
今日でも訪日外国人向けSIMカードは販売されていますが、量販店まで来ないと買えなかったり、購入後もAPN設定が必要だったりと、空港で簡単にSIMが買える他国と比較しハードルが高いのが実情。またいわゆる「技適問題」もあり、日本の基準を満たしていない端末をどう扱うか、法が追いついていない部分もあると言います。
これらの問題については業界団体および総務省において鋭意検討中。なお海外端末の国内利用について、外国人の利用のみならず、国内在住の日本人が利用した場合の合法化についても検討しているとのこと。
総務省では、2016年MVNO契約数1,500万件を目指すとしています。5月のSIMロック解除義務化を皮切りに、より一層MVNOが浸透すると予想されます。健全な競争による業界の発展を期待しましょう!
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