Appleらしい「ユーザー体験の再発明」――iPhone 6s/6s PlusとiPad Proが作り出す新たなスタンダード:神尾寿のMobile+Views(2/3 ページ)
2015年のApple新商品発表会では、iPhone 6s/6s Plusをはじめ、iPad Pro、Apple Pencil、新しいApple TVといった多彩な製品が披露された。今回の発表で、Appleは世界に何を示したのか。あらためて振り返ってみたい。
新Apple TVは「テレビを再発明する」
「AppleはiPadの画面を大型化するだけでなく、リビングルームにあるもうひとつの大きな画面も変える。テレビだ」(クック氏)
その言葉とともに、Apple TVのロゴがスクリーンに映し出される。2012年以来3年ぶりにリニューアルされた新Apple TVである。
「Appleはテレビの未来はアプリにあると考えている。重要なのは、高性能なハードウェアであり、モダンなOSであり、新しいユーザー体験。そしてソフトウェア開発環境だ」(クック氏)
iPhone、iPad、Mac、そしてApple Watch。Appleが切り開いてきた「アプリによって可能性と市場を開く」というコンセプトを、今度はテレビにも適用する。新Apple TVはその戦略製品という考えである。実際、今回発表された第4世代Apple TVはその重責を担うに遜色ないできばえだ。
まず大きく変わったのが、UIデザインであり、そこから生じるユーザー体験だ。リモコンが基本UIとなるのはこれまでと同様だが、今回のApple TVではタッチ操作を実現するTouch Surfaceを搭載、音声入力Siriへの対応、ジャイロセンサーや加速度センサーにも対応した。これにより新しいApple TVでは、iPhoneやiPadに近い操作感覚を実現している。
コンテンツ/アプリの面では、映画や音楽といったAppleのコンテンツストアへの対応はもちろん、App Storeにも対応。新たにiOSベースのtvOSが用意され、Apple TV向けにさまざまなアプリが開発・配布できるようになった。これまでもHuluなど一部の動画配信サービスはApple TV側でサポートしていたが、今後はより自由にApple TV向けにアプリを開発し、サービスを提供できるようになる。
すでにNETFLIX、Huluなどが名乗りをあげているが、例えば日本では、ドコモがアプリさえ用意すれば、「dTV」や「dアニメストア」などをApple TV向けに提供することも可能だ。このようにローカルなコンテンツ配信サービスでも、アプリを通じてApple TV向けにサービス展開できるようになるのは注目といえるだろう。
ハードウェア性能の向上と、それによって実現可能になったゲーム機としての役割も注目だろう。新Apple TVはiPhone 6/6 Plusで採用された64ビットA8チップを搭載。これにより3Dゲームも存分に動かせる性能になった。また新たなリモコンはタッチ操作だけでなく、ジャイロセンサーや加速度センサーに対応しているため、より直感的な操作が可能だ。本格的なゲームがしたければ、Bloutoothの他社製ゲームパッドを使うこともできる。Game Centerでユーザー認証を行うことで、iPhone/iPadでプレイ中のゲームの続きを、Apple TVで行うといったことも可能になるという。
スマートテレビは多くのテレビメーカーが模索し、様々な提案が行われている分野だが、Apple TVのそれは「iPhone/iPadで培ったエコシステムの傘をテレビにも広げる」形で行われることが特徴だ。ハードウェアの主要部品もiPhone譲りならば、tvOSもiOSの派生バージョン、コンテンツストアやアプリストアも従来の延長線上だ。そこにはiPhone/iPadで蓄積された膨大な資産やノウハウがあるため、開発環境やサービス展開に無理がなく、この分野のスタンダードに一気に上りつめる可能性が高い。満を持して登場する新Apple TVは、名実ともに「テレビを再発明する」可能性が高いといえるだろう。
3D Touchがもたらす変化と優位性
「昨年発売したiPhone 6とiPhone 6 Plusは世界中で売れた。グローバルでのスマートフォン市場が約10%の成長だったのに対して、iPhoneの成長率は約35%になった。iPhoneは最もポピュラーな電話であり、最も人々に愛された電話になったといってもいいだろう」(クック氏)
iPhone 6/6 Plusがマーケティングとセールスの両面で大成功だったのは、クック氏が控えめにアピールしたとおりである。2014年はサムスン電子を筆頭にほかのスマートフォンメーカーが失速したのに対して、AppleのiPhone 6/6 Plusは北米や日本だけでなく、世界各国でシェアを伸ばした。この1年は、iPhone大躍進の年だったのである。
「しかし、これだけ成功してしまうと、iPhoneは次はどうするのか、という疑問を投げかけられる。そこで我々は、ひとつの変化で、すべてを変えることにした」(クック氏)
その答えとなるのが、2007年にiPhoneが先鞭(せんべん)を付けたマルチタッチインタフェースの進化である。今ではiPhoneだけでなくAndroidスマートフォンにまで広く普及したマルチタッチ技術だが、Appleは今回のiPhone 6s/6s PlusでそのUIを刷新。ディスプレイへの接触だけでなく、圧力を検知・認識する新たなUI「3D Touch」を搭載した。
iPhone 6s/iPhone 6s Plusから実装される3D Touch。ハードウェアとソフトウェアの最適化が部品レベルで行われた結果、高精度な圧力検知と、新たなユーザー体験の提案が実現している
3D Touchはディスプレイの裏に圧力検知用のセンサーを埋め込み、表面ガラスの押し込みによって生じたわずかな歪みを計測して認識する。Appleではこれを「ピーク(弱い押し込み)」と「ポップ(強い押し込み)」と名付けて、従来のタッチに加わる新しい操作体系として定義している。また、このピークとポップを使用した際には、Apple WatchやMacBookのトラックパッドと同様に、TAPTIC Engineで擬似的に「押し込んだ感覚」を作りだす。
そして、iOS側では、3D Touch技術にUIデザインを対応させて、新しいユーザー体験を作り出している。例えばホーム画面でアイコンをピークすると、ダイレクトに呼び出せるコンテキストメニューが表示される。メールのアプリでは、メールリストでピークするとプレビュー画面になり、ポップすればそのメールが開くといった具合だ。3D Touchはサードパーティ製のアプリでも利用可能であり、Facebookなどの実用系アプリからゲームまで応用範囲はとても広そうだ。
「Appleの強みは、ソフトウェアとハードウェアとデザインが一体となっていること。3D Touchはその強みが生かされることによって実現可能になった」(シラー氏)
本誌読者であれば、2007年から2010年頃まで、マルチタッチインタフェースの使いやすさや使い心地のよさにおいて、iPhoneがAndroidスマートフォンを大きく引き離していたことを覚えているだろう。部品レベルまで緻密な設計をし、ソフトウェアとハードウェアを一体的に開発して最適化していく。
これによって実現した新しいUIは、ハードウェアとOSを別々に開発していたのでは、なかなか真似できないのである。今回の3D Touchは、この時の状況によく似ている。Androidスマートフォンが似たような部品を積み、ハードウェア的に感圧機能を搭載しても、OSとUI/UXデザインが最適化されていなければ、Appleにはとうてい追いつけないだろう。
3D Touchはユーザー体験として大きな変化であるだけでなく、再びAndroidスマートフォンを“周回遅れ”にし、Appleに強い優位性をもたらすことになりそうだ。
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