アプリ+クラウドが「テレビ」を進化させる――Apple TVが連れてきたリビングルームの未来:神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)
いまだに“リビングルームの王様”として重要な役割を担うテレビの分野にAppleが投じるのが、「Apple TV」だ。Appleはテレビとリビングルームにどのような魔法をかけようとしているのか。新型Apple TVの使い勝手を見ながら考えてみよう。
前世紀、世界を変えた発明を3つ挙げるとしたら、その中に必ず「テレビ」が入るだろう。テレビは人々のライフスタイルを変えたばかりか、政治の在り方を変え、戦争の在り方すら変えた。テレビと、テレビとともに急成長したメディアが20世紀を形作ったといえる。
長い歴史を持ち、そしていまだに“リビングルームの王様”として重要な役割を担うテレビ。ここにAppleが投じるのが、「Apple TV」である。同機はテレビに接続して使うスマートデバイスであり、Appleのサービスとエコシステムに直接つながって、Appleの素晴らしいユーザー体験をリビングルームに届けてくれる。
筆者は今回、新型「Apple TV」をいち早く試す機会を得た。Appleはテレビとリビングルームに、どのような魔法をかけようとしているのか。新型Apple TVの使い勝手を見ながら考えてみよう。
先代より少し大きくなったけれど、新型Apple TVはテレビと一緒にリビングに設置してもまったく違和感がない。有線LANのポートも持っているが、802.11acで接続するならば、ワイヤレス接続でも十分に快適な速度で利用できる
基本性能はiPhone 6並み!? tvOS+余裕のスペック
新型Apple TVが、一般的なブルーレイレコーダーやSTB(セットトップボックス)と大きく異なるところ。それは同機が「tvOS」というスマートOSを搭載していることだ。tvOSはiOSベースに開発されたテレビ向けOSであり、アプリや各種サービスにおいて、iOSとの高い互換性を実現している。iPhone/iPad向けに開発されたアプリをApple TVに移植する、iPhone/iPadとApple TV向けにアプリを同時開発するといったことがしやすい環境を構築しているのだ。
このtvOSを支えるため、Apple TVの基本性能もかなり高い。メインプロセッサは64ビットアーキテクチャのA8チップを搭載。これは2014年に投入されたiPhone 6に搭載されたものだ。ワイヤレス通信部分はMIMO対応802.11acのWi-FiとBluetooth 4.0に対応。各種データを保存するストレージは、32Gバイトと64Gバイトの2種類のモデルが用意されている。
総じていえば、新型Apple TVのスペックは、2014年のハイスペックスマートフォンとほぼ同等であり、“テレビに接続するAV機器”としては破格の性能だ。スマートフォンと異なり、Apple TVの買い換えサイクルは比較的長くなるであろうことを鑑みれば、性能的な余裕が大きいことは安心材料といえるだろう。
Siri Remoteは魔法のタクト
今回のApple TVではUIデザインが抜本的に変わり、iPhone/iPadのように直感的に操作できる。それを支えているのが、「Siri Remote」と呼ばれる新型リモコンだ。
Siri RemoteはTouchサーフェスと呼ばれるタッチパネル部分と、音声入力インタフェースのSiriを組み合わせたもの。メニューやホームボタン、ボリューム操作などよく使う機能は物理キーになっているが、基本的な操作はタッチと音声入力によって行うようになっている。
そして実際に使ってみると、Siri Remoteによる操作はすこぶる使い心地がいい。
従来のカーソルキーに比べて縦横無尽に見たい映画や音楽が選べるし、ゲームから実用系までアプリ操作もスマホライクなタッチ操作で簡単にできる。タッチパネル部分に指を滑らすと、その動きにダイレクトに追従するようなスムーズさは、さすがApple製のOSとUIデザインだけある。とりわけiTunes MovieやNetflixで見たい映画や番組をザッピングするといった使い方では、Touchサーフェスのスムーズでサクサクとした動きが心地よい。
他方で、Touchサーフェスが苦手とするのが文字入力だ。Apple TVでは初期設定や検索機能などを使う際に文字入力をするのだが、画面上の文字を選んでいくといった操作では指を滑らせすぎてしまい、思うように入力できないもどかしさを感じた。慣れの問題かもしれないが、ここは先代のApple TVが採用していたハードウェア型のカーソルキーの方が使い勝手がよいと感じたのは事実である。
しかし、この文字入力のしにくさは、Siri Remoteのもうひとつの機能である音声入力「Siri」を使えばおおむね解消される。新型Apple TVでは、映画などコンテンツの検索やさまざまな操作はSiriによる音声入力でできるようになっており、その認識率は日本語でもかなり高い。そのためいちいち検索欄に文字を入力するよりも、Siriで音声入力してしまった方が手っとり早い。
Siri Remoteによる操作は、テレビやビデオの一般的なリモコンとはまったく別物であり、最初は面食らうかもしれない。しかし実際に使い始めれば、シンプルで合理的な操作方法にはすぐに慣れてしまい、大量のコンテンツから自分が求めるものを探すには、TouchサーフェスとSiriの組み合わせがとても使いやすいことに気づくだろう。Siri Remote自体が手のひらにすっぽりと収まるコンパクトサイズということもあり、慣れてくると、まるでテレビに向かって魔法のタクトを振るかのように自由自在に操作できるようになる。この感覚はとても新しい。
だが、ひとつだけ気をつけなければならないことがある。それはSiri Remoteがあまりに小さくコンパクトであるため、油断しているとすぐに行方不明になってしまうことだ。我が家でも子どもが使った後にSiri Remoteが見つからなくなり、ちょっとした騒動になった(ソファの隙間から発見されたのだが)。次のApple TVではぜひ、Siri Remoteにビープ音の発生機能をつけて、iPhoneアプリから音を鳴らして探せるようにしてほしいところだ。
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