個人向けMVNOで回線数1位、単月で黒字化も 「楽天モバイル」好調の要因
個人向けのMVNOでは回線数が1位となった「楽天モバイル」。FREETELのMVNO事業を継承したことで、さらにその規模を拡大している。そんな楽天モバイルの戦略を、事業責任者の大尾嘉宏人氏が語った。
FREETELのMVNO事業を承継したことで、契約数を一気に140万にまで拡大した「楽天モバイル」。2017年9月時点で、個人向け格安SIMの回線数は、IIJmioを抜いて1位に躍り出た。売り上げやARPUも増加しており、勢いを加速させている。
楽天モバイル好調の要因はどこにあるのか。12月1日に、執行役員 楽天モバイル事業の大尾嘉宏人氏が説明した。
端末割引を拡大して獲得コストダウンに
楽天モバイルの売り上げは2015年から2017年にかけて約5.6倍伸び、年平均の成長率は136%に。「(楽天モバイル)単体での収益性も上がり、赤字幅は大幅に修正できた。2017年は単月で黒字の月も出ている」と大尾嘉氏は手応えを話す。
ARPUは公表していないが、2015年から1.4倍に伸びた。ARPUは「楽天でんわ」を含む通話料金が34%を占めている。「かけ放題など独自の通話サービスを充実させた戦略が生きている」と大尾嘉氏。
楽天モバイルのユーザーは、2016年10月時点では40代が最も多い33%だったが、2017年10月には30代が30%で最多となり、20代も12%から23%に増えている。結果として、20〜30代で半数以上が占められている。「若い世代を取り込めていることは、楽天グループ全体でもよいこと」と大尾嘉氏は歓迎する。
楽天グループの強みを生かしたマーケティング活動も、契約増に大きく寄与している。楽天市場と楽天カードと連携したキャンペーンや、お買い物パンダのグッズを店舗でプレゼントするキャンペーン、楽天スーパーセールでセット端末を格安で販売する施策を展開。楽天スーパーポイントでの楽天モバイルの支払い率は、2016年10月の6.6%から2017年10月には23.7%に増加。ポイントで全額を支払っているユーザーも多いという。
店舗も増やし、テレビCMも打っており、ここに相当な投資を行っているように思えるが、広告費用は2016年よりも下げている。テレビCMについては他社(Y!mobileやUQ mobile)と比べて約14分の1の投下量に抑えている。それでも「認知率は(サブブランドと)それほど変わらない」と大尾嘉氏。
むしろ従来より増やしたのは、端末の割引だ。2017年9月に実施した楽天スーパーセールでは、6日間で7000台以上の端末が売れた。2017年7月には、58%がスーパーセールがきっかけで楽天モバイルに申し込んだというデータもある。2016年8月と比べ、端末割引は大きく増えているが、広告費用を抑えることで、1契約あたりの投資額は全体で減少。効率よくユーザーを獲得できている。
店舗とサポートは効率化を重視
店舗は現在181店を展開しているが、やみくもに増やすのではなく、オンラインでの申し込み数が多く、店舗の少ないエリアに絞って出店している。量よりも質を重視し、2018年3月までに200店舗まで増やす計画だ。店舗とオンラインのユーザー獲得比率がほぼ1:1であること、1契約あたりのコストがオンラインと店舗でほぼ差がないことも、大尾嘉氏は特徴に挙げた。
カスタマーサポートも、効率化を重視してコスト削減に努めている。2016年〜2017年にかけて契約数が増えているにもかかわらず、コールセンターへの電話は減っている。その理由について大尾嘉氏は、ユーザーの声をすぐにサービスに反映させていること、SIMのサイズ変更や料金確認をオンラインでできるようにしたこと、WebサイトのFAQ改善、チャットボットの導入などを挙げる。
2017年9月に開始した「スーパーホーダイ」も好調で、契約期間(1〜3年)に応じた割引は、88%が最長の3年契約を選んでいるとのこと。また2018年1月25日から、通話SIMを契約している既存ユーザーが、スーパーホーダイに契約を変更できるようにする。
FREETELの通信・通話品質に不満の声
大尾嘉氏は、FREETELのMVNO事業承継についても説明。2018年1月15日以降は、FREETELのサービスは楽天モバイルブランドに統合されるが、FREETELの料金プランは継続して利用できる。
一方、FREETEL SIMのユーザーにアンケートを取ったところ、「データ通信の速度」と「FREETELでんわの通話品質」を不満とする声が多かった。そこで、11月末にネットワークの増速を行ったほか、2018年春をめどに、FREETELでんわの回線を楽天でんわと同じものに変更する。
FREETEL SIMから楽天モバイルのスーパーホーダイに乗り換えると、MNP転出料・契約事務手数料・初月の月額料金を無料とするほか、1年目を500円引きで月額1480円とするキャンペーンも行う(2018年春から)。
端末代と通信料をセットにした「スマートコミコミ+」も継続して提供するが、「端末はプラスワン・マーケティングが決める」(大尾嘉氏)ため、端末の提供については楽天は関与しないようだ。
Y!mobileとどう戦っていくのか
楽天モバイルの新規契約数は2016年を上回ったが、大手キャリアの新料金プランやサブブランドの影響は「ある」と大尾嘉氏は話す。それでも「お店で丁寧に説明すると、サブブランドにしようとしていた人が楽天に切り替えてくれることは多い。お客さまの声を聞き、プロダクトとサービスで負けないものを作る」と意気込みを語った。
契約数の規模を考えると、目下のライバルはY!mobileといえる。大尾嘉氏はY!mobileについて「競合として見ていないわけではない。一緒に市場を盛り上げるパートナーとして見ている。サブブランドが格安スマホというキーワードを広める中で、そこに便乗しつつも、戦うところは戦う」と語った。
Y!mobileは「iPhone SE」や「iPhone 6s」を扱っている強みがあるが、楽天モバイルでもメーカー認定整備済品(CPO)として、iPhone SEやiPhone 6s/6s Plusを扱っている。CPOとはいえ「よく売れている」とのこと。Androidユーザーと重複しないので、契約増にも貢献しているようだ。
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