手数料だけでは成り立たないスマホ決済 それでも各社が注力する理由とは?:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
スマホ決済が転換期を迎えている。PayPayは2022年10月から決済手数料の有料化に踏み切る。対する楽天グループの楽天ペイは、PayPayの有料化に乗じた形で中小店舗に対する手数料を1年間無料化する。KDDIはグループの金融事業との連携を強化する方針を示した。
手数料だけでは成り立たないビジネスモデル、経済圏拡大で収益化を狙う
手数料を有料化したPayPayだが、スマホ決済最安ということもあり、収益への貢献はあまり大きくはなさそうだ。仮に手数料体系が異なる大規模店まで含めて現状の取扱高全体に1.9%の手数料を適用したとしても、PayPayの懐に入る金額は四半期で228億円程度。無料だったころと比べれば収益基盤は強化される形だが、同社は2021年3月期の決算で営業費用として1000億円以上を計上しているため、ほぼ相殺される。ユーザー数や決済頻度には拡大の余地もあるため、よくてトントンといったところだろう。PayPayの手数料値下げに追随すれば、他社も手数料で大きな収益を上げるのは難しくなる。
では、なぜキャリア各社はスマホ決済に注力しているのか。答えは周辺分野を含めたエコシステムの拡大にあり、この点では4社とも方向は同じだ。PayPayが手数料率の引き下げと同時に導入するPayPayマイストアも、その一環。同社の代表取締役社長、中山一郎氏は、PayPayの優位性としてマイストアを挙げ、「マーケティングに関わる支援をしていきたい」と話す。PayPayマイストアを使うと、店舗は専用ページを持つことができ、クーポンなどの発行も可能になる。こうした施策を軸にしながら、収益化を模索していく方針だ。
決済アプリはプラットフォームとしての機能を持つため、ソフトバンクが持つ他のサービスとの相性もいい。ソフトバンクの代表取締役兼CEOの宮川潤氏は、その戦略を次のように語る。
「スマホの中で何回PayPayを開くか(がKPI)。画面の中には、いろいろなアプリの導線が作ってある。その導線に沿って、アプリの経済圏が広がっていく。銀行の振替ができるアプリや、タクシーに乗るアプリなど、さまざまなものが存在する。決済アプリの入口から、金融のエコシステムを作りたい。どれだけ使われているのかは、非常に重視している」
同様に、楽天ペイも、経済圏の拡大に向けた取り組みを行っている。楽天ペイメントは、8月24日にアプリのユーザーインタフェースをアップデート。楽天グループの持つ「楽天カード」や「楽天銀行」「楽天チェック」「Rakuten Pasha」「ポイント運用 by 楽天PointClub」といった各種サービスへのリンクを追加した。現状では単なるリンクにとどまっており、PayPayやd払いに実装されているようなミニアプリのクオリティーには達していないが、楽天ペイのアプリを中心にしたエコシステムを構築していこうとしている狙いは明快といえる。
KDDIも、決済金融サービスの入口にau PAYを位置付け、auじぶん銀行の連携を一段強化する。もともとau PAYはauじぶん銀行から残高不足分だけを自動でチャージする「リアルタイムチャージ」に対応していたが、新たに自動払戻機能に対応する。この機能を使うと、あらかじめ決めた頻度で、自動的に余った残高をauじぶん銀行に払い戻せるようになる。しかも手数料は無料。送金などの利用機会が増えてきた際に、役に立ちそうな機能だ。さらにauじぶん銀行側でも、au PAYとの口座連携で普通預金の金利を0.05%上げる「auまとめて金利優遇」を開始。au PAYカードの口座引き落としやauカブコム証券との口座連携で、最大0.2%まで金利がアップする。各社とも、グループ総出で経済圏の拡大に乗り出していることが分かるはずだ。
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