小寺信良
デジタル技術が身の丈を超えるとき(2/3 ページ)
人が想像できる限界
デジタル技術はここ10年で急速な発展を遂げたが、それは可能な限りアナログに近づく、ということでしかなかったのではないだろうか。もちろんその途中には、デジタルならではの“ぶっ飛んだ”発想のものは存在しただろう。だがそれを使う人間の想像力が付いていけなければ、使い道がない。
デジタル化が比較的早く進行したのが、楽器の世界である。1983年に登場したYAMAHAのDX7は、フルデジタルで周波数変調を行なう方式で一世を風靡(ふうび)した。いわゆるFM音源というやつである。従来のアナログ方式では得られなかった金属的なエッジを持つ音など、デジタルならではのサウンドが80年代の音楽に与えた影響は少なくない。
だがDX7は、音を作るという過程が非常に難しかった。元々周波数変調という方式はアナログシンセサイザーの時代から存在したのだが、操作に対する結果が人間の感覚からすればかなり非線形で、予想しづらいのである。
それに加えてDX7は、たくさんのパラメータやアルゴリズムの組み合わせがあるにもかかわらず、液晶表示がたった2行しかないものだから、まさにドアの郵便受けから外を覗いて世界情勢を予測するような作業を強いられる。
音源方式としては現在も有用ではあるが、人間にとって感覚的にイメージしづらいデジタルFM音源方式の楽器は90年代半ばには衰退し、今はあまり使われていない。その代わりフルデジタル回路ではあるが、操作系はアナログ的なものが楽器としては主流となっている。
もう1つ、技術と感覚という観点で、映像がらみの話をしよう。現在カラー映像技術の根幹を占めるのは、コンポーネントという方式である。光がRGBの3色で表現できることはご存じだと思うが、この組み合わせによって得られるフルの色域は、人間の目では見ることができない部分もあり、また他色と混同したり、違いに気付きにくい部分がある。
つまり、RGBのデータをフル帯域で保持するのは、映像記録の観点からすれば無駄であり、圧縮の余地がある。そこで人間の目で見たときに影響が少ない部分を捨てるという方式が考え出された。それが色差方式、すなわちコンポーネントである。
コンポーネントは、輝度信号であるYと、Rから輝度信号を引いたもの、Bから輝度信号を引いたものという3つの信号を演算処理することで、映像を形作っている。Y/B-Y/R-Yという表記を、どこかで見たことがある人もいるだろう。
この方式は非常に優れた映像圧縮技術なのだが、例えば輝度だけのY信号、つまりモノクロの映像は、人間もイメージできる。だがBから輝度を引いたもの、という映像を、人間は視覚的にイメージできない。
映像を監視する装置の1つに波形モニタがあるが、このコンポーネントの状態を示す波形モニタも当然ある。だがそれを見ても、人間には1枚の映像と3枚に分解された波形の関係が直感的にイメージできない。
だから多くの技術者は、コンポーネント信号を旧来方式であるコンポジット信号に変換して、コンポジット用の波形モニタで映像を監視する。コンポジット方式なら、映像の画面表示と信号表示がお互いイメージできるのである。
もちろん方式変換を行なうため、結果には正確さが欠ける。だが技術的にいくら正確でも、人間の脳で形としてイメージできないものは、意味を成さない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
パナソニックHD子会社、使用禁止の生成AIに従業員約33万人分の個人情報をアップロード
-
2
「Claude Mythos 5」、危害の兆候を顧みず実在の開発者を標的に──AnthropicとAISIが分析結果を公開
-
3
PHP脆弱性でいち早くサービス停止したコドモン 背景に「被害が出てからでは取り消せない」
-
4
GMO、不正取引の被害額を補償へ 見舞金5000円も 「お名前.com」FX用VPSへのサイバー攻撃で
-
5
コミックシーモア、流出は最大約420万件に メールアドレスや生年月日など 不正アクセスの経路特定・遮断は完了
-
6
GMO、「能動的サイバー防御」発動を政府に要請 「お名前.com」FX用VPSへの攻撃で
-
7
B級感がたまらない? 映画「ストリートファイター」の魅力と原作ゲームの歴史、ゲーマーマンガ家が熱弁
-
8
「AIでエンジニア派遣は不要になる」のか? 各社に肌感を聞いた 求められる人材、明確に変化
-
9
「お前らの作品は所詮コピーだ」――富野由悠季さん、プロ論を語る
-
10
ロリポップ改ざん問題でツイート炎上のGMO熊谷社長、「強気すぎた」と謝罪
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR