山形豪・自然写真撮影紀
野生の楽園 オカヴァンゴ・デルタをカヌーで行く
もう随分前の話になるが、私はボツワナのオカヴァンゴ・デルタを撮影のため訪れた。通常、デルタとは川が海に注ぎ込む時に形成される三角州のことを指す。しかしオカヴァンゴは世界でも珍しい内陸性のデルタで、その水は海にたどり着かずに蒸発とカラハリ砂漠の砂による吸収で消えてしまう。
Google Earthで南部アフリカを見るとよく分かるが、ボツワナの北西部から南東方向に向かって、扇形に広がる湿地帯がそれだ。野生動物の楽園としても知られており、ケーブルテレビのアニマルプラネットやナショナルジオグラフィック・チャンネルにもこの場所はよく登場する。
そんなオカヴァンゴの大半はモレミ野生動物保護区の一部として管理されているため、ほかの保護区同様、人の活動に関してはさまざまな規制がある。ところが、デルタの北部は保護区外である上に、比較的安価なキャンピング・サファリを提供する会社があるため、ロッジに泊まる高級サファリとはまったく違う、自由度の高い、真に「ワイルド」な体験が可能なのだ。
このサファリの最大の特徴は、何と言ってもその移動手段。広大な湿地帯であるオカヴァンゴの大部分は、車での移動が不可能だ。また、水深が浅く、生い茂るアシやハス、パピルスなどが妨げになりモーターボートもほとんど使い物にならない。そのかわりに活躍するのが、モコロと呼ばれる伝統的なカヌーで、これにキャンプ道具や食料、撮影機材を積み込んで移動する。もちろん自分で漕ぐわけではなく、ガイド兼漕ぎ手が面倒を見てくれるので安心だ。
朝、起点となる村からカヌーで出発すると、昼過ぎには宿営地に到着となる。と言っても、湿地帯の中に点在する「無人島」で寝泊まりするので、当然周囲には人工の建物はおろか、柵すらもない。そこは正に野生の王国のまっただ中なのだ。島に上陸し、適当な平地を見付けたらそこにテントを張って、木の枝や倒木を集めて火をおこし、目立たないヤブの中にトイレ用の穴を掘ったらキャンプの完成となる。
このツアーには決まったスケジュールがないので、その時の状況や気分一つで自由に活動内容が決められる。例えば、朝方は近くの島に行ってゾウなどの陸上動物を徒歩で撮影し、午後はモコロで水上からカバや鳥などを狙うといった具合だ。モコロは中に座ると、目線が水面すれすれまでくる。しかもほとんど音を立てずに進むため、まるで水の上を滑っているようでとても気持ちがよい。撮影に際しても、水面とほぼ同じ高さでカメラを構えられるので、アシに住むカエルや水面に浮く水鳥などを撮影するには最高だ。
ガイドたちはいずれも現地出身者で、動植物やデルタの環境について多くの知識を持っている。また、オカヴァンゴという自然環境に潜むリスクについても熟知しているので、こちらとしては安心して撮影に専念できる。彼らが言うには、最も警戒せねばならないのはカバだという。
この地域には多くのカバが生息しており、日が暮れると草を求めて活発に動き回るようになるので、暗くなる前に陸に上がっていないと非常に危険なのだそうだ(あまり知られていないが、カバは主に夜行性の動物である)。またキャンプでも、ライオンやカバが近付き過ぎないよう、夜中に何度も起き出して火に薪をくべてくれる。
地元の人々が案内してくれることで、彼らの文化を体験できるのも、この種のツアーの特徴だ。例えば私が参加したツアーの初日、モコロから風景の撮影をしていると、ガイドの青年はおもむろに漁網を仕掛け始めた。彼らはもともと地元の漁師なのだ。翌日、仕掛けた網を回収すると、ニンブエと呼ばれる魚(ティラピアの仲間)がかかっており、その日採取した蓮の花のつぼみと一緒に炊き込んだ地元料理を作ってくれた。住民による動植物の採取が禁止されていない区域ならではの楽しみだ。
オカヴァンゴ・デルタを訪れる人の大半は、南側に集中している恐ろしく値段の高い高級ロッジを利用するが、この素晴らしい場所の魅力を本当に体感するのであれば、北部のカヌーによるキャンピング・サファリに勝るものはないと私は思う。ただし、モコロが転覆するケースも皆無ではないので、高価な撮影機材を持って行くのにはいささか勇気がいるが……。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【おしらせ】2013年1月31日より開催される「CP+ 2013」で開催されるスライドショーイベント「OPEN SHOW」に山形氏が出演します。入場は無料ですが登録制ですので、お早めにどうぞ。詳細は「OPEN SHOW」公式サイトまで
【お知らせ】山形氏の著作として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが好評発売中です。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
山形豪・自然写真撮影紀
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
2
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
3
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
4
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
5
GMO不正アクセス、犯人側は「27日に顧客のPC攻撃」予告 GMOが端末回収、ホワイトハッカーが解析中
-
6
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
7
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
8
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
9
GMO、攻撃者による情報公開を確認 顧客データ含むか調査中 追加の見舞金も検討
-
10
タイムズカー、お見舞金3000円の算定基準は? パーク24に聞いた
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR