山形豪・自然写真撮影紀
南アフリカ、スリリングなホオジロザメとの出会い
ホオジロザメ。この名を耳にすると大方の人は真っ先にスティーブン・スピルバーグの大ヒット映画「ジョーズ」(Jaws)を連想するのではないか。巨大な人食いザメが人々を恐怖のどん底に落とし入れるホラー映画だ。しかし、実際のホオジロザメは、優秀な海のハンターではあっても、人を食うことなどほとんどない(ただし、人が襲われる事故は絶えない)。陸上の肉食獣同様、好んで人をエサとする習性を彼らは持ってはいないのだ。
そんな野生のホオジロザメを、信じられないほどの至近距離から眺める方法がある。それが南アフリカのグレイトホワイトシャーク・ケージダイビングだ。グレイトホワイトシャーク(Great White Shark)はホオジロザメの英名である。また、ケージ(cage)とは檻(オリ)のことで、文字通り水中に沈められた鉄製の檻の中に入り、サメを観察するのだ。
場所はアフリカ大陸の南端、喜望峰の周辺海域だ。中でも、ガンズバーイ(Gansbaai)と呼ばれる湾は、ケージダイブを行うツアーオペレーターが何社も営業しているエリアで、世界中の旅行者が大勢訪れている。南アフリカ最大の観光都市ケープタウンからも日帰りで行けるとあって、大変な人気を博している。ダイビングと言っても、Cカード(スキューバダイビングの資格)は不要で、シュノーケリングができれば大丈夫だ。また、ウェットスーツや水中マスク等、道具はすべて貸してくれるので気楽に参加できる。
朝、船着き場に着いたらまず注意事項の説明を受けてから船に乗り込む。オペレーターによって多少違うが、大体20人乗りくらいのボートが用いられる。
港から沖合に20~30分程度行ったポイントでいかりを下ろし、まずマグロの内蔵などを海面にまいて、サメをおびき寄せる。近くに寄って来たら、今度はロープでつないだマグロの頭を投入する。この餌付けに関しては、サメの捕食行動が変わってしまうのではとの懸念が持たれており、議論の的ともなっているので一概に喜べるものではないかもしれないが、効果的であることは間違いない。
サメが逃げずにボート周辺に留まっているのを確認したら、ケージの準備が始まる。ケージは高さ3メートル、幅4メートル程度(会社によってサイズが違う)で、中に3~4人が横並びになれるくらいのスペースがある。上部が開閉式になっており、ここから人が入る。内側にはフロートがくくり付けられているので、万が一船とケージとをつなぎ止めているロープが切れても、ケージが海中へ沈むことはない。
準備が完了したら、ウェットスーツと水中マスクを着用していよいよケージの中へ。始めは頭を海面に出した状態で座って待つ。そして、サメが接近してきたら目の前の手すりにつかまり、ガイドの合図とともにダイブするのだ。ただし「ダイブ」と言っても、実際には手すりを使って体を海中に沈める程度である。ケージの底にはつま先を引っ掛けられるバーがあり、体が浮き上がるのを食い止められるようになっている。息を止め、鉄格子の向こうに目を凝らすと、やがて鼻先の尖った灰色の巨体が、音もなく目の前を通り過ぎてゆく。ホオジロザメという生物のたぐいまれな美しさと力強さを実感する瞬間だ。
この海域になぜホオジロザメが多いのかについては諸説あるが、ミナミアフリカオットセイの繁殖地がある点が大きな要因になっているらしい。オットセイの子どもはサメの大好物なのだ。そのため、サメをおびき寄せる際、小さなオットセイをかたどったスポンジ製のデコイを海面に浮かべて船で引っ張るという手法を用いる場合もある。余談だが、サーファーがパドリングをする際のシルエットがオットセイやアザラシに似ていて、サメが誤認して襲うことことがあるという説もある。
水の透明度が最も高いのは7月ごろだが、この季節は南半球では真冬であるため、ウェットスーツを着用していても相当寒いとの話だ。私が潜った11月ですら充分過ぎるほど水温は低かった。撮影に関しては、最大潜水深度が3メートルにも満たないため、防水型のコンパクトデジカメでも結構撮れる。
ホオジロザメのケージダイブは、オーストラリアでも行われているが、サメとの遭遇率の高さという点ではガンズバーイに勝る場所は存在しない。南アフリカを訪れたなら、ぜひとも美しきハンターとの出会いを体験してみてはいかがだろう。ただし、くれぐれもケージの外に手を出したりしないように。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の著作として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが好評発売中です。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
山形豪・自然写真撮影紀
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
2
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
3
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
4
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
5
ジョーシンへの不正アクセス、最大623万件漏えいか 運転免許証2件・マイナカード1件なども
-
6
グッスマに不正アクセス、公式EC閉鎖 会員の住所や注文履歴など漏えいか 再開目処立たず
-
7
野村総研、サイバー攻撃時の「能動的なシステム停止」を支援する新サービス
-
8
Microsoft、約6万人対象の希望退職制度を発表 巨額のAI投資で経費抑制か
-
9
タイムズカー流出で顧客らが損害賠償求め運営会社提訴へ サイト開設の弁護士が記者会見
-
10
Anthropic、IPOを正式申請 上半期売上高は約14倍、純損失807億ドル
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR