ちょっと未来で現実的 福岡市にオープンしたIoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」がおもしろかった

 「IoT(Internet of Things)デバイスに囲まれて暮らしたい」――そんな願いをかなえてくれるIoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」(アンドホステル)が8月19日、福岡県福岡市にオープンした。実はこの&AND HOSTEL、クラウドファンディングサイト「Makuake」で100万円の支援を募集し、9分33秒と同サイト史上最速で目標金額を達成したプロジェクトでもある。いったいどんなところなのか、取材してきた。

 &AND HOSTELは地下鉄空港線・箱崎線の中洲川端駅から徒歩2分のところにある地上3階建ての建物。もともとラーメン屋さんだった建物をリノベーションし、1階には宿泊者以外も入店可能なカフェ&バーと客室が、2階と3階には客室が設けられている。

 客室数は11室、宿泊定員は48人。1泊3000円(税別)から泊まれるドミトリールームや1泊8000円(税別/2名)で泊まれる通常のダブルルームのほか、IoTを体験できる4つの客室が用意されている。「IoTルーム」と呼ばれるこれらの客室には、&AND HOSTELに設置されている計10種類(「MESH」を含めた全11種類を採用予定)のうち6種類のデバイスが置かれ、宿泊者はそれらを体験できる。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 外にもHueが

 入店すると、まず受け付けで手渡されるのがスマートフォン。このスマートフォンには&AND HOSTEL専用のアプリケーションが入っており、アプリを起動しTシャツ型のガジェット「PlugAir」をスマートフォンに挿すと、ホステルの概要や連携するデバイスデータがダウンロードされる。部屋の鍵を解除したりテレビの電源を入れたり、ここから先は全てこのスマートフォンで操作できるのだ。早速3階に行ってIoTルームを体験してみたい。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 PlugAir。これをスマートフォンに挿すとホステルの概要やデバイスデータがダウンロードされる

 ドアの前に到着したら、アプリの「DOOR」アイコンをタップしてOPENを押すと、ドアに備え付けられたスマートロックデバイス「Qrio Smart Lock」で鍵が開く。そのまま中に入るとすでに照明が付いているが、これは無駄を省くため。「鍵を開けて部屋に入った次に、人は照明を付ける。だから、鍵を開けたときに同時に照明も付くように設定している」(担当者)。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 3階の廊下。白くて明るい
Qrio Smart LockとHueの連動(部屋の内側から撮影)

 なるほどと納得しながら部屋の中に入ると、キングサイズのベッドが置かれた広い空間が現れる。ここは1泊1万2800円(税別/2名)で泊まることのできるIoTキングルーム。宇宙船をイメージして作られたそうだ。部屋の中には家電制御デバイス「iRemocon」が置かれ、これが受け付けで渡されたスマートフォンと連動して全ての家電とのハブになる。&AND HOSTELではあえて三菱電機のエアコン、東芝のテレビ、日立製作所の空気清浄機と異なるメーカーの家電が導入されているが、それら全て1つスマートフォンで操作できる。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 3階IoTキングルーム
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 別角度
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 部屋に置かれた家電制御デバイス「iRemocon」
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 メーカーが全て異なる
1つのスマートフォンで全ての家電を操作

 枕元には照明を自由にコントロールできる「Hue」と、コミュニケーションロボット「BOCCO」、音と光と香りで快眠を誘うガジェット「Sleepion」が置かれている。

 実はここに取りつけられた2つのHueは、照明の色で空模様を示している。上のHueが今日の天気、下のHueが明日の天気。データは1分おきに取りに行き(参照先は非公開)、赤は晴れ、白は曇り、青は雨となる。

 BOCCOはいわばこのホステルのコンセルジュの役割を果たす。ルームサービスや質問、話し相手がほしいときは、音声入力かスマートフォンアプリでのテキスト入力に応じてBOCCOがいろいろな返事をしてくれる。といっても、BOCCOに送った情報は全て受け付けに転送されており、BOCCOが返す言葉は全て人力入力。裏でしっかりと人がサポートしていて、BOCCOの対応言語である英語と日本語以外にもスタッフの語学力で8カ国語での対応が可能だという。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 BOCCO

 Sleepionはアプリの「NIGHT MODE」をタップするとHue、BOCCO、Qrio Smart Lock、空気清浄機が連動し、起動する。照明が消え、セキュリティのため部屋のロックが掛かると同時に、自分で選んだ好きな香りが部屋の中を漂い、心地よい睡眠へと導いてくれる。

Hueは手動で設定も可能。一般ユーザーでも使いやすいように色はあえてテーマなど限定的にしている

 目覚ましの設定もスマートフォンからできる。「ALARM」をタップし時間を設定すると、BOCCOとHue、テレビが連動。時間になると照明が付き、BOCCOからピヨピヨと朝らしい音が鳴り、テレビが自動で付く。

 クローゼットにはデジタル窓「Atmoph Window」が取りつけられ、スマートフォンアプリの操作で好きな景色を映し出すことができる。Atmoph Windowはまだ製品化されていないため、体験できるのはこの部屋のみ。3階のIoTツインルームにも置かれてはいるが、そちらはデモ機のためスマートフォンとの連動はしておらず、定期的に景色が変わるようになっている(2階のIoTルームにはAtmoph Windowはない)。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 クローゼットの扉を開けっぱなしにすれば、Atmoph Windowに映る景色を見ながら寝ることも可能
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 クローゼットの中(Atmoph Windowの内側)。コードがまとめられかなりスッキリとしている

 さらに、宿泊者には無料で「SmartEyeglass」の貸し出しも。SmartEyeglassは、目の前の風景に情報を重ねて表示するメガネ型ウェアラブル端末で、博多どんたくや博多祇園山笠、屋台などをAR(Augmented Reality)で見られる。観光客が訪れる際、必ずしもそのイベント時期に重なるとは限らないが、その場に行けばバーチャルでイベントを体験できるサービスとして、フロントでSmartEyeglassを貸し出しているという。

 &AND HOSTELを取材しておもしろいと感じたのは、「あえて全てIoTにしない」というところだ。こうした取り組みは新しさを求めるあまりに、全てに無理やり最新テクノロジーを取り入れる方向に陥りがちだ。しかし&AND HOSTELではあえて操作に制限(Hueの色など)を掛けて一般の宿泊客にとって使いやすくしたり、BOCCOやSleepionにコードが付いていることを見せ、移動させられることを伝えたりしている。また、非常時や機器の故障時を想定し、例えば部屋の鍵も手動で開け閉めできるような作りになっている。

 また、このホステルで得たユーザーデータは個人を特定できない匿名データとして企業や大学の研究機関に提供するそうで、それも興味深く感じた。&AND HOSTELは宿泊施設でありながら、実証実験の場でもあるのだ。&AND HOSTELに集まる年間2万泊のデータを研究機関などにフィードバックし、より良い宿泊環境のつくり方やIoTデバイスの活用方法を研究していくという。

 そしてもう1つ注目したいのが、このホステルはこれで完成ではなく、随時アップデートしていくということ。例えば今後のアップデートにより、スペイン人が宿泊するとき、その情報からAtmoph Windowにスペインのライブビューを映し出すようにしたり、BOCCOにスペイン語を話させたり――といったことが可能になるかもしれないという。また、1階のバーに付いている見守りカメラが一定以上の人間の顔を認識したときに、部屋にいるBOCCOが「今、下の階がにぎわってるよ! 降りておいでよ!」と宿泊客を誘うといったこともできるかもしれない。こうした身近なアップデートから、新たなガジェットとの連携など、さまざまなサービス強化が期待できるという。

 さらに、こうしたサービス開発には、ホステル経営者などだけでなく一般の人もアイデアソンなどを通じて参加できるようにするという。

 &AND HOSTELは訪日観光客を対象としており、現在は海外からの予約が過半数を占めている。予約は1カ月半先まで埋まっているそうだ。近い将来、福岡県内で新たに2~3店舗を開く予定だという。

IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 3階IoTツインルーム
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 3階IoTツインルーム(別角度)
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 ツウな人にはガジェットのコードがむき出しになっている「IoTツインルーム」がおすすめかも?
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 アロマ
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 ドミトリールームには特にガジェットを用いていない
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 黒いカーテンで仕切れるようになっている(ドミトリールーム)
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 共同トイレ。1階のトイレはセンサーで電気が付き、バリアフリーにも対応
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 共同洗面所
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 共同シャワールーム。シャワールームによって壁や床のタイルが変えられているといった工夫も
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 廊下に設置されたごみ箱
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 共同フリースペース
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 共同作業スペース。ここに置かれているコーヒーなどはもちろん無料
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 階段もおしゃれ
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 1階のカフェ&バー
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 ナッツは無料!
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 フード、ドリンクメニューも充実
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 カフェ&バーの天井に取り付けられた「見守りカメラ」
IoT体験型ホステル「&AND HOSTEL」 Hueでお店を彩ることも

 ちょっと未来で、現実的なIoTホステル。不動産産業の新しい形として、今後も注目していきたい。

太田智美

取材協力:and factory

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この記事の著者

太田智美
太田智美

小学3年生より国立音楽大学附属小学校に編入し、小・中・高とピアノを専攻。大学では音楽学と音楽教育(教員免許取得)を専攻し卒業する。 その後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学。人と人とのコミュニケーションで発生するイベントに対して偶然性の音楽を生成するアルゴリズム「おところりん」を生み出し、「おところりん:ソーシャルネットワークにおける偶然性を用いた音楽生成(Otocororin: a chance music for social network systems) (http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/KO40001001-00002010-0075.pdf?file_id=44931) 」を修士論文として提出。同研究は、情報処理学会 第12回「Internet and Operation Technology(IOT)」研究会において学生奨励賞を受賞。 同大学院を修了後、2011年にアイティメディア株式会社に入社。営業配属を経て、2012年より@IT統括部に所属し、技術者コミュニティ支援やイベント運営、記事執筆などに携わる。2014年4月から2016年3月までねとらぼ編集部に所属。2016年4月よりITmedia ニュースに配属される。これまでの代表作は「世の中やっぱり金でした 71万円の大金を積んで誰よりも早く『iPhone 6 Plus』の使い勝手を検証してみた (http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1409/10/news139.html) 」「スケスケでまるみえじゃないですか! 人によっては透明に見えるドレスを作ってみた (http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1502/27/news152.html) 」「あの日、Twitterのくじらが出なかったもう1つの理由 (http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1401/08/news082.html) 」「ゆとり世代が問う『好きなことをやって何が悪い!』(シリーズ) (http://www.itmedia.co.jp/keywords/yutori_generation.html) 」「はじめてのAI(連載) (http://www.itmedia.co.jp/news/series/5264/) 」など。 Twitter:@tb_bot (https://twitter.com/tb_bot)

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