食いしん坊ライター&編集が行く! フードテックの世界
宇宙で造ったビールで乾杯 とある町工場が本気で挑む“宇宙醸造”への道(2/3 ページ)
無重力・閉鎖環境でビールを醸造するには?
醸造装置について説明する前に、ビールの造り方を簡単に説明しよう。ビール酒造組合によると、まず麦芽からホコリなどを取り除いた後、水に浸し発芽させ、温風を当てて乾燥。次に麦芽に温水を混ぜると、麦芽の酵素の働きによってでんぷんが糖分に変わり、液体が糖化。それをろ過してホップを加え煮沸した後、冷却して酵母を投入。酵母によって発酵が進み、液体がアルコールと炭酸ガスに分解される。熟成を経て、ビールの味と香りが生まれる。
プロジェクトを始めたものの、高砂電気工業にはいくつかの壁があった。まず宇宙空間での酵母の働きが未知数のため、どのような仕組みが適切か分からない。無重力空間で稼働する閉鎖式の装置も設計しなければならない。
「地上の醸造では酵母が活動する熱によって液体が混ざりますが、無重力空間ではそれが起きません。炭酸ガスの分離も問題です。地上の装置は上部が開放されるため余計な気体が自然と抜けていきますが、宇宙空間ではそうもいかないのです」(前川さん)
さらに人工衛星の打ち上げには、総重量が1g増えるごとに1万円、1kgで1000万円の追加費用が必要になるという。そのため醸造装置は、できるだけコンパクトでなくてはならない。
こうした点を踏まえ、第1世代の醸造装置は10cm四方の超小型の人工衛星「キューブサット」に入るサイズで設計。タンクやバルブの他、ホップなど材料を収納するパーツも極めて小さくした。
第1世代はパーツとパーツを結ぶ配管が露出していたため、第2世代で改良を進めた。複数の管が分岐する構造の筒「マニホールド」を用い、体積は倍の10cmx10cmx20cmに。第1世代から引き続き、発酵時に発生した炭酸ガスを抜く「デガッサー」という装置も組み込んだ。
「宇宙空間でビールを発酵させると、酵母のまわりに球状の炭酸ガスが付いているのではと想像しています。デガッサー内の気体透過性膜を通し、圧力を調整することで気体だけを抜けるのではと考えています」(前川さん)
液体を混ぜることについては、複数の配管とバルブを活用。例えば1番の配管から液体を入れ、2番の配管から抜き、3番は閉じておく。次に2番を閉じて3番から抜く、といったようにマイコンでコントロールすることで対流を作る。バルブの開く方向を繰り返し切り替えることで、タンク内で強制的に撹拌できるそうだ。
ところで、デガッサーで抜いた炭酸ガスの処理はどうするのだろうか。
「実験では宇宙空間に放出すると思います。1カ所から放出してしまうと衛星の姿勢が変わってしまうので、対角線状に2箇所から放出します」と前川さん。改めて地上での醸造とは全く違う考え方なのだ、と感じる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
食いしん坊ライター&編集が行く! フードテックの世界
ニューノーマル時代を迎え社会にますますテクノロジーが浸透する今、人の根本を支える“食”はどうなっていくのか――“食いしん坊”を自称するライターの武者良太さんと編集の安田が、テクノロジーと食が融合したフードテックの世界に迫ります。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
2
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
3
GMO不正アクセスの犯人サイト、ドメイン停止を確認
-
4
GMO、不正アクセス実行犯の手がかりに懸賞金 1億5000万円規模
-
5
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
6
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
-
7
So-net、会員情報約259万件が漏えい 一部メールサービスではパスワードも流出
-
8
GMO、攻撃者の公開情報に「アクセスは絶対に控えて」 悪質な拡散者には法的措置を準備
-
9
【復旧】auで大規模障害 全国で通話・データ通信しづらい状態 緊急通報にも影響
-
10
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR