Innovative Tech
あなたは解けるか? “ものすごく難しい迷路” 物理学者が作成 準結晶構造や数学的手法を活用(1/2 ページ)
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
英カーディフ大学、スイスのジュネーヴ大学、英ブリストル大学に所属する研究者らが発表した論文「Hamiltonian Cycles on Ammann-Beenker Tilings」は、複雑な迷路を作成できるアルゴリズムを提案した研究報告である。
研究で使用したのは「Ammann-Beenker(AB)タイリング」と呼ばれる準結晶の一種である。準結晶とは、原子が規則的な構造を持ちながらも、周期的な繰り返しパターンを持たない固体を指す。ABタイリングは、正方形と菱形の2種類のタイルから構成され、これを用いることで非周期的な2次元構造を作り出せる。この特性を利用し、研究者らは非常に複雑で解決が難しい迷路を作り上げた。
この迷路の作成には「ハミルトン閉路」と呼ばれる数学的手法が用いられた。ハミルトン閉路とは、グラフ上の全ての頂点を一度だけ通り、出発点に戻ってくる経路のことであり、これを見つける問題はNP完全問題の一つとして知られている。
研究者らは、ABタイリングの特性を利用し、このハミルトン閉路を構築するアルゴリズムを開発。ABタイリングの構造を利用してグラフを生成し、このアルゴリズムを用いてハミルトン閉路を見つけ出すことで、これらの経路が迷路のような複雑な構造を形成する。
この迷路の難しさは、その非周期的な構造に起因する。通常の周期的な迷路では、一定のパターンが繰り返されるため、解決の手掛かりとなるが、ABタイルを用いた迷路ではそのようなパターンが存在せず、極めて難解である。
開発したアルゴリズムの効率性と準結晶の特殊な構造を生かした応用として、次の3つが挙げられている。
- 走査型トンネル顕微鏡の性能向上:準結晶という特殊な物質の表面を観察する際、顕微鏡の針先が動く最適な経路を見つけられる。これにより、より速く正確に物質の表面を調べることができるようになる。
- 物質表面への分子の吸着の研究:ABタイリングを持つ準結晶の表面に、長い分子や柔軟な分子がどのように吸着するかを予測する。この予測は、新しい触媒や材料の開発に役立つ。
- タンパク質の形作りの理解:タンパク質が折りたたまれて特定の形になる過程を、より正確にモデル化可能。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
2
Anthropic、「Claude Opus 5」公開 Fable 5に迫る性能を半額で――サイバー安全策は緩和、拒否時は自動フォールバックも
-
3
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
4
「iPhone高騰」はこれからも続く? 中国CXMTに近づくApple、メモリ競合へのけん制が不発に終わりそうなワケ【後編】
-
5
「ニューロマンサー」実写ドラマ、Apple TV+で2027年1月配信開始へ
-
6
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
7
海外の新作バカゲー「電車アタック」にマンガ家が感心した理由 ブッ飛んだ内容と完成度の高さ、そして“日本”
-
8
「めっちゃカメレオン」公式Discord乗っ取り 担当者PCがマルウェア感染、管理者が全員BANに 現在は復旧
-
9
暑さ対策が熱い! 「猛暑対策展」で感じた、転んでもただでは起き上がらない日本人のエネルギー
-
10
スーパーに並んだ「ごちゃごちゃ生成AIポップ」が物議 “看板王”こと、きぬた歯科院長「これはアリ」
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR