小寺信良のIT大作戦
恐るべき新製品ラッシュ ニコンにキヤノンにAppleまで? 「シネマカメラ」に熱視線のワケ(3/3 ページ)
ゲンロックとタイムコードをサポートする意味
iPhoneのゲンロックとタイムコードのサポートに、どのような意味があるのだろうか。それは、マルチカメラ収録に対応するという意味に他ならない。リテイクのきかないシーン、例えば車が壊れるとか建物を爆破するといった撮影では、複数台のカメラで別々のアングルを狙って撮影する。
この時、カメラの仕込み位置の都合で小さなカメラも必要になるわけだが、iPhoneのような薄いカメラは使い道が多い。これまでは撮影しても、他のカメラとタイミングを合わせるには音声を頼りにしたり、あるいはカチンコのようなものから推し量るしかなかったが、シネマのように24コマや30コマでの撮影では、カメラの撮影タイミングがバラバラだと、厳密にはピッタリ合わない。タイミング合わせはフレーム単位でしか合わせられないので、30コマ撮影の場合は最大で1/30秒の半分、1/60秒ズレる可能性がある。なんで最大が半分なのかというと、半分以上遅れたらもう次のコマにタイミングを合わせた方がマシだからである。
ゲンロックは、このカメラの撮影タイミングを完全に同期させる仕組みだ。アナログ時代は複数の機材を同時に使うためには必須だったが、デジタル時代になってタイミングが自動引き込みになり、ネット中継のようなローバジェットの現場では使われなくなった。
その技術が改めてiPhoneに導入されるということは、iPhoneがお金がない現場の必需品ではなく、ハイバジェットの現場でも使えるようになったという意味になる。
タイムコードの利便性については、ご存じの方も多いだろう。タイムコードは時間的なアドレスなので、全部のカメラに同じ時間を流し込んでいれば、編集時には各クリップが同じ時間上に並ぶ。つまりタイムコードは、編集時の利便性のための仕組みである。従ってライブ配信などのライブイベントでは必要ない。
タイムコードがあればゲンロックはいらないんじゃないかと思われるかもしれない。確かにタイムコードは記録した時間でタイミングを合わせるものではあるが、ゲンロックはそれよりもさらに細かい時間単位、すなわち各カメラによる1コマ1コマの撮影タイミングを合わせるための仕組みである。よってタイムコードを入れただけでは、上記のように1/60秒ズレる可能性は否定できない。
話をまとめると、この9月上旬に発表された映像関係の製品は、ほとんどがシネマを目指しているということである。これは本当にハリウッドクラスのガチ映画から、Web動画やミュージックビデオその他もろもろの映像作品のほとんどが、シネマのワークフローで作られるようになったということの裏返しでもある。
さらに言えば、このワークフローがiPhoneの中だけで完結する可能性も出てきた。9月5日に発表された「Premiere iPhone版」の登場は、撮影から編集、MAまで、iPhone上だけでプロクオリティーのコンテンツが作られる可能性を示唆している。こうして情報を集めてみると、この9月上旬の発表ラッシュがいかに異常であるかがお分かりいただけたかと思う。
ハイエンドシネマカメラはまだまだプロ専用機だが、シネマという表現手法と方法論に関しては、もはやプロとアマチュアの境目は失われつつあるのかもしれない。「何で作ったか」ではなく、「何を作ったか」がよりストイックに評価される時代に入ったのだといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「食事量は1日1200kcal以下、でも肥満」な人を14日間追跡調査 痩せない理由は……米コロンビア大などの研究
-
2
なぜ酒蔵の許諾なしに? 「VTuberコラボ日本酒」騒動、主催者が経緯説明 仲介者による調整で「準備進んでいると認識」
-
3
かっぱ寿司「配布前のコラボグッズ、フリマで買わないで」 プリキュアコラボ発表日に注意喚起
-
4
本物そっくり“AI生成レシート“が経費精算の脅威に マネフォ「自力で見破るのは難しい」 企業はどう備える?
-
5
「ペンギンを返して」→「3匹全部採用して」 批判殺到のSuica新キャラ、ファンアートが空気を変えた? SNSの声
-
6
「菜の花がおかしい」――イラストレーター制作うたうマラソン大会ポスターに指摘相次ぐ 事務局がAI使用明かす【訂正あり】
-
7
「iPhone Duo」純正ケース話題、「面白いけど高い」……1万4800円と2万4800円
-
8
「ランジェリーパープルじゃない」「買おうと思ってたのに」 iPhone 18 Pro/Pro Maxの色に落胆の声
-
9
幻の「ちいかわ」コラボ第3弾皿、捨てちゃうの? くら寿司に聞いてみた
-
10
藤井風のリサイタル、公式サイトがインターネット老人会すぎると話題 公民館のチラシみたいだけど東京ドーム開催
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR