分かりにくいけれど面白いモノたち
“書ける”のは同じ、では「高級筆記具」とは何か? 「KOKUYO WP」開発者に聞いた素材と技術、その目的の話(3/4 ページ)
個人的には、無駄に贅沢でゴテゴテと飾られた、実用性無視の万年筆も嫌いではないのだけど、あれは筆記具というより、やはり別のものだろう。しかも最近は、その方向はあまり流行っていないっぽい。人気があるのは蒔絵万年筆くらいではないだろうか。
今回の限定軸は、スタンダードのタイプと違い、軸にランダムな間隔で細い溝が掘られている。これは木軸、金属軸共通なのだけど、もともとは、木軸のために考えられたデザインだったそうだ。
「軸に施した切削加工は、カリモク様と『木であることをどう伝えるか』を突き詰めて考えた結果です。木のぬくもりを伝える手段として、手加工のような温かみのあるフォルムに辿り着きました。それに合わせて、キャップにもランダムライクなスリットを入れることで、軸との一体感が生まれ、工芸品のような佇まいを持つ工業製品が実現しました。キャップは木の樹皮を、胴軸はそれを鑿(のみ)で削り出した木肌をイメージしています。木材が加工されていく過程を、ペンのデザインで表現したわけです」。
開発担当者の話は、あくまで工芸品ではなく工業製品であるという矜持と、その上で、工芸品的な筆記具を否定しないという姿勢が感じられて気持ちがいい。製品を持った時に嫌味な感じがないのは、こういう姿勢のためだろう。安易にアートに走らない姿勢には好感が持てる。
今回の木軸の最も面白いと思うポイントは、その個体差の激しさだ。木軸の筆記具は、木の肌を見せようとすると、多かれ少なかれ木目などの違いで個体差は生まれる。それは木工製品の魅力の一つなのだけど、工業製品としては、あまりに個体差が激しい製品は世に出しにくいはずだ。ところが、今回、そこを踏み外す勢いで、まるで別の製品といっていいくらい、木目や木自体の色に差があるのだ。
イチイガシは、古くは工具の柄などに使われていた素材だ。「丈夫で手になじみやすい木です。また、樫には虎斑(とらふ)と呼ばれる美しい斑紋が現れることがあり、一本一本に豊かな個性が見られます。筆記具の軸に使うにあたっての欠点は特にありませんが、あえて挙げるとすれば、虎斑の出方が一本ごとに大きく異なるため、お客様によって好みが分かれる可能性があることでしょうか。しかし、最も大切にしているのは木の個性なんです。工業製品では通常、不良とされてしまうような違いやバラつきも、木の個性として捉え、できる限り多様性を受け入れた製品として提案することを心がけています。これが、コクヨが木軸を作る上で、カリモク様と同じ『森との共存』という理念を共有することにつながると考えています」。
そんな言葉の通り、一本一本、とても個性的な軸になっていて、ここまで違うとかえって選ぶ楽しみが生まれる。かつて、ジミー・ペイジ愛用のレスポールの表面に入った虎のような木目が「トラ目」と呼ばれて、それにすごく憧れていたことを思い出したり。実際、アコースティックギターを選ぶ際に、木目の入り方と木の色を一所懸命見るのは当たり前で、そういう筆記具があってもいいような気がする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
分かりにくいけれど面白いモノたち
ITから文房具まで幅広く活躍するベテランライター、納富廉邦さんが言語化しづらいけど面白いガジェットやサービスを分かりやすく解説します。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「Xが情報収集に役立たない……」熊本地震で不満の声続出 「Twitterを返して」
-
2
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
3
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
4
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
5
はてな、11億円流出の調査報告書を公開 偽警察、口外禁止、残業・休出200時間超、孤立……ほころびが連鎖
-
6
Z世代に聞く次の流行、「AIイラスト」が1位に 「Claude Code」も上位
-
7
携帯各社、熊本の一部で通信障害 震度7の地震で 他社回線につながる「JAPANローミング」開始【追記】
-
8
東野圭吾さん死去、Xなどで追悼相次ぐ 「ガリレオ」など数々の人気作、エンジニアから転身
-
9
NVIDIAやMicrosoftなど30社超、オープンAIの防御ツール共同開発の「Open Secure AI Alliance」設立
-
10
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR