小寺信良のIT大作戦
AI規制をビッグテックはどう見る? 公取委のフォーラムでApple、Google、Microsoft、OpenAIが語ったこと(2/2 ページ)
OpenAIの主張
OpenAI 最高経済政策オフィサーのアダム・コーエン氏は、AI市場の将来像は直接予測することは困難であるため、分析的アプローチを取るべきと主張している。
まずは10年後の理想的な市場のあり方として、多数のプレイヤーが存在し、活発な新規参入、あるいは撤退があることを定義し、そこから逆算して現在何が必要かを考える施策のあり方を提案した。
過去のテクノロジーの事例から、未来の競争を左右する重要な要素として、以下の2点を挙げた。
1. インプットへのアクセス
モデルの学習に不可欠なチップ、データセンター、データ、電力などへのアクセス。
2. 流通チャネル
製品が消費者に届くまでのプラットフォーム、仲介者の有無、料金体系などのルール。
よってAI分野の競争政策は、上記2点にフォーカスすべきだとする。日本の行政は建設的に企業と協力するアプローチを取っていると評価するが、今後もDMAやスマホ新法から得られるエビデンスを、次世代のルールづくりに生かすことが重要だとする。
すなわち、10年後のルールを今定義するのではなく、将来の競争を阻害しうる「障壁」は何かを、エビデンスに基づいて分析する。特に競争を促進する視点を持つこと、そして市場が効果的に開放され、企業も消費者も自由に選択できる環境を確保することが求められると提言した。
要するに、技術進化の早いAI市場に対して、今から規制を行えば硬直化したルールになってしまう、もっと分析を回して介入するタイミングが来たらスピード感を持ってやるべき、ということである。
Microsoftの主張
MicrosoftはAppleらが参加するディスカッション3ではなく、「プラットフォーム型経済において中小事業者がいかに成長するか」をテーマにしたディスカッション2に登壇した。このため発言の趣旨は法規制ではなく、中小企業への支援策に集中しているが、AIプラットフォーマとしての立ち位置を解説しており、参考になる。登壇したのはアジア地区 競争政策・市場規制責任者のジョイ・フユノ氏である。
AIの技術スタックは、クラウドと同様に階層構造を持っているという。
- 最下層(インプット):電力、コネクティビティ、チップなど。これらがデータセンターに集約される。
- 中間層(計算資源・基盤モデル):データセンターが計算資源を提供し、それを基に基盤モデルが開発される。この基盤モデル層がプラットフォームレイヤーに相当する。クラウドサービスもこの層で計算資源を提供する役割を担う。
- 最上層(アプリケーション・ツール):ユーザーが直接触れるアプリケーションやツール群。
この階層構造を「内向きのピラミッド」と表現し、最上層であるアプリケーションとツールの開発が今後さらに拡散・拡大していくとの見通しを示した。このエコシステム全体の健全性を評価することが重要であり、そのためには各レイヤー、特に中間層であるプラットフォームプロバイダーには、上位レイヤーにおけるイノベーションと競争を促進する責任がある。これは自社の成功だけでなく、エコシステムに参加する他社の成功にも目を向ける義務があるとする。
MicrosoftはクラウドAIプラットフォームプロバイダーとしての役割を認識し、2年前に発行した「AIアクセス原則」について言及した。これは製品設計や事業運営のガイドラインとして機能する。
この原則は、主に3つの領域に焦点を当てている。
原則1:AIデベロッパーへのアクセスとサポートの提供
イノベーションと競争を促進するため、プラットフォーム、ツール、サービスを広範に利用可能にする。
原則2:AIエコノミーにおける選択と公平性の提供
AIモデルに対するパブリックAPIを提供し、Azure上だけでなく、他の環境からもアクセスできるようにする。
原則3:社会的責任の遂行
サイバーセキュリティ、責任あるAI、スキリング(人材育成)、サステナビリティの分野に注力する。
これらのアクセス原則は、データポータビリティ等を確保するために、Microsoftが数十年前から取り組んできた相互運用性の原則の延長線上にあると説明した。
素早い介入に必要なもの
さて、ここまでの話を総括すると、EUのDMAや日本のスマホ新法は、米国ビッグテックに対して競争法を適用することで、中小企業を含めた競争を促進するためのルールであった。だがAIにおける競争はビッグテックだけのものではなく、中小企業やスタートアップにもチャンスがある。このため政府による市場介入は、ビッグテックそのものを規制して中小企業を保護するのではなく、競争市場そのものを保護するべき、という主張である。
ただMicrosoftの解説にもあるように、AI技術のうち最下層と中間層はビッグテックが握っているのも事実だ。よってビッグテック自身も、中小企業やスタートアップに対して公平にリソースを使用させる義務を負うという考え方は妥当である。
とはいえ、こうした義務が履行されない場合には、速やかな政治的介入は必要だろう。AIサービス成長のスピード感からすれば、介入に数カ月を要しただけでチャンスを失う企業も多く出てくる。
こうした素早い介入を実現するには、常時専門職員による市場の監視・分析が欠かせない。また分析結果も一国で閉じるのではなく、企業や規制当局、学会など多くの視点が世界レベルで共有されるべきだろう。
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ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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