小寺信良のIT大作戦
Pixelに追加された「デスクトップモード」で仕事はできる? 執筆作業に使って見えた課題と将来性(2/2 ページ)
リアルに仕事で使えるか
Pixel 10 Proシリーズはカメラとしても非常によくできており、イベント取材の撮影などでも多用している。またレコーダとしても、AIを使ったサマリー化や翻訳などもできるため、取材の場合は素材がここに集まってくるという状況にある。よってあとはPixel内で原稿がかければ、取材記事のほとんどがスマホ内で完結することになる。
写真のトリミングや補正は「Googleフォト」で対応できるので、別途アプリを用意する必要はない。原稿と写真をまとめてフォルダ管理する必要はあるが、これはローカルでやるよりDropboxなどのクラウドストレージが参照できるので、そちらでまとめたほうが他のマシンとの共有が楽である。
テキストエディタとしては何がいいのかは悩むところである。昨今主流となりつつある「Markdown」形式で書けるものが望ましいが、アプリとしてはあまりめぼしいものがなかったので、「Obsidian」を使うことにした。これは専用クラウドで他のパソコンとも同期しているので、バックアップもかねる。
ただデスクトップアプリとしては、テキスト入力画面が一定の幅以上広くならず、縦長のままである。これはMS WordでもGoogle Documentでも同様だ。これまでスマホ画面での使用しか想定していないので、ウィンドウいっぱいにテキストを展開して自動で折り返すという機能が実装されていないのだろう。
デスクトップアプリとして使用するには、現時点でのAndroidアプリの仕様そのままでは具合が悪いところも散見される。ただこれはアプリ側のデスクトップモード対応のアップデートが行われれば、徐々に解消されてくるだろう。
日本語入力は標準の「Gboard」を使用してみたが、Gboardは「Google日本語入力」と一体化したので、変換効率としては悪くない。ハードウェアキーボードからの入力スピードにもちゃんとついてこられるだけのパフォーマンスを発揮する。
調べ物をするのにブラウザは欠かせないが、Chromeは複数のサイトを開くとタブ表示になるなど、デスクトップらしい表示に変わる。機能的にも遜色ないと言いたいところだが、Android版Chromeは拡張機能が使えないので、そこが弱点である。
以前筆者はiPadで原稿仕事をしようとトライしたことがあるが、断念した。その理由は、Webアプリに対してローカルファイルをアップロードする際に、ファイル選択ダイアログ内で複数のファイルをいっぺんに選択するという、マルチ選択ができなかったからだ。例えば複数のマークダウンファイルから1つの「ePub」ファイルを生成してくれる「でんでんコンバータ」を使用する際は、アップロードするファイルを複数選択する必要がある。
デスクトップモードのChromeで試してみたところ、マルチ選択はできた。ただし、クラウドストレージにあるファイルはアップロードできなかった。ローカルにあるファイルでもテストしてみたが、マルチ選択したファイルはアップロードできず、1つのファイルを選択してのアップロードしかできなかった。マルチ選択されたファイルを順次処理するという機能が、OS側でサポートされていない可能性がある。
UIという面では、単にPC用のキーボードやマウスでいいのかという課題もあるように思う。というのも、スマホアプリは画面スワイプによる高速縦スクロールと「戻る」動作を多用する。この動作は一般的なキーボードやマウスでは実装されていないので、いずれ専用品が登場するかもしれない。
これをいつ使うのか
デスクトップモードでそれなりの仕事をしようと思ったら、Pixel以降のスマートフォン、ディスプレイ、接続ケーブル、ポインタ付きキーボードが必要になる。昨今は中身なしのノートPCみたいな、外部ディスプレイとキーボード、ポインティングデバイスが一体化したデバイスも出始めている。14型程度でだいたい3万円台で入手できるようだ。コンパクトにまとめようと思えば、Pixelとこれとの組み合わせがベストソリューションだろう。
だがすでにスマホは手元にあるとしてプラス3万円ぐらいの出費を考えるならば、もう「Chromebook」が買える。2019年以降に発売されたChromebookであれば、Androidアプリの実行は標準化されている。しかも「ChromeOS」はLinuxアプリもサポートしているので、Pixelにおけるデスクトップモードよりもやれることは多いはずである。
仮にディスプレイは先方にある、という状況を仮定しよう。それならスマホの他はケーブルとポインタ付きキーボードがあればよい。例えば先方の会議室にいってプレゼンするといった目的であれば、このセットでいけるかもしれない。
ただ新しい機能ゆえに先方のディスプレイにうまく繋がらないとか、現場でぱぱっと資料を直したいといったことまで考えると、ノートパソコンなしでこれだけ持っていくというのは、相当に度胸のある話である。バックアップとしてスマホでも出せる、と考えておくほうが無難だろう。
スマホ用の強力なSoCをコンピューティングに応用していくという方向性は見える。今後アプリとAIが融合していくなら、ニューラルエンジン内蔵SoCは有利に働く。10万円ぐらいのスマホSoCで動くノートパソコンだ。
だがそれを人は「MacBook Neo」と呼ぶのである。スマホに周辺機器を繋いでパソコン化するより、スマホ用SoCをコンピューティングに必要な舞台装置一式と一体化し、コンピュータ用OSを走らせるほうが合理的だ。
もちろん、Googleも同様のことを企画しており、年内には「Aluminium OS」として登場することが期待されている。専用ハードウェアも出るだろう。これに向けての動作検証環境を用意するという点では、Pixelがデスクトップモードを搭載したというのは意味がある。
そう考えていくと、今回のデスクトップモードはこれ単体で何らかの新しいソリューションだと考えるのではなく、スマホ用SoCを使ったコンピューティングに向けて、Androidアプリを一斉にデスクトップ対応にするための前哨戦だと考えるほうが妥当であろう。
両社の方向性は、そのまま自分たちが持っている手札がそのまま反映されている。AppleはMacOS用アプリもiOSアプリも両方持っており、CPU/SoCも両方持っている。それらを垣根なく混ぜようとしている。
一方Googleが持っているのはスマートOSとスマホアプリで、デスクトップアプリを持たない。SoCもスマートフォン向けのみだ。ChromeOSはもともとLinuxカーネル上にブラウザをかぶせたものであり、いわば借り物であった。一方Aluminium OSは完全Androidベースになるので、必然的にAndroidアプリに強化を求めていく方向になる。この「手札」で勝負しようと思ったら、まずは手持ちのPixelから拡張していくという戦略になる。
最終的にはスマホSoCでのコンピューティングを目指すというゴールは、どちらも同じだ。その先にあるのは、収斂か拡散か。いずれにしてもスマートフォンの革新性はすでに行き詰まっており、その次を開拓するためにもがいているというのが、今の状況だろう。
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小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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