ネットの経験は「きれいさっぱり忘れる」──LINEヤフー会長を退き“AIと起業”に挑む、川邊氏の起業論(2/3 ページ)
退任の決め手は「生成AI」
──昨年末、「X」で退任を発表されました。LINEヤフーの会長職を退くという投稿はかなりの反響を呼びましたが、退任を決断したきっかけは
生成AIに大いに関係します。会長になった後は、ガバナンスだとか対政府だとか、セキュリティインシデントが落ち着くまでとか、技術とはあまり関係のないところでの仕事が多かった。そんな中で生成AIが出てきて、スマートフォンと同じぐらい、いやそれ以上のものすごいインパクトのある展開になってきました。
大体、会長としてやらなきゃいけないことは落ち着いてきた。もし生成AIの技術がここまで進化していなかったら、引き続き会社に残って新しいサービスを作ったりしていたかもしれないです。でも生成AIの登場と急速な進化によって、1人でもサービスを作って事業ができるようになる。だったらすがすがしく辞めて、後輩たちに気持ちよく託して、自分は自分でまた新しいチャレンジをしようと。ほっといても老害化しますから。この決断を気持ちよくできたのは、ここまでAIの技術が進歩したからですね。
──ご自身でも生成AIをかなり使われていると聞きます
もう使いまくってますね。昨日一昨日も狙って時間を確保して、ずっとAI相手に新しいサービスを3つぐらい試しに作ってみて、こういう感じかと体感していました。「Claude Code」を使ってバイブコーディングして、サービス作って自分で使ってみて、というのを繰り返していましたね。
──経営者時代はそういう時間が取れなかった
やっぱり会議ですよね。会議が個人の時間を奪い続けるので。昨日一昨日で言うともう夢中になっちゃうわけですよ。多分辞めた後これに没頭すると思います。だから今いちばん確保しなきゃいけないのは時間だなと思っています。
「AIと起業する」──ネットとAIは全然別物
──退任の際に「AIと起業する」と投稿されました。メンバーを集めて少数精鋭でスタートアップを立ち上げるのではなく、AIを起業パートナーにするということですか
まさしくそうですね。人間は自分だけ。AIでできる範囲でしかやらない。そこにこだわってやってみたいと今のところ思っています。
──なぜそこまでAIに振り切るのですか
ネット産業の誕生から成熟まで、全部一通り体験してきました。ここまで大きくなった産業に丸ごと携われたのは、一生に1回の経験ですよね。ただ、ネット産業がたった30年であそこまで巨大化するスピードの速い産業だったし、私自身も二十歳ぐらいで起業してガーッとやってきた。だからまだ時間がある。もう一産業、同じような面白い体験ができるんじゃないかという期待を、ここ数年AIの技術の進歩によって持てるようになりました。
当時、ネット企業の起業家としてやったことはネットに特化することだったんです。よく日本人って好きじゃないですか、アナログとデジタルの良さを両方取り入れてとか。それは世界では中途半端って言うんですけど。そういうことはやらなかった。ネットに振り切ったからこそいろんなものが作れたし、ポジションも作れた。AIでも同じことをやればいいんじゃないかなと。
──ネット産業の延長にAI産業がある、という見方ではないのですね
全然別物だと思いますね。もちろんネット産業の技術から生まれたものではありますけど、違うものです。日本のITの強力な事業者がネット産業では主要なポジションを占められなかったように、ネット産業のプレイヤーがAI産業で主要な位置を占めるかは全く分からない。むしろかえって邪魔するようなこともあるんじゃないですかね。
恐れているのは、ネット企業の時の経験が災いして勝負できないということです。特に社長・会長を10余年やってしまったので、組織立った大きな会社を動かす癖がついてしまっている。
ネット産業をやっていた時に、その前の既存産業の人たちのやり方を見ていて、そんなの忘れてネットに特化しちゃった方がいいのにって思っていたことがいっぱいあったんです。だからネット産業のことはきれいさっぱり忘れて、AIネイティブになる。自分とAIだけでやることにこだわりたいです。
AI時代の起業──メリットは速さ、デメリットは孤独
──生成AI時代に起業するメリットとデメリットをどう見ていますか
メリットは、2日で3つサービスが作れてしまうぐらいのスピード感ですよね。ネット産業の晩年は本当に大変でした。資金調達して、高給取りのエンジニアを雇って、ビジョンだのミッションだの決めてモチベーションを上げて、それでも辞めると言い出す人をマネジメントして。1つのサービスを作ること自体がものすごく重くなっていた。それがAIによって、そういうプロセスなしにできてしまうのは、起業にはめちゃくちゃプラスです。
──デメリットは
まねはめちゃくちゃされるでしょうね。「何々みたいなサービスで何々じゃないやつを作って」と指示すれば、それっぽいものができてしまう。絶え間ない競争が繰り広げられることになると思います。
それと、資金調達して仲間を集めるプロセスはものすごく大変でしたけど、参入障壁にもなっていた。それがなくなって、誰もが思い付いたらすぐ形にできる市場になる。孤独であることは間違いないです。チームワークのダイナミクスがないぶん、メンタル的にきついというのもあるんじゃないでしょうか。
──AIは話し相手にはなれないのでしょうか
AIとは笑いあえないでしょうからね。よく経営やマネジメントの講演で、大変な時こそ笑える仲間がいるから耐えられるという話をするんですけど、その裏側には、1つの重要なことを一緒にやっているから苦労も分かるし笑い合えるという含みがある。1人でやるとなると、単に笑えるだけでは意味がないんじゃないかという気がしますね。
──自分とAIだけで事業ができるようになった時に、初めて人を雇うとしたら何を任せますか
経理の人を雇いましょうとかではなくて、話し相手を雇う。そういう展開はあり得るかなという気がします。
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