小寺信良の「プロフェッショナル×DX」

Adobeそっくり「ArtCraft」の動画編集ツールを試す AIで挙動を再現した“クローンソフト”はアリなのか(3/3 ページ)

こうした方法論は、「アリ」なのか

 ArtCraftが公開している数多くのソフトウェアは、それぞれ元になったソフトウェアがある。ソフトウェアの仕様と挙動をAIに解析させ、それと同じ動作になるようAIがソースコードを自動生成するという方法論で制作されている。ただ開発者はもともと自分でソースが書ける開発者なので、単純なバイブコーディングで作られているわけではないと主張している。

 プログラムも著作物であり、著作権法で保護されるが、それはデッドコピーの禁止であったり、ソースコードの無断利用という点で機能する。しかし挙動をまねて別のソースコードで同じものを作るということが著作権的にどうなのかは、正直よく分からない。例えば絵画であれば、違う画材でトレースしたとしても複製権の侵害にあたることは考えられるが、プログラムの場合にも同じことがいえるのか。

 UIに関しては、かなりPremiereに似せて作られているのは、見て分かる。ただこの画面UIを特許や著作権で保護するのは難しい。例えば左がソースモニター、右がプログラムモニターという配置は、ノンリニア編集ツールが登場する以前から、ポストプロダクションのビデオ編集室の設計ガイドラインとして規定されていたものであり、Premiereはそれに倣ったものであると考えられる。

 つまり映像編集の世界では、ユーザーがいろんな機材を支障なく使えるように、極力インタフェースを同じにするという努力が行われてきた。実際多くの編集ソフトのUIも、大なり小なりPremiereと似ている。すでにPremiereが使える人は、他の編集ソフトもほぼ問題なく使えるだろう。

 それを踏まえて、Premiereとそっくりのツールが存在することに、どのような意義があるのかを考えてみたい。

 すでにPremiereが使える人はFilmCraftも使えるわけだが、Premiereを習得した人はすでにPremiereを所有していると考えられるので、それはそのままPremiereを使えばいいんじゃないか、ということになる。Premiereをまねる以上、Premiere以上の機能になることはないように思う。FilmCraftは現在無料で利用できるが、将来的には分からない。商業版として有料ツールになるかもしれないが、そこに価格競争力があるのかも問題になるだろう。

 UIの特許侵害ということでAdobeが争った例は、少ない。2000年に当時の「Macromedia Flash」に対し、UIの一部が特許を侵害しているということで訴えている。これは2002年に侵害が認められたが、同年逆に米Macromediaが「Illustrator」とPremiereに特許侵害の疑いがあるとして反訴した。これはのちに和解となったが、結果的に2005年にMacromediaはAdobeに買収された。

 細かい部分のUIの特許は存在するのだろうが、画面全体の構成に関しては、特許を取得していないか、すでに特許が切れているのかもしれない。

 ただ今後、このUIが「著作物」であると認められる可能性もある。米国のギターブランド「Fender」は、同社「ストラトキャスター」のコピーモデルに対して、著作権侵害として販売停止を求めているのをご存じだろうか。なにを今更、という話ではあるが、これは2025年にデュッセルドルフ地方裁判所で、ストラトキャスターのボディー形状が著作物であると認められた裁判結果を受けたものだ。

 PremiereのUIもあるいはどこかの地方裁判所で著作物と認定されれば、似たようなUIの利用停止が求められるかもしれない。

 もう1つ、Premiereの財産は、膨大な数のマニュアル、解説書、チュートリアルが存在することだ。初心者でも学習できる手段が多く存在する。一方でFilmCraftのようにAIでどんどん開発が進むソフトウェアの場合は、そもそもマニュアルのようなドキュメントの方が間に合っていない。これはある意味、ソフトウェアを似せることで、初学者の教育コストをフリーライドしているともいえる。

 いずれにしても、似たようなソフトが別ソースにより制作されてしまう企業は、Adobeにとどまらなくなるだろう。こうした動きが広がれば、遠からず何らかの大掛かりな知財訴訟が起きるかもしれない。

 また既存のソフトメーカーは、新機能や新UIに対して、これまで以上に特許で固めることになるだろう。AIで開発はスピードアップするが、特許認可でリリースが止まるということも起こり得る。

 消費者は、高級ソフトと似たようなものがこれからは無料で、といった単純な話ではなくなる可能性もあることを、覚悟しておく必要がある。

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