サイバーエージェントが女性エンジニアを増やす理由
女性エンジニアの採用強化を掲げるサイバーエージェント。競合各社との間でエンジニアの獲得競争が激化する中、同社が特に女性の採用に注力する理由とは――同社の人事担当者やエンジニアに聞いた。
サイバーエージェントは今、女性エンジニアの獲得に注力している。男性中心の世界と思われがちなエンジニアだが、同社があえて女性エンジニアの採用を積極化させる狙いを聞いた。
昨年11月、同社は女性エンジニアの採用を強化する方針を打ち出し、女性エンジニアのスキル・環境向上を目的としたプロジェクト「LE・LIFE」を発足。今年1月には女性のみで構成する開発チームを立ち上げる予定だ。
同社の狙いを、技術職の採用担当を務める大八木晋平さん、エンジニアの奥田順子さん、広報ディレクターの鳥羽綾子さんに聞いた。
左から、大八木晋平さん(人事本部 技術人事室シニアマネージャー)、奥田順子さん(アメーバ事業本部プラットフォームディビジョン システムディベロップメントグループ)、鳥羽綾子さん(Amebaプロモーション室ブランド/広報ディレクター PRSJ認定PRプランナー)
女性向けサービス開発に注力できる体制を
大八木さんによれば、女性エンジニアの積極採用を進める狙いの1つは「女性向けサービスの開発強化」だ。同社の主力サービスである「アメーバブログ」「アメーバピグ」などのユーザー層は、20〜30代の女性が全体の7割程度を占める。「この層に向けてサービスを作っていくことは合理的と考えている」と大八木さんは話す。
「サービスをたくさん使ってもらうために『コミュニケーション』を重視すると、その部分で多く使ってくれるのは女性ユーザーが多い。特に、子どもがいて家にいることが多い30代の主婦層など、可処分時間の長い人にコミュニケーションツールとして長く使ってもらえていると思う」(大八木さん)
具体的には、昨年10月に新設した「ネットビジネス総合事業本部」で女性エンジニアの採用を積極化させ、女性向けサービス開発を加速していく。同事業本部は設立後2年間でスマートフォン向けを中心に100の新サービスを生み出すのが目標。「(スマートフォンが普及する以前から)女性はケータイを積極的に使いこなす人が多かったので、それをスマホ向けサービスの開発にも生かす方向で事業展開していくことになるだろう」(大八木さん)
女性向けサービスを女性エンジニアが開発する――という方針は、女性としての感性を生かしたサービスをより意欲的に開発できるようにするのが目的だ。「30歳や40歳の男性が若い女性に響くようなサービスを作ろうとしても、なかなかイメージがわかないと思う。例えばコスメやネイルを扱うサービスの開発は、男性にとっては勉強しても難しい。やはり、女性エンジニア本人が『これはヒットするよね』と話し合いながらサービスを開発する体制が一番望ましい」(大八木さん)
こうした人事面の狙いは、従来からも同社のサービス開発に反映されてきたという。かつてWebサービスの開発に携わっていたという奥田さんは「当時のチームは女性がほとんどだったが、『デザインはこの色がいい』というように楽しく話し合ったりして、毎回のミーティングがとても盛り上がっていた」と振り返る。実際、アメーバブログの友達にアイテムを贈れる「Amebaプレゼント」や、ホストクラブを舞台としたモバイルゲーム「私のホストちゃん」、撮影した写真を加工・共有できるAndroidアプリ「girls pic」などは、いずれも女性メンバーが中心となって開発したサービスだという。
激化するエンジニア獲得競争 採用面での差別化も
「本音で言えば、(女性向けの採用体制を強化することで)採用の差別化を図りたいという狙いもある」と大八木さん。スマートフォンアプリ市場の拡大などに伴うエンジニア獲得競争の激化も、同社が女性エンジニアの採用強化を打ち出す1つの背景になっているという。
一昨年には、ドワンゴ、グリー、ディー・エヌ・エーが中途採用のエンジニアに対して高額の入社準備金(126〜200万円程度)を支給するという制度を相次いで導入して話題となった。だがサイバーエージェントの藤田晋社長は高額の準備金などには否定的で、代わりに現役のエンジニアやクリエイターに無償講座を開き、合格者に内定を出すという制度を用意。今回の取り組みも差別化戦略の一環だ。
「結局、会社の内側でどのようにサービスを開発しているかは、実際に入社してみないと分からないのが中途採用の現状だった。そこで当社では、面接の過程に必ず女性の面接官を含めて、社内の実情を話し合ったり見てもらったりするようにしている。また『実際にこういう女性向けアプリを作る予定だが、チームはこういう感じでデザイナーは女性で……』というような話を面接中にする場合もある」(大八木さん)
同社はグループ全体で年間300〜400人ほどの中途採用者を迎えているが、中でもSI事業者などから転職してくるエンジニアが多いという。「BtoBからの転職希望者からは『自分が実際に使うサービスや、家族に誇れるサービスを作りたい』という声を多く聞く」と大八木さん。こうした中、女性エンジニアが“自分が欲しいと思えるサービス”を作り出せる場を用意していることを、採用活動の中で全面的に打ち出していきたいという。
女性エンジニアの採用強化に合わせ、ワークスタイルの柔軟化にも取り組んでいく。新プロジェクト「LE・LIFE」では、結婚、出産、育児などのライフイベントに合わせた就業環境を整えていく。
「女性にはさまざまなタイプの人がいて、結婚後も男性と変わらずバリバリ活躍したい人や、出産したら自分のペースで能力を発揮していきたい人など、男性よりも多様なパターンがある。こうした意味で、会社として配慮が重要なのは男性よりも女性だと思う。そこで、いろいろな女性の考え方や環境に合わせた場を提供できれば、より多くの優秀な女性エンジニアを獲得できるようになるし、既に入社している女性社員もハッピーになれる」(鳥羽さん)
同社社員の平均年齢は29.7歳。社員の結婚や出産などの事例がそう多くなく「結婚後も同じように仕事ができるかということが、会社として課題になっている」と奥田さん。仕事やキャリアに対する考え方が多様化する中、エンジニアの女性比率向上は男性エンジニアにとっても働き方と向き合う機会になるかもしれない。
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