“ハイエンドすぎる”液晶ディスプレイ――「HP DreamColor LP2480zx」を拝む:10ビットS-IPSパネル+超広色域(3/3 ページ)
日本HPの「HP DreamColor LP2480zx」は、圧倒的な性能を誇るカラーマネジメント対応の24型ワイド液晶ディスプレイ。その名の通り、“夢のディスプレイ”なのか?
一目で分かる広色域、sRGB色空間の発色も正確
続いてLP2480zxの画質をチェックしてみるが、1つ大きな注意点がある。冒頭でも述べたように、LP2480zxは10ビット駆動の液晶パネルを採用して階調性に注力しているが、現状で10ビット表示を生かす環境は整っていない。
RGB各色10ビット駆動のネイティブモードで利用するには、同じくRGB各色10ビット対応のグラフィックスカード(エーキューブの「FireGL V7700」が対応カードとして発売中)が必要とうたわれているが、日本HPによると現時点ではWindowsのOS自体が10ビットの表示に対応していないこともあり、アプリケーションが10ビット以上の映像を扱えても画面上での10ビットフル表示は難しいという。次期Windowsではサポートが進む予定とのことで、LP2480zxの潜在能力を最大限に発揮させるには、今しばらく時間がかかりそうだ。
ちなみに、現時点で10ビット表示を行うには、10ビットRGB信号(HD-SDI)の映像ソースをHDMIコンバータ経由でLP2480zxに接続させる方法があるという。
というわけで、今回の試用にはGPUにNVIDIAのGeForce 9600 GTを採用したRGB各色8ビットの一般的なグラフィックスカード(PCとはDVI接続)を用いて、Adobe RGBとsRGBでハードウェアキャリブレーションした画質を確認した。Adobe RGBの広色域と色再現、sRGBの色再現、12ビットのルックアップテーブルによる内部ガンマ補正の階調性、S-IPS方式の液晶パネルの視野角特性などがチェックするポイントだ。
結論からいえば、約10億色表示のネイティブモードを利用せずとも、一般的な8ビット表示環境で色域の広さと発色性能の高さは十分に実感できる。Adobe RGBの画質は、アドビシステムズのPhotoshop CS2で確認した。デジタル一眼レフカメラで撮影したAdobe RGBの写真を表示してみると、sRGBベースの一般的な液晶ディスプレイとは発色がまったく違う。彩度が高い赤、黄、ピンク、オレンジ、緑、青といった色でも、くすまずに高い彩度で表示される。強引な例えだが、sRGBベースの液晶ディスプレイの発色を色鉛筆とすると、LP2480zxのAdobe RGB色空間はまるで蛍光マーカーのようだ。
また、かなり彩度の高い色でも色飽和せず、微妙な階調を判別できる。表示するデータの色がAdobe RGBの色域のピークを越えていれば別だが、少なくとも適切な露出で撮影したデジタルカメラの写真ならば、色の情報をほぼ正確に判断できるだろう。
階調性のよさは、黒から白の無段階グラデーションでも見て取れる。シャドウ寄りの階調がつぶれにくく、かなり「黒」に近いグレーまで、画面上で濃淡を判別可能だ。ハイライト寄りの白飛びについても、同じことがいえる。トーンジャンプもほとんど見られない。階調の見えかたはLP2480zxの輝度にも影響されるので、輝度の設定と環境光の明るさには注意が必要だ。
sRGBの発色もかなり正確だった。LP2480zxが搭載する画像処理エンジンは色域変換に対応しているため、LP2480zxの広大な色域をきちんとsRGBの範囲内にマッピングできているのだろう。Adobe RGB色空間の場合と同様に、階調性も優秀だ。色情報がsRGBの範囲内に収まっている画像データならば、色飽和せずに微妙な階調も見分けられる。
画面の輝度ムラや色ムラ、視野角特性についても、特に不満はない。画面の周辺部分や右端に近い部分で若干の輝度低下は確認できるが、「白」や淡い色の全画面表示でなければそれほど目立たず、色ムラはほとんど気にならない。制御が難しいといわれるRGBの3色LEDバックライトを採用しながら、高い均一性を確保できている。
S-IPS方式の液晶パネルということで、視野角による色度の変化はわずかだ。視野角の上下左右とも、多少の角度が付いた程度の位置から見る限り、ほぼ同じ色に見える。視野角が狭いTN方式の液晶はいうまでもなく、視野角が広いVA方式の液晶と比べても、画面を見る角度による色度変異の小ささにはアドバンテージがある。
広色域かつ正確な色再現が要求されるクリエイティブ用途に最適
以上、LP2480zxを一通りチェックしたが、さすがに高い表示性能を備えていることが分かった。静止画も動画も豊かな発色と滑らかな階調、正確な色再現を実現している。今後の希望を挙げるとすれば、10ビット表示環境の整備が進んで積極的にメーカーから対応状況などの情報公開がなされること(現時点では、具体的にどういった環境でLP2480zxの10ビット表示ができるのか、公開されている情報がほとんどない)と、前述したキャリブレーションソフトの機能アップだ。
LP2480zxは同社のPCワークステーションと組み合わせて使うことを考慮した完全にプロ向けの液晶ディスプレイなので、価格は非常に高価だ。しかし、Adobe RGBや各種放送規格をほぼ完全に再現できる広色域、ハードウェアキャリブレーションによるカラーマネジメント環境など、その実力は申し分ない。広色域の液晶ディスプレイや、静止画も動画も高精度なカラーマネジメントに対応できる液晶ディスプレイを求めているハイエンドユーザーにとっては、一見の価値があるといえる。
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