フィルタリングソフト義務化で中国人民の反応は?── 「ぶっちゃけ無理だろ」:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
中国では、新規販売PCに対する“中国製”フィルタリングソフトの導入が義務化される。7月1日の実施を前に、PCユーザーの“意外な”反応を現地からリポートする。
10万件を超える反対コメントの内容とは?
とはいえ、ニュース系Webサイトに掲載された該当ニュースのコメント欄には、普段のニュースではまず見られない、10万件(!)を超える反対コメントが連なっている。コメントを寄せた人々の多くは、PCを数年以上利用しているパワーユーザーだ。反対コメントの内容は、「政府が主張するようなわいせつサイトにアクセスしないためだけのフィルタリングソフトなら妥協できる」としながら「個人情報をのぞき見して悪用するのではないか」とする意見が多い。
ここ数年、オンラインショッピングやオンライントレーディング、オンラインバンキングの利用者が急増していく中で、これらのWebページで入力される個人情報が政府当局に筒抜けなんてとんでもない話だ、とパワーユーザーたちは警告している。不満が大量に書き込まれているが、今のところ、政府に対する反対意見が削除されていないので、この話題では反対意見を述べても問題とならないらしい(あくまでも6月中旬の時点では)。
中国全土のインターネット利用者がチャットやオンラインゲーム、Webページを利用する一方で、オンラインショッピングやオンライントレーディング、オンラインバンキングを使いこなしているのは、主に北京や上海に住む先進的なユーザーだ。北京や上海の新聞が「義務ではない」とお茶を濁すのも、反対派が多い土地柄が影響しているのかもしれない。
逆に「甘んじて妥協派」「よく分からない派」は、ライトユーザーがほとんどだ。ライトユーザーといっても、中国当局が普段から行っているネット検閲を日々のWebブラウジングで体感しているユーザーもいれば、オンラインゲームやチャットだけを利用しているせいでネット検閲の経験がないユーザーもいる。オンラインゲーマーやチャットユーザーはIT系のニュースに興味がない傾向があるので、ここでは「よく分からない派」に分類されていたりする。
ちなみに、筆者が出会った「甘んじて妥協派」の中国人すべてが、検閲の網をかいくぐる“特殊なソフト”を導入していなかった。中国ではYouTubeが2009年3月から利用できなくなり、この状況は、いまなお現在進行形ではあるが、「甘んじて妥協派」な人々は、このことを受け入れているし、“特殊なソフト”で強引に利用しようともしない。アクセスのための策を講じることなく「使えないなら、しょうがない」と考えるようだ。「YouTubeにアクセスできない」ことを紹介する中国人のブログや、ナレッジコミュニティサイトのトピックもあるが、そこでも、積極的に問題提起をするわけでもなく、コメントのやりとりには「あきらめムード」が漂っている。
超少数であるが、「喜んで賛成派」もいる。「中国」「フィルタリング」というと「体制による監視強化」といったマイナスイメージを持つユーザーが多いが、フィルタリングソフトそのものは、わいせつ画像を見せないようにする機能を持っているので、お年ごろな子どもを持つPCユーザーには「便利!」と支持されている。
「ぶっちゃけ無理」と思いつつ、政府の荒技に注意
こうした、中国庶民の反応を見ていると、結局のところ、多くのPCユーザーが「フィルタリングソフト導入“制度”を受け入れる」ようだが、すでにPCを所有しているユーザーは、制度が始まったからといって、フィルタリングソフトをわざわざ導入することはないようだ。新規のPCにしても、中国の内陸部や農村で1台目のPCを買う場合、「ショップブランドPC」が最も多く売れていたりする。筆者の経験上、ショップブランドPCにわざわざフィルタリングソフトを導入することは、まずありえない。あまつさえ、このフィルタリングソフトが米国Solid OakSoftwareのソースコードを無断拝借したという疑惑まである。
実際のところ、制度が始まる7月1日には、販売されるメーカー製PCにフィルタリングソフトがプリインストールされるものの、気になるユーザーはアンインストールし、既存のユーザーは、よほどの拘束力は発動されない限りインストールもしないだろう。ネットカフェも、「当局の指導が入るまではスルー」という感じになるようだ。
……もっとも、中国のプロバイダは中国電信(China Telecom)や中国聯通(China Unicom)など数社に限られているため、「フィルタリングソフトなしでは、インターネットにアクセス不可」という荒技ができなくもない。当局がどういう手を繰り出してくるのか。人民の不安は尽きない。
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