PCのベンチマーク至上主義はスマートフォンやタブレットに通用しない:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
新CPU/GPUのはずが、ベンチマークテストでは予想外にスコアが伸びないのはなぜか? 特にスマートフォンやタブレットでは、複数の要因が絡んでくる問題だ。
Medfieldは高性能なのか?
シングルコア・マルチスレッドのAtomコアを搭載するMedfieldは、そもそもタブレット端末に向けて開発されたものだったと記憶しているが、ご存じのように1月のCESでインテルはMotrola MobilityからMedfield搭載のAndroidスマートフォンが発売されるとアナウンス。同日、LenovoからもMedfield搭載スマートフォンの発売がアナウンスされた。
CESではプロダクト担当者とのミーティングが設定され、実際にMedfield搭載スマートフォンに触れる機会もあったのだが、確かに気持ちよくAndroid 2.3.xが動作している。おそらく動作のレスポンスや処理速度は、Android 2.3.x搭載スマートフォンでは最速と言っていいかもしれない。
内蔵GPUはPowerVR SGX540で、これから立ち上げるプラットフォームとしては時代遅れの感があるものの、そんなことは気にならない程度にプロセッサのパフォーマンスは大きい。しかし、メインのプロセッサコアへの負荷が大きいのか、あるいはシステム全体の消費電力が大きいのか、バッテリーは手元で簡単にブラウザを使っているだけでも、ガンガン減っていき、発熱も無視できない程度に感じられた。
インテルは「MedfieldはデュアルコアのARM Cortex-A9を超えるパフォーマンスを持ちながら、バッテリー消費は同等」と話をしているのだが、発熱にしろ、ツールをインストールしてモニターしてみた放電量を見ても、とてもARMアーキテクチャの製品と勝負できそうにない。
消費電力が問題ならば、バッテリーを大きくするなり、予備の充電用バッテリーを持ち歩くなどで対処できるという見方もできるが、スマートフォンで使うことを考えれば、やはりパフォーマンスと消費電力のバランスを見て評価しなければならない。
加えてシングルコアのMedfieldは、マルチプロセッサでの動作効率があまりよくないと言われるAndroid 2.3では高速かもしれないが、Android 4.0以降ならばデュアルコア、あるいはクアッドコアのARMの方が快適になる可能性もある。
さらに、ARMベースのプロセッサにはSoCとしてシステムに必要な回路が搭載されているだけでなく、特定目的の処理回路が組み込まれていることがある。代表的な例はTexas InstrumentsのOMAPシリーズだろう。ひたすらにメインプロセッサのコアのパフォーマンスを引き上げるのではなく、想定される使い方に合わせて2Dグラフィックス専用回路や静止画処理、動画処理、オーディオ処理などを専用回路で実行することにより、汎用の高速プロセッサで同じ機能を実現するよりも高い電力効率を実現している。
もちろん、最終的にユーザーが高速、あるいは高レスポンスと感じるか否かは、プロセッサ構成に合わせたチューニングに依存する。Androidの場合、端末メーカーがタッチパネルドライバに直接手を入れているか否か? といったハードウェアに近い低レベルの開発投資も影響する。
インテルの場合、Androidのパフォーマンスを高めるため、x86への移植と最適化を、自分たち自身で大きな投資をかけて進めている。これはMac OS Xがx86に対応する際にも行った方法だが、今回は完全にオープンソースということもあり、もっと突っ込んで徹底した高性能化を行っているそうだ。
おそらく、Medfieldがなかなかよいレスポンスと速度を実現できていた理由の1つは、CPUベンダーであるインテル自身が最適化を徹底していたからだと思う。プログラムコードの質も含めて性能とするならば、Medfieldが高性能という点に異論はない。
だが、CPU+GPUという単純な組み合わせでトップスピードを競うことが、果たしてユーザー体験を高めることになるのか? という点に関しては、性急に答えを出さない方がよいだろう。
これはNVIDIAのTegra 3についても同じだ。アプリケーションの動作速度、アプリケーションごとの消費電力などが重要なのであって、理論上のピーク速度にあまり大きな意味はない(もちろん、用途次第であるが)。
実はメーカー間の性能差も大きい
もう1つ重要なファクターがある。AndroidにおいてはLinuxのドライバレベルで改良を加えるか否かで、操作性が大きく変化することは前述した通りだ。AndroidはLinuxの上に載った携帯型情報端末向けのミドルウェアのようなものだから、Linuxのレベルにまで降りて、自社製品への最適化を行うと、同じバージョンのAndroidを使っていてもメーカー間で性能が変わる。
例えば、筆者は富士通東芝モバイルコミュニケーションズのスマートフォン「ARROWS Z ISW11F」を使っている。処理速度そのものに遅さは感じないが、タッチパネル操作への応答遅れや追従性の悪さなど、体感性能の面で問題を抱えている。タッチパネル操作のレスポンスだけならば、シングルコアの前世代モデルには、デュアルコアの本機よりも気持ちよく操作できるものすらある。
さらに、複数のコプロセッサが同時に動作する構成では、その使い方によってパフォーマンス、あるいはパフォーマンス対消費電力比が変化してしまうから、ここでもメーカーごとの最適化のかけかたが影響する可能性はあるだろう。
特に操作感といった感覚的なものや、扱うデータの種類やアプリケーションによって大きく変化する処理内容での性能に関して、「○○プロセッサだから快適」や「○○プロセッサだから消費電力が少ない」といった単純なことは言えなくなってしまった。
ちまたで期待外れとこき下ろされていることもあるTegra 3にしても、Androidのマルチプロセッサ対応がより進み、GPUの使い方も効率的になってくれば、そしてTegra向けにAndroidの最適化レベルが上がってくれば、急にパフォーマンスが上がるだろう。プロセッサベンダーのレベル、メーカーのレベル、それぞれにできることは違う。
1つ意識しておいてほしいのは、単純にプロセッサのスペックだけで、搭載端末の性能・機能予測をしない方がよいということ。メーカーごとに加えているAndroidのパフォーマンス改善対策や操作性改善対策について、そして搭載プロセッサのベンダーが、Android向けの最適化にどこまで力を入れているかも意識すべきだ。
これらは直接的に端末の性能を表しはしないが、商品のライフタイムサイクルを考えるときに、最後まで失敗しないで済んだと思えるような製品を選ぶ確率を高めるためにも、頭の中に入れておくべきことだ。
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