「Google I/O 2013」が示すGoogleの原点回帰:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)
ウワサの絶えない新型Nexusや次期Androidが発表されないまま幕を閉じた「Google I/O 2013」。エンドユーザーにとっては面白みに欠けたかもしれないが、これはGoogleが自らの立ち位置を見直したがゆえの変化ではないだろうか。
Google I/Oに強い前進力を感じなかった理由
Googleの開発者会議「Google I/O 2013」が、米カリフォルニア州サンフランシスコにおいて5月15日から17日(現地時間)まで開催された。例年、新領域開拓を狙った新デバイスや新サービス、それに従来から提供しているサービスのアップデートが行われ、基調講演ではインターネットの未来を感じられる、Googleの前進力を象徴するようなイベントというのが個人的な印象だった。
当然ながら開発者の注目は高く、あっという間にチケットが売り切れてしまう。今年は日本向けにもプレス取材のチケットがかなり増えたようだが、それまでは広報に尋ねても開催直前まで何人が取材できるか分からないという有様だった。
その前進力は一向に衰えず、昨年は夢のある発表の連続、そして未来の可能性に心を躍らせた方も多いのではないだろうか。今年も事前にメガネ型ウェアラブルコンピュータ「Google Glass」が発表されたことで、「では本番のGoogle I/Oでは、どこまで突っ走るのだろう?」と期待して深夜のWebキャストを待っていたに違いない。
そのリポートは掲載済みの記事を参照いただきたいが、筆者はGoogleが自らの立ち位置を見直し、進む方向を見極めている(あるいはすでに見極めて準備を始めた)のではないかと感じた。
今回のGoogle I/Oにおいて、昨年までの強い前進力を感じられなかったのは、前進する力が衰えたからではなく、立ち位置を見直したがゆえの変化ではないか。そういった視点で、一連のニュースとは異なる視点からコラムを進めてみたい。
Googleは好感度の高い企業か、ごう慢な企業か
Androidのニュースが毎日どこかで流れている昨今の状況では、どうしても「Google=Android」という図式で見てしまいがちだが、Googleの本業はAndroid事業ではない。それは当たり前のことだが、ここ数年のGoogle I/Oの流れを振り返っていると、そう感じざるを得ない面もあった。そうした意味では、今年のGoogle I/Oはインターネットを通じて提供する新サービスや機能強化、開発者向けの開発支援の話題が中心であり、本来のGoogleの姿に戻ってきたとも言える。
Googleという企業は、基本的に間に事業パートナーを挟まず、インターネットという中立の触媒を通じ、エンドユーザーに1対1で対峙(たいじ)し、価値を提供してきた(もちろん、一部には企業向けに販売しているサービスもあり、そこには間をつなぐ業者もあるのだが、本業とは言えないだろう)。世界中のユーザーとの間に直接のコミュニケーションチャンネルを持ち、インターネットのライフスタイルに必要不可欠な道具を提供。そこに生まれる広告的価値を販売している。
一般的なエンドユーザーの視点で見ると、Googleは自分たちのために、どんどん新しい、未来を見せてくれるサービスを提供し、Android端末や「Chromebook」などの先進的でシンプルなデバイスを提案することで、ユーザーが生活の中でインターネットと触れるポイントを増やしてくれる。加えてGoogleは(プラットフォーマーとしては当然だが)開発者コミュニティを重視し、開発者たちが自由に遊べる庭を整備している。
Googleのビジネスモデルでは、Googleが提供するサービスプラットフォームを中心としたコミュニティの大きさや熱気こそに価値があるため、エンドユーザーや開発者に提供するソフトウェア、サービスからは直接利益を上げる必要がない。
Googleという会社が十数年のときを経ても、消費者からの好感度が高い企業であり続けているのは、Googleが一般消費者に対しては無償の価値を提供してくれているからに他ならない。
しかし、別の視点から見たときのGoogleはごう慢な企業でもある。直接、消費者との接点を築いているがゆえに、基本的にはパートナーを必要としないという性質を持っているからだ。もちろん、Googleが生み出す広告価値を販売するパートナーは必要だが。
ここで「Androidはパートナーと作っているではないか」と言うかもしれない。しかし、GoogleがAndroidで直接的な利益を得ようとしたことがあるだろうか。GoogleにとってはAndroid端末の販売で利益を上げることよりも、Android端末によってエンドユーザーとの接点を増やすことの方が重要なのだ。
このため、Googleはインターネットサービス事業をしている他社からの評判が芳しくない。パートナーを求めるわけでもなく、消費者に提供しているサービスそのもので利益を得ようとしないならば、競合する事業者が選択できるビジネスモデルは限られてしまう。
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