「メタバース」は新しい価値観を根付かせるか? 2023年(とその先)を“夢想”してみよう:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/5 ページ)
最近「メタバース」という言葉をよく聞くが、実は見方次第では「三度目の正直」的なブームともいえる。技術の進歩と社会の変化もある中で、この三度目の正直はようやく花開くのだろうか……? メタバースを切り口に、2023年とその先のテクノロジーについて“夢想”してみようと思う。
PC業界の話をしようとすると、どうしてもCPUやGPUといった半導体チップのトレンドにを語ってしまいがちだ。筆者もその点において例外ではなく、先日はCPU(SoC)を軸に2022年の振り返りをした所である。
とはいえ、自分では手の届かない半導体製造の世界の動向は、将来買い換えるであろう製品をいつ入手すべきかを推測するのには役立つが、必ずしも製品の“姿”を投影するものではない。以前なら、CPUあるいはGPUが速くなれば「やれること」が増えて、それだけでハッピーだったわけだが、近年はCPUやGPUの進化だけではさまざまな問題解決につながるとは限らなくなってきていることも1つの理由だろう。
半導体は単に高性能化するだけでなく、どのような“目的”を達成するのかを見定めた上での進化が求められるようになった。機械学習ベースのAI(人工知能)処理を高速化するために「ML(機械学習)アクセラレータ」や「推論エンジン」を搭載したり、サウンドや映像の高品質化処理をするための「信号プロセッサ」を搭載したりといった特定目的に特化した半導体(回路)の搭載は、その典型例だろう。このような特化型の半導体(回路)の混載は、より高い電力効率を求められるスマートフォン向けSoC(System-On-a-Chip)から始まった動きだが、現在はPC向けのCPU(SoC)でも混載は当たり前になった。
かつては、PC業界で生まれたトレンドが他のデジタル製品に波及していったものだが、現在は他領域でのテクノロジートレンドが費用対効果的に優れることもあり、他領域のトレンドがPC業界に反映されるという“逆の動き”が顕著になったともいえる。
AppleがMac向けに設計した「Apple M1チップ」は、同社がスマホ向けに設計してきた「Apple Aチップ」の系譜を受け継いだもので、Neural Engine(機械学習プロセッサ)やISP(イメージ処理プロセッサ)も引き継いでいる
Intelのモバイル向けCPUも、第11世代Coreプロセッサ(開発コード名:Tiger Lake)から映像処理に特化したIPU(イメージ処理プロセッサ)を完全なハードウェア実装としている(参考記事)
「メタバース」がシステムを変える!?
話が急に飛びすぎると思うかもしれないが、毎年、新春の当たらない予想コラムなので、多少の飛躍はお許しいただきたい。
スマホの進化を少し振り返ってみると、特化型の半導体(回路)が機械学習や推論に関する処理能力向上を導き、カメラ画質へのニーズの高まりが独立したISP/IPUの搭載と、ISP/IPUと機械学習/推論エンジンの連携による「コンピューテーショナルフォトグラフィー」を生み出した。結果的に、特にスマホ向けのSoCは、CPUやGPUを始めとするヘテロジニアスなプロセッサがメモリを共有/制御するようなアーキテクチャに導かれた。
このようなアーキテクチャを、より汎用(はんよう)的なPCの世界に持ち込むとどんな“価値”が生まれるのか――このことは、まさに昨今AppleがMac向けのApple Siliconでやってきたことを見れば分かる。本来、PCの世界はOSや開発ツールといった「ソフトウェア基盤」の世界と「半導体」の世界が少し遠いため、変化はより緩やかではあるものの、Windows PCの世界でも同様の流れが続いていくことになりそうだ……というよりも、そのような変化が始まっている。
AMDは、Intel(x86)アーキテクチャのCPUとしては初めて独立したAI(機械学習)プロセッサを統合するモバイル向けAPU「Ryzen 7040シリーズ」を発表した。Intelも次世代CPU「Meteor Lake」(開発コード名)において、AIプロセッサを統合することを表明している
しかし、もう1つPCと隣接するテクノロジー領域において、システム構成のトレンドを変えそうな話題がある。笑わないで読み進めてほしいが、それはメタバースだ。
テクノロジーの世界を長年取材していると、似たようなコンセプトが異なる言葉で“再利用”されるサイクルの存在に気が付く。メタバースという言葉も例外ではなく、強い既視感があった。それだけに、筆者はこのトレンドをどちらかといえば“冷ややかに”見ていた。
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