Apple Intelligenceは「Copilot+ PC」や「Federated Learning」とは何が違う? 今後、デジタルデバイスの刷新が進むと考える理由:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)
AppleのAIプラットフォーム「Apple Intelligence」が、まもなく日本語を含む多言語対応を開始する。それを前に、Apple Intelligenceの“真価”を改めてチェックしたい。
「オンデバイス処理」を基盤とするプライバシー設計の真髄
個人に寄り添ったAI機能を構築し、今後さらに発展させていくには個人情報が集まるデバイス内にAI機能が組み込まれていなければならない。
Appleは常々「AI機能をクラウドに依存することで、プライベートな情報を常にネットにアップロードし続けなければならない危険性」を訴えている。しかし、デバイス上でさまざまな情報サービスやツールを扱い、文書を作成し、カメラで撮影し……と、多様なデータやメディアに取り囲まれている現代において、クラウドで包括的な情報を把握/分析することは難しい。
かといって、MicrosoftがCopilot+ PCで志向しているような「完全オンデバイスのAI機能」を実現するとなると、処理能力的な問題が残る。強力なNPUが必要なだけでなく、長大な文脈を把握した上で質問に答えるにはさらに多くのメモリが必要になるからだ。
Microsoftの「Copilot+ PC」は、処理を完全にオンデバイスで行うことを志向している。ただし「AIを責任ある方法で使用する」観点から、プロンプトの分析(判定)だけはオンライン(インターネット経由)で行うようになっている
Apple Intelligenceの最も革新的な点は、デバイス内で処理が完結することを基本にしながらも、部分的にクラウドを活用する設計思想にある。「結局、クラウドを使うのか」と思うかもしれないが、実はそうではない。
Apple IntelligenceはApple Silicon(A17/A18チップファミリーやMシリーズ)に搭載されている「Neural Engine」(NPU)を使って推論処理が行われるが、Image Playgroundを始めとする多くのAI処理が端末内で完結している。メールの要約や写真の分析、テキスト予測といった機能を、ユーザーデータをクラウドに送信することなく実現可能だ。
先述したように、オンデバイス処理することのメリットはアプリ間のデータ活用が容易になる点にある。アプリ側の対応が進めば、「iMessage」「LINE」「メール」「Facebook Messenger」などに分散していたやり取りを整理することも可能になる。
さらに、将来的にはメール内の約束をカレンダーに自動登録したり、写真とメモの内容が連携して思い出を整理してくれたりといった、アプリをまたいだインテリジェントな機能が展開されるだろう。
Apple Intelligenceはプライバシーへの配慮に重点を置いている。この点はMicrosoftがCopilot+ PCで取ろうとしているアプローチと近いのだが、「クラウドの活用方法」という観点で大きく異なる点がある
Copilot+ PCが「プロンプトの分析」といった限定的な部分でクラウドを利用するのに対して、Apple IntelligenceではNeural Engineと共にクラウドもより広範に活用する。
例えば長大な文章の全体を分析する場合において、Apple Intelligenceはある程度の処理をデバイス内で行った上で、一部の処理をクラウドサーバに依頼するという挙動をする。この場合、あくまでもサーバに渡すのは必要最低限の情報で、文章全体が渡されることはない。
やりとりできるデータの量が削減できることはもちろん、電力消費量や処理速度のバランスが取りやすい。そして何よりデータの“全体像”が元デバイスでしか把握できないため、プライバシーを確保しやすい。
「オンデバイス処理の枠からはみ出した領域を、クラウドAIにオンデマンド処理してもらう」というイメージで考えればよい。
クラウドサーバは独自に構築
Apple Intelligenceのコンセプトを実現するために、Appleは「Private Cloud Compute(PCC)」という革新的なインフラを構築した。
複雑な質問への回答を生成する際、Apple Intelligenceでは最初にデバイス内で可能な処理を実行し、その結果を暗号化してPCCに送信する。PCCでは受け取った暗号化データに必要な“補完処理”を行ったものをデバイス返す。
1つ1つの暗号化データは処理単位が小さく、単独では意味をなさないので、プライバシーが漏えいする心配はない……のだが、Appleは念には念を入れており、PCCにおける処理はストレージに書き込まない「オンメモリ処理」とし、「Apple ID」とのひも付けも行わない。異なるApple製品間でコンテキストを共有することもない。
その上で、PCC用サーバで使われるソースコードは公開することで、セキュリティ専門家が常に監視/検証できるようにもなっている。繰り返しだがデバイスとPCCがやりとりするデータは小さく、単独では意味をなさないようになっているので、万が一クラウド側で情報が漏えいしたとしても、深刻な事態にはつながらない。
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