異国で働くおじさんの土産は「dynabook」:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
中央アジアをズンズンと突き進む辺境ライターがキルギスタンとウズベキスタンのPCユーザーに出会った。旧ソ連製家電で埋まる彼らが使うPCはドコ製?
ネットワークがない時代にPCで遊ぶ
しかし、安い自作PCだろうと高価なThinkPadやVAIOノートだろうと、両国で利用できるインターネット回線速度は、音楽ファイル(多くの場合、海賊版)をダウンロード(キルギスでもウズベキスタンでも違法行為)している途中で「んごっ! 回線が切れてしまったかっ!」と思ってしまうほどに遅いため、自宅にインターネット回線を導入して利用するPCユーザーは極めて少ない。筆者自身が訪問したどの世帯も、所有するPCをネットワークに接続していなかった。現地に滞在する日本人の中にはADSLを導入している世帯もあったが、「ADSL10Mで1カ月20ドル」(キルギス)や、「100ドル払ってプリベイドのADSLを利用したが、半月で料金分を使いきった」(ウズベキスタン)など、主収入のみで平均所得1万円以下の両国ではあまりに高いネットワーク料金だ。
「えっ、インターネットにつなげないPCで何をするの?」と、イマドキのPCユーザーはみな思うだろう。ウズベキスタンに住む兄弟は、兄が文書作成とデジカメで撮影した画像の保存と編集に、弟は“オフライン”PCゲームで遊んでいた。また、VAIOノートを所有する少年も、グループで撮影したビデオの編集作業に使っていた。日本でいうところの「Windows 95登場前」(古参PCユーザーには“パソコン通信登場前”かもしれない)の状況によく似ている。
国民の平均所得が低い国でよく見られるように、(海賊版の)DVD-VideoやMP3ファイルなどの再生もPCの主な用途だ。キルギスでもウズベキスタンでも、バザールや個人商店でDVD-VideoやPCソフトの海賊版が簡単に購入できる。ウズベキスタンの首都「タシケント」、キルギスの首都「ビシュケク」では、プレイステーション2やXboxで利用できるゲームタイトルの海賊版を扱っているショップも確認している(なぜか、Wiiは本体、周辺機器を含めたハードウェア、ソフトウェアもまったく見なかった)。
そういう事情もあってか、両国のどの家にも海賊版のディスクを持っていたりする。キルギスでは、ロシア語化されたハリウッド映画やロシアの映画、ドラマ、音楽のプロモーションビデオが主に売られ、ウズベキスタンでは、さらに“ウズベクポップ”や“ウズベクドラマ”、“ウズベク映画”も加わる。日本のアニメも一番人気の「NARUTO」を中心に少数ながら流通している。
キルギスに滞在していたとき、テレビで海賊版問題を知ってもらうための討論番組を見る機会があった。ロシア人とキルギス人が海賊版の影響などについて語る内容だったが、その番組の中で「それでも海賊版を買いますか?」という電話投票を行ったところ、最終的に「それでも買う」という回答が1622票、「買わない」という回答が2070票、「わからない」という回答が3692票となった。
レトロなソ連製冷蔵庫に遭遇した
キルギスでもウズベキスタンでも、個人宅を訪問する機会があるなら、白物家電をぜひチェックしてみてほしい(「旧ソ連の個人宅を訪問することなんかできるわけないでっしょ!」と思うかもしれないが、両国では民家が宿泊施設、英国風にいうとBed & Breakfastとしても使われていることが多い)。PCやAV機器も「数年モノ」が多いが、洗濯機、冷蔵庫、車などは旧ソ連統治時代までさかのぼる20年モノ、30年モノが現役で使われている。
街中でも、「買ったら一生手放すことのできない車」(そのココロは“下取りで売れないから”)と地元の人々にジョークにされている“モスコビッチ”をはじめとした旧ソ連製の車が現役で走っている。
家の主に聞いてみれば「旧ソ連が統治していたころは、家が超安価で購入できたうえに家電までもらえた」という。最近発展めざましい中国で、一般の家庭に白物家電やテレビが入ったのは1990年代から。そう考えれば旧ソ連は進んでいたといえなくもない。
しかし、それにしても、あまりにも古い製品を使いつづけていて不満や不安はないのだろうか?「メーカーがどうなっているか知らないし、最近ぜんぜん聞かないから多分なくなっているだろうけど、使い続けるよ、わっはっはー」
関連記事
- 月収1万円でハイエンド携帯電話を選ぶキルギスのIT事情
アジアの辺境ライターが、よせばいいのに硝煙残るウルムチから中央アジアに突撃した。くれぐれもお気をつけて。えっ、“かの国”より動きやすいって! - 僧侶も気になる海賊版──バンコクのIT格差を“ヤワラー”で知る
信心深い国民性の一方で、政権が何度となく“力”で入れ替わる激動のタイ王国。しかし、そういうこととは関係なく、PCショップを巡るのであった。 - 「ブラウン管テレビすらない」中国農村の“家電下郷”効果
この連載でも繰り返し紹介している都市と農村の格差。家電の普及でその格差を是正する「家電下郷」の実態を探るべく、筆者は中国奥地へ足を踏み入れた。 - 大型連休はミニノートPCで中国人と親密になる
デジカメで撮影した画像を現地の人に見せて感激、なんて「ば、ばかにするなぁー」と一喝される時代錯誤。イマドキの中国旅行はミニノートPCで盛り上がるのだ。 - 「壊れたら買う、じゃなくて、直す!」な中国の“デジモノ修理屋”稼業
中国の電脳街に必ずあるのが「修理屋」だ。「レノボとHPの専門店」しかない中国の奥地でも、修理屋だけはやたらといる。中国のデジモノユーザーをしっかり支える彼らの仕事を調査した。 - 「神舟」が導く中国“激安”PC市場
中国のPCメーカーといえば「レノボ」(聯想)。ツウな人なら「ファウンダー」(方正)かもしれない。でも「神舟」って知っているかな? あ、宇宙船ではないからね。 - Netbookより安くて怪しい「山寨」ノートの破壊力
日本でも紹介されるようになった“山寨”ケータイ。しかし、中国ではノートPC市場でも“山寨”が侵食しようとしている。「山寨」ノートの実態に迫る。 - あやしい中華な低価格ノートPCで新春を祝う
EVDプレーヤーに白物家電(主目的はただでもらえる“おまけ”だったりするが)と、毎年毎年、新年早々あやしい買い物を強いられる山谷氏。2009年はいいブツを購入できた? - 潜入調査!── 中国のちょい“裏”PC市場
北京や上海を訪れた日本人は、ショッピングモールを見て「おや、意外と最先端」と驚く。しかし、この記事を読めば「別な意味」で驚くことになるだろう。 - 北京上海じゃ分からない──「絶対多数」の中国人民IT事情
もうすぐ始まるであろう“歴史ある世界規模のスポーツイベント”に合わせて多数の観光客が北京を訪れる。だが、北京や上海のような「国際都市」で目にする中国事情は、ごく一部の限られた話なのだ。 - 中国電脳街の美人店長と値引き交渉
「複雑怪奇!」な中国電脳街の購入術。白物家電にPCパーツアップグレードとなかなかにディープな世界を紹介してきたが、今回は液晶ディスプレイで値引き交渉に挑戦した。 - 中国で“デュアルコア”なCeleronを探す……はずだった(後編)
連載第1回目で購入したレノボ製PCをアップグレードするべく、中国内陸都市の電脳街に突撃した筆者たち。当初の目的「日本未出荷のデュアルコアCeleron」を狙うも、あっさり方向転換を迫られたのであった。 - 中国で“デュアルコア”なCeleronを探す
GeForce 8800 GSにSempron 2100、そして、AMD 780Gと「中国先行」PCパーツが最近目立つ。そんなユニークな中国PCパーツ事情の現場に突入した。 - 新禧新禧!中国の初売りで白物家電“+α”を入手せよ
福袋の中身で一喜一憂するのが日本のお正月商戦。旧正月が本番の中国でも、この時期は年末年始商戦でやっぱり盛り上がるのだ。 - 中国復帰10年めの香港電脳事情
返還後に「100万ドルの夜景」もだいぶ変わったと聞く香港。10年でどれだけ中国に染まったのか。電脳街からのリポート。キーワードは「水貨」だ。 - 「あらやだ、中国製なのこれ」──上海セレブにみる中国富豪のIT事情
中国奥地のIT事情には涙が止まらないが、上海は高級舶来PCやPSPであふれていた。「お、同じ国ですか」と思うほどに異なる中国最先端都市の電脳街を紹介しよう。 - 「PCパーツの基板はダンボールですか?」──中国IT“偽造”事件簿
全世界的に中国発「偽造」ネタがヒートアップ。気になって中国のIT関連記事もチェックしていると……、おおっと、こりゃ、すごいね。 - 大陸美人に会いたいなら中国電脳街に行こう
今年の海外旅行は近場が人気ということで中国を訪れるIT戦士も多いそうな。この記事を読めば中国の電脳街で有意義な休日を過ごせること間違いなし。ああ、何が有意義か、とは聞かないでくれたまへ。 - べトナム「美人」PCユーザーのデスクトップを見てきましたっ!
日本の工場が大挙して進出しているベトナム。ITmediaとしては現地進出のための統計資料が喜ばれそうだが、そういう難しい話は抜きにしてベトナムの生活に根付いたPCを見たい。 - 中国の貧しい村にITはあるか?
経済成長著しくITも都市では普及している中国だが、農村部など貧しい村にITはあるのだろうか? 国家級貧困県に登録された場所に行くとともに、都会の中の村も訪ね、そこにITがあるか探してみた。 - ゲルにITはあるか?──モンゴルで見たIT事情
「青い空と緑の大地をはるかかなたで区切る見渡す限りの地平線」というイメージのモンゴル。その首都ウランバートルのIT事情は実に面白いのだ。 - フォーとネットカフェで夜を明かすベトナムのPC事情
最近のベトナムは「世界の工場」「世界の市場」になるべく急速に成長しつつある。大都市ハノイを中心に、ITやPCが普通の人々の生活にどこまで入り込んでいるのか「東南アジアの突撃ライター」山谷氏がリポートする。 - 中国「美人」PCユーザーのデスクトップを見てきましたっ!
「辺境突撃ライター」山谷氏による今回のリポートはいつもとなにやら雰囲気が違う。どうやら中国の「美人」に突撃を敢行した模様。そりゃ、いつも「PC」「ケータイ」「海賊版」が相手じゃ美人に突撃したくなるのも「わかるわかる」 - 現地発、途上国仕様PCとは?
これからのPC市場を牽引すると期待される途上国。インテルはIDF 2005 Fallで途上国市場に対し、WiMAXなどいくつかの回答を提示した。でも途上国のPC事情は実際のところはどうなっているのだろう? - Windows XPでカレーが何杯食べられる?──IT大国インドの海賊版事情
中国の海賊版問題に続いて、今回はアジアにおいて海賊版が普及する背景にあるものを紹介する。舞台は小泉首相が訪問して両国間のIT交流を増やしていく」と述べたインド。このソフトウェア大国と中国と比較し、ついでに日本人はどうすりゃいいの?ってところまで考えてみた。 - 中国の所得別PC事情に泣け
ニュースでも知られるように中国の沿岸部と内陸部で所得は大きく異なる。「都市」「村」ではその差が激しくなる。PC1台300万円、Windowsの1ライセンスが150万円。あなたはそれでもPC買えますか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.