“やりたくないのにやらされる”フルモデルチェンジ!:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
新製品のボディデザインが思いっきり変わると、いかにも進化したように感じる……が。この変更には、メーカーの思惑がめちゃくちゃ絡んでいたりする。
拡販失敗で「フルモデルチェンジ貧乏」
もう1つの理由は、単純に販売上の問題だ。メーカーは基本的に前年同月比、または前年同期比で売り上げを評価するで、フルモデルチェンジにせよマイナーチェンジにしても、原則として毎年同じタイミングで行われる。月単位でズレることはあっても、期をまたぐことはまず有り得ない。1年に1回行うはずのモデルチェンジが今年はできなかったので来年は2回します、などというのは、小さい会社はまだしも、上場している企業ではまず起こりえない。半期もしくは1年単位で帳尻を合わせてくるのが普通だ。
メーカーに限ったことではないが、どの会社でも予算ありきで動いている。自社の製品が爆発的なヒットをしてほしいと願う半面、ある程度数字が予測できるのであれば、例えば今期の予算は達成しているのでフルモデルチェンジによるテコ入れは不要とか、その逆だとかの判断が下されることはある。あまり突出した売り上げが立ってしまうと、その年は“左うちわでウハウハ”でも、翌年は売上が足りずに困ることになるからだ。
ただ、最近はどこの会社も余裕がないので、本来であればマイナーチェンジにとどめてよいはずなのに、営業施策的な判断で、無理矢理フルモデルチェンジを行うケースもよくある。デザインを変えたほうが新製品としてのインパクトが強くなることから、“販売”戦略的に製品のボディデザインを変更し、フルモデルチェンジに見せかけて拡販しようというわけだ。
もっとも、毎年テコ入れをしているのに売上がまるで伸びず、結果的に「フルモデルチェンジ貧乏」とでも呼ぶべき状態に陥っているメーカーは少なくない。
ファブレスメーカーの「見せかけフルモデルチェンジ」に要注意
ともあれ、ボディデザインの変更にはメーカー側のさまざまな思惑が絡んでおり、ボディデザインの変化だけで製品の進化は判断できるものではない。競合メーカーが派手に新製品を投入してきたために、フルモデルチェンジを繰り上げてユーザー(とメディア)の耳目を集めるという場合もあるし、逆に競合メーカーがまだまだ追いついてきていないと判断した場合は、わざと間を空ける場合もある。営業施策的な判断で決まるケースが意外に多いことは、ユーザーも知っておいて損はないだろう。
ただ、注意しなくてはいけない「見せかけのフルモデルチェンジ」もある。それは、これまで生産していた下請けメーカーとの関係がこじれたために後継製品の生産ができなくなり、他社に振り替えたことによって見た目にはまったく違うデザインになるというケースだ。見た目にはボディデザインががらりと変わることからフルモデルチェンジであるかのように誤解しがちだが、従来製品のノウハウを継承しておらず、逆にスペックダウンしていることも少なくない(もちろん露骨にバレてしまっては面目が立たないので、仕様表に記載されるようなスペックでは合わせてくるのが常だ)。
ファブレスの周辺機器メーカーではよくある話なので、ボディデザインが新しくなったからといって進化していると早合点せず、レビューなどを通じて判断することをお勧めする。
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