「iPhone 5c/iPhone 5s」の“魔法”――林信行の1stインプレッション:ウワサの霧を晴らす新型iPhoneの輝き(3/3 ページ)
米国で行われたAppleのスペシャルイベントを受けて、国内のメディア向けの発表会が行われ、その後に「iPhone 5c」と「iPhone 5s」のタッチ&トライの時間が設けられた。ファーストインプレッションをお届けしよう。
iPhoneマジックを体現した5sのカメラ機能
iPhone 5sに関しては、やはり「Touch ID」(しかも、認識が速い)と、カメラ機能が面白かった。Touch IDについては、実際に製品を手にしてからレビューなどでしっかり検証するとして、ここではカメラのほうに目を向けよう(国内で行われたタッチ&トライイベントでは試用する時間が短く、Touch IDについてはほとんど検証できないまま終わってしまった)。iPhone 5sのカメラには、まさにiPhoneをiPhone足らしめているマジックが詰め込まれていると思う。
本題に入る前に予言しておきたいのが、iPhone 5sの発売後しばらくは、YouTubeやInstagramに、スローモーション動画が溢れるということだ(これはかなり楽しく、今から実際に自分でも撮ってみるのが楽しみでウズウズしている)。
もちろん、素晴らしいのは動画だけではない。会場でいくつか見せてもらったサンプルの写真はどれも、「これはデジタルカメラのサンプル画像ではないか?」と思わせるようなものばかりだった。メディアの人に見せるサンプル写真なので、特別に美しい写真ばかりを厳選しているのは当たり前だが、中にはこれまでのiPhoneでは、どんなに技術のある人でも絶対に撮れなかったであろう写真が何枚かあった。
暗い部屋でろうそくのついた誕生日ケーキを家族がのぞいている写真もその1つ。一眼レフを使ったカメラマンであれば、のぞき込む顔の肌色や、置かれたテーブルの色も自然な色合いで撮れるだろうが、スマートフォンではフラッシュをつけたらつけたで、なんだかのっぺりとした肌の色になってしまってうまく撮れない。ところが、こうした状況でも本当にきれいに撮れていたため、会場のスタッフに「これは本当にiPhone 5sで撮った写真か」としつこく聞いてしまったくらいだ(実機を手に入れたら、あそこまでのクオリティで撮れるか分からないが、同様の設定で撮ってみようと考えている)。
iPhone 5sのカメラ機能には、シャッターボタンを長押ししていると、クセになりそうな毎秒10回の快音(!?)とともに連写し続ける「バースト撮影機能」があるが、それ以外は特に凝った「カメラオプション」モードとか「撮影モード」みたいな、難しそうな設定はない。ただ、フラッシュの切り替えとHDRのオン/オフとシャッターボタンがあるだけだ。そんな簡単なカメラ機能で、これだけすごい写真が撮れるのかと腰を抜かすことだろう。製品を入手したら、真っ先に試してみたい機能だ。
iPhone 5sで登場した新色ゴールドの上品さについては、先にほかの方々の感想として紹介した。非常に時間が限られていた国内説明会では、この程度の検証しかできなかったが、これだけでもかなり“お腹いっぱい”の感じだ。
だいたい、いまだにスマートフォンカメラの画素数で競争をしているメーカーが多い中、あえて画素数を増やさずに、画素ではない画質の部分で勝負をしてくるあたりは実にアップル的ではないか。今の800万画素でも、撮り過ぎる私は写真のバックアップに使うMacのSSDにすでに写真が収まっていない。我々が欲しいのは、アップロードしようとする度に「容量が大きすぎます。リサイズまたは圧縮してください」と言われる画素数の写真ではなく「きれいな写真」なのだ(もちろん、画素数の向上がすべて悪いと言うつもりはない。ノキアの「Nokia 808 PureView」や「Xperia Z1」などは、高解像度センサーをただ解像度が高い写真を撮るためだけに使うのではなく、美しいデジタルズームなどほかのことに生かしている。どう使うかを考えたうえで、きちんと“調理”した技術は意味があることだ。ただ、スペック表に高い数字を並べるためだけに機能を詰め込むような考え方は、子供騙しだし、日本のメーカーがやるべきことではないと筆者は思っている)。
毎回、ITmediaに記事を書き、その感想を見る度に、世の中には2種類の人がいることを痛感させられる。一方は、製品というものを、ただのスペックと部品の寄せ集めとして捉えている人だ。彼らにとって大事なのは「その機能は前にXX社がやっていた」であるとか「そのカメラ機能より、どの会社のカメラのほうが秒間何コマ連写の枚数が多い」といった点なのだろう。
私は他社の全製品のスペックを1つ1つ覚えていられないのでこの軸では評価できない。それよりは1つの製品全体の魅力や満足度で、自分の中のレベルメーターがどこまで上がるかこそを重要な評価軸にしている。ただの部品と完成品のあいだには、動かなくなった肉体と生きた人間ほどの大きな差を感じ、後者に生身の迫力やセックスアピールといった魅力のマジックを感じてしまう。
製品の目的をしっかりと見据えてデザインし、自社の看板を背負わせても恥ずかしくないかという軸で考える企業の製品には、こうしたマジックがある(最近、一部の日本メーカーも再び、かつて持っていたマジックを取り戻し始めてうれしく思っている)。そうして、こうしたマジックを感じ取れる人々には、きっとiPhone 5cとiPhone 5sは、これまでのほかのiPhone同様の閃光を放ってくれることだろう。
マジックよりもスペックが好きな人には、多彩なバリエーションがそろったAndroidというプラットフォームがあり、突飛な機能がついた一芸スマートフォンも充実しているので、ぜひそちらを検討してほしい。iPhoneは、そこよりはもう少し人間性の側に軸を置いたスマートフォンなのだ。
詳細レビューはこちら→ライフスタイルを彩る「5c」、未来を映す「5s」:どちらも期待を裏切らない“正統進化”――林信行の「iPhone 5c/5s」徹底レビュー
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