「ACCESS Linux Platform」は、端末メーカーを“脱ガラケー”に導けるか(2/2 ページ)
ACCESSが手がける携帯電話向けソフトウェアプラットフォーム「ACCESS Linux Platform」の概要が明らかになってきた。ロジックとUIを分離したアプリ、通信キャリア特有の機能を実現するオペレーターパックなど、端末メーカーを“脱ガラパゴスケータイ”に導く可能性を秘めた仕様が盛り込まれている。
このエンジンを利用して動作するアプリケーションは、データそのものを処理するロジックの部分と、ユーザーの目に触れるUIの部分を完全に切り離した状態で開発される。この仕組みにより、アプリケーション自体のソースコードにほとんど手を加えなくても、そのアプリケーションの見た目や使用感をガラリと変更することが可能になるという。
これまでも、その機種に独自の付加価値を提供するために、(多くの場合、見た目の印象を強くするため従来よりもグラフィカルな)専用のUIを追加するなどした携帯電話が多数存在するが、そのメニューから個別のアプリケーションを起動して画面が変わると、まるで化けの皮がはがれたかのように、そこには従来と変わらないクラシカルなUIが広がっているということがある。
例えば、メインメニュー画面には見栄えの良いUIが用意されているが、そこで「メール」のアイコンを選択したとたん、従来のものと変わらない古めかしいメール作成画面に切り替わる――といった構成になっていることがままある。しかし、端末メーカーがAdvanced UI Engineの仕組みを利用してそれぞれのアプリケーションを作成しておけば、次の機種リリースするときに、メール機能自体は再開発を行わなくても、他の新機能に合わせて開発した新しいUIをメール画面にも適用する――といったことが可能になる。
「アプリケーションの作り方、考え方を根底から変えようという狙いがある。メーカーや事業者から『UIの部分を差別化したい』という要望をいただくが、それを非常にやりやすくするのが(Advanced UI Engineの)特徴。今までも、“アプリケーションの表面的な部分にアニメーションを入れて格好良くする”というものはたくさん出ているが、これは根本的にアプリケーションの作り方を見直すことで、すべてのメニュー階層のUIを入れ替えることができる画期的なフレームワーク」(ACCESS代表取締役社長兼共同CEOの鎌田富久氏)
今回、ACCESSとEmblaze Mobileの2社は、ALPにELSEのUIを付加したものを「ELSE INTUITION」と呼び、両社が共同開発した新たな携帯端末向けプラットフォームとして位置づけている。サードパーティの開発者は、Advanced UI Engineの仕様に従ってソフトウェアを書けば、ELSE INTUITIONで提供される先鋭的なUIを利用したアプリケーションをユーザーに届けることができる。
ただし、ALP自体はアプリ配信の機能を持っているものの、今回公開されたELSEにはアプリを追加する仕組みまだ用意されていないという。今後ELSEが実際の商品として発売されたとき、サードパーティアプリがどのような扱いになるのかは明らかにされていない。
オペレータパックは、“ガラパゴス的しがらみ”をリセットできるのか
前述の通り、ALPが持つ大きな特徴の1つが、“各通信事業者に特有の機能はオペレータパックによって実現する”というアーキテクチャを採用していることである。
事業者特有の機能とは、例えばドコモの携帯電話で言えば、iモードやiアプリなどの“ドコモ独自の機能”を指している。こうした機能を実装するためのソフトウェアは、MOAPとして一定の共通化はされつつあるものの、ユーザーが触れるアプリケーション部分は依然として端末メーカーが独自に開発しなければならない。
このため、海外の端末メーカーにとっては、日本市場のためだけに特別なカスタマイズを加えるコストが見合わないことから、グローバル市場向けに優れた機種があっても、それが日本で発売されることはほとんどないという状況が続いていた。しかし、オペレータパックの追加でiモードなどの機能が実現できるようになれば、UIの日本語化といった比較的低コストな作業だけで、海外機種を日本市場に投入できるようになる。
つまり今回のELSEも、“iモード対応のFOMA端末として日本国内で展開することが、技術的には可能なはず”ということになる(技術的にできるかできないかだけの話で、実際にそういった商品展開がされるか、されたとしてどれだけ売れるかかは別の問題だが)。
また、ALPを使ってELSEのような斬新な端末を作れるという事実は、日本のメーカーにとっても良い刺激になりうる。これまでiPhoneのような人気端末が登場してきたとき、「自分のところでも、あっと驚くような新機種を開発したい」と考えた技術者や商品企画担当者は多かったのではないだろうか。しかし、国内市場で求められるiモード対応などを考えたとき、これまでの開発で積み重ねてきた資産を捨てて、革新的な製品のために一からすべてを作り直すことは、現実には不可能だ。
それが、プラットフォームが一新されることで、スマートフォンのような革新性と、国内サービスへの対応という、従来相容れなかった2つの要素の両立が可能になる。しかも、今回のACCESSの説明を信じる限り、開発したアプリケーションの資産を積み上げながら、発売する製品にはその時々で最新のUIを提供し続けることができる。逆に言えば、「海外の端末は確かにすごいかもしれないが、ウチにはiモード対応とかしがらみがあって……」という言いわけはできなくなるということでもある。
もちろん、これはあくまでALPの仕様と、今回ごく限定的に公開されたELSEのデモを見た限りで言える理想論だ。実際にALPがこれだけの柔軟性やパフォーマンスを持つプラットフォームとして作り上げられているのかは、搭載製品が実際に市場に出てくるまでは分からない。
そしてもう1つ、ALPとオペレータパックの採用が世界的に広がらなければ、海外から日本への参入や、日本メーカーの海外展開といった変化も生まれないという点にも留意しておく必要がある。ALPは特定の端末ベンダーやサービス提供者の色が比較的薄く、通信事業者の独自サービスを実装しやすいというメリットはあるが、昨今のAndroidの採用拡大や、Symbianのオープンソース化といった流れもあり、採用拡大に向けては他陣営との激しい競争を勝ち抜いていかなければならない。
とはいえ、新たなプラットフォームの登場が、ここ数年の端末業界を取り巻いている、「何とかしなければならないが、国内市場向けの開発資産を断ち切ることはできない」というしがらみをリセットする好機であるのは間違いない。近日中に発表される可能性もあるALP採用のFOMA端末で、その動きの片鱗を見ることができるのか、期待して待ちたい。
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