広がるモバイル市場を前に、揺らぐウィンテルの牙城:書籍「モバイル・コンピューティング」第一章(5)
インテルと同じように、広大なモバイルコンピューティング市場を前に、たじろいでいるのがマイクロソフトだ。チップと同様、OS市場にも地殻変動が起きつつあり、新たなモバイル市場ではマイクロソフトの影が薄くなっている。
この記事について
この記事は、PHP研究所が発行する書籍「モバイル・コンピューティング」(著者:小林雅一)の第1章を、出版社の許可を得て転載したものです。
- →今、何が起きているのか――モバイルコンピューティングの時代(1)
- →国内ビジネスから世界ビジネスへの転換(2)
- →モバイル・コンピューティングはユビキタスへの一里塚(3)
- →危機感を募らせるインテル(4)
インテル同様、広大なモバイル・コンピューティング市場を前に、たじろいでいるのがマイクロソフトだ。両者はかつて「ウィンテル連合」と呼ばれ、パソコン産業の両輪である「チップ」と「基本ソフト(OS:Operating System)」の市場をほとんど独占した。ここで「ウィンテル(Wintel)」とは、マイクロソフト製OSの「ウィンドウズ(Windows)」と「インテル(Intel)」の2つの名称を組み合わせた、一種のニックネームである。両者の緊密な連携の下、パソコン産業の成長期から今日に至るまで、巷で販売されるパソコンの大多数には、ウィンドウズとインテル製チップが搭載されてきた。その圧倒的な市場占有力から、ウィンテルはIT業界において様々な批判や反感の対象となるほどだった。
しかし、ここに来て、チップ同様、OS市場にも地殻変動が起きつつある。新たなモバイル・コンピューティング市場では、マイクロソフトの影が薄くなっているのだ。たとえばスマートフォン用OSでは、第1位の「Symbian」から第3位の「iPhone OS」までの合計で、市場全体の80%近くのシェアを占める。これに対しマイクロソフトの「Windows Mobile」のシェアは第4位の10%程度に過ぎず、しかも後発のグーグル「Android」に追い上げられている。
スマートフォン市場でマイクロソフトOSが出遅れた最大の理由は、そのデザインにある。Windows MobileのUI(ユーザー・インタフェース)は、元々パソコン向けに開発されたWindowsを携帯端末向けに焼き直した感がある。つまり、キーボード、マウス、そしてパソコン用の大型ディスプレイを想定して開発されたGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)を、それらの周辺装置を持たないスマートフォンへと強引に移植したので、使いにくいのだ。
こうした批判を浴びたマイクロソフトは、「過去のソフトウェア資産を継承できるのは、Windows搭載製品のみ」と消費者に訴える。しかし、モバイル製品では、ソフト資産の継承はセールス・ポイントにならない。たとえばスマートフォン上で、マイクロソフトの「Excel」や「Word」を駆使するケースは想像しがたいからだ。むしろ、そうしたデスクトップ・コンピューティングとは異なる、全く新しい種類の情報処理が実行されるようになるだろう。
つまり「デスクトップ(パソコン)」から「モバイル」へとコンピューティング・スタイルが断絶的な変化を遂げる過程で、過去からの継承性は意味を持たなくなる。インテルと同じくマイクロソフトも、過去の遺産にしがみつくよりは、これからのモバイル市場の成長に合わせて、自らを改革していく必要性に迫られているのだ。次の第2章では、そうしたモバイル向けの新しいコンピューティングを、「ユーザー・インタフェース(UI)」の観点から詳しく見ていこう(第一章 完)。
関連キーワード
Microsoft | Intel | スマートフォン | ユーザーインタフェース | Windows Mobile | Android | 携帯電話市場 | iPhone | Symbian(シンビアン)
関連記事
- 今、何が起きているのか――モバイルコンピューティングの時代(1)
各キャリアが多彩なスマートフォンを投入し、一般ユーザーへの普及が見込まれることから、2010年はスマートフォン元年になるとみられている。さまざまなプレーヤーが参入し、新たなビジネスモデルが生まれつつあるこの市場は、どんな新サービスを生み、人々の生活をどう変えるのか。 - 国内ビジネスから世界ビジネスへの転換(2)
「今度のモバイル・ビジネスでは、かつてのパソコン・ビジネスの二の舞は避けたい」――モバイル産業をけん引してきた通信キャリアや端末メーカーらのプレイヤーは、1990年代にPC産業の主導権を米国企業に奪われたような事態は避けたいと願っている。 - モバイル・コンピューティングはユビキタスへの一里塚(3)
ICT業界が「ユビキタス・コンピューティング」へと向かう流れが、ようやく現実味を帯びてきた。90年代終盤のユビキタス・ブームは「フライング」であったが、今回は、ユビキタス・コンピューティングが本物のトレンドとして現れてくる。 - 危機感を募らせるインテル(4)
マイクロソフトとともにパソコン全盛期を生み出し、長年にわたってIT業界を牛耳ってきたインテル。IT業界の主たる関心がモバイル・コンピューティングへとシフトしていることに危機感を募らせ、モバイルに注力し始めているが、ARMチップがライバルとして立ちはだかっている。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.