「パンドラの箱がある以上、誰かが開けるんで」 セカイカメラ井口氏×ラブプラス内田氏:サイエンスフューチャーの創造者たち(4/4 ページ)
日本の代表的なARアプリ「セカイカメラ」開発元の頓智ドット 井口尊仁CEOと、社会現象を巻き起こした恋愛ゲーム「ラブプラス」のKONAMI 内田明理プロデューサーとの対談企画。“肉体を伴う経験”をもたらすゲーム、そしてARの可能性とは?
井口氏 個人的には今後、ゲームのプラットフォームはどんどんモバイルになって、位置情報も付いて、ネットワーク回線も太くなり、処理能力も上がってくると思うんですが、そうした技術の進捗という面から見て、ラブプラスを持ってきたい方向って何かあるんですか?
内田氏 やっぱりコンセプトである現実を浸食するという方向性ですね。まさに拡張現実です。デートスポットとか、実際の場所を浸食していきたいですし、お客さんの日常の中を浸食していきたい。お客さんがそれにどんなリアクションをするかは、想像できない部分がありますけど、実際にふたを開けてみれば、それぞれのお客さんがそれぞれの方法で消化してくれると思ってます。
井口氏 でも、そんな恋愛作品を作るのは、ある意味、業のある仕事ですよ。回路が生き続けるかぎりは存在し続けるというか……。ラブプラスの中に流れる時間は止めようがない。内田さんが以前おっしゃっていた言葉を借りると、脳の中にキャラクターを住まわせる“より進化したクラウド”ですよね。で、そういう罪作りなことをやってしまう理由って、1つは「面白いから」だと思うんですけど、もう1つは「その先の未来を見てみたい」だと感じます。
内田氏 パンドラの箱がある以上、誰かが開けるんで。じゃあ自分が開けちゃえっていう(笑)。セカイカメラもまさにパンドラの箱ですよね。その可能性に広告メディアが気づくのがちょっと遅いように感じるんですけど。
井口氏 ラブプラスだってそうでしょう。場所や時間と関係して欲望を喚起しうるという点で、あの3人娘はものすごい力を持っていると思いますよ。
僕らは今、「バーチャルリアリティー」という言葉が想起させる「コンピューターやモバイルは将来こうなるんじゃないか」という世界にサービスを何とか近づけようとしている。まだまだやりたくてもできてない部分がたくさんありますけど、現状の先にある世界をイマジンしてもらえないことも多くて残念です。
――そうした評価は、何がきっかけで変化するのでしょうか?
内田氏 よく言われるのは権威からの評価があるかどうかですよね。しかも日本にはそういうオーソリティーがいなくて、海外の評価が決め手になったりする。
井口氏 海外で評価されると国内の反響が全く変わるんですよね。
内田氏 それで、個人的に思うのですが、その道の権威からの評価ありきというのは、イノベーター理論でいうと口火を切るイノベーターが生まれにくい土台なのだと思うのですけど、今はネットユーザーがイノベーターとしての役割を果たす動きが多いと感じます。ラブプラスなんかまさにそれで好評を得た面もあると思っていて……。
井口氏 日本のアーリーアダプターは感度がよくて、経験的にも感覚的にも先端を走っている部分はありますよね。ゲームもアニメもコミックもWebも、遅れてるとは全然思わない。ただ、島国というところもあって、異なるカルチャーバックグラウンドを持っている人と付き合うことが少なくて、いろんな見方があるということを忘れがちですよね。海外に行って、「うわっ、看板が全部英語だ!」とか、そういう経験をするだけでもずいぶん変わると思うんですが……ところで最近内田さんは海外行ってます?
内田氏 最近は仕事でしか行ってないですね(笑)
井口氏 モルディブは行ってないんですか? ダイビングによく行かれてたとお聞きしましたけど。潜ることって何かインスピレーションを得る上で役に立つんですか?
内田氏 役に立ちますね。ある日、海に潜っててふと上をみたら、水面がキラキラ銀色になっているんですけど、それが空に見えた。水面を空と考えて、海の方の世界に自分が居る感覚を覚えたんです。その時、地表の7割は海であって、自分たちは辺境で暮らしていて、地球のメインステージは海なんだっていうことに気が付きました。途端に、「おじゃましてます」っていう謙虚な気持ちになりましたね。
――お話が盛り上がっているところ恐縮ですが、そろそろお時間です。最後に今後のセカイカメラとラブプラスについて一言いただけますか。現実を拡張するという点で、セカイカメラとラブプラスは非常に相性が良さそうに思えるのですが、何かコラボレーションはあるのでしょうか?
井口氏 内田さんと話していると、ゲームに限らずコンピューターとかデジタルとかネットワークとかがどうなるのかなっていう、未来に向かうワクワク感を、同じようなホットさで捉えているなと感じます。イノベーションって、ある価値とある価値を結びつけて新しい価値を作ることで、僕的にはそれが“トンチ”だと思うんですけど、お互いそういう感覚を持っているのかなと。あのラブプラスモード(内蔵時計に沿ったモード)が“夢の中”っていう設定はすごいですよね。しかも夢の中なのに、微妙にゲームの現実世界にも影響を与えてるという!
内田氏 まさにそこはトンチをひねったところですね。リアルタイムな要素を入れたことでゲームで無茶ができなくなっちゃって、「でも夢の中ならやりたい放題じゃないか」っていう(笑)
井口氏 そういう機転の利いたインスピレーションに、いつもすごく共感できるんですよ。
4月5日、ラブプラスの新たな展開として、iPhoneアプリ「ラブプラス i」シリーズが発売された。スケジュール管理とともにキャラクターとのコミュニケーションやARカメラ機能が楽しめる同アプリは、今後も順次機能をアップデートし、GPSを使った“リアルデート”機能などの「現実を浸食する」ための仕掛けが追加されていくという。携帯電話、そしてARの世界により歩み寄りつつあるラブプラスが、この先どんな展開を見せるか楽しみだ。
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