「開発サイクルは半分」――ドコモ伊倉氏に聞くスマートフォン時代の“パラダイムシフト”戦略(前編):神尾寿のMobile+Views(3/3 ページ)
前年度の2倍以上となる販売目標を立てるなどスマートフォン事業を一層強化するドコモ。同社が考える、スマートフォン時代に必要な“変化”とは何か――。スマートコミュニケーションサービス部の伊倉氏に聞く。
キャリアカスタマイズとジャパンローカライズ
神尾氏 春モデルの発表会で、山田社長が防水版のMEDIASとおサイフケータイ版Xperiaの話をしました。おサイフケータイ対応のXperiaが夏に出るというのは、結構早いという印象ですが。
伊倉氏 いわゆる“キャリアカスタマイズ”は、キャリアの差異化にもなるんですが、私自身としてはキャリアが頭を使って端末をそれほどいじらずにクラウド側でやるのが筋だろうと思っています。
ただし、“ジャパンローカライズ”は、例えばFeliCaというインフラが整っているものがあり、日本で4000万台ドコモから売れてるからやってくれないかと、ちゃんと話をします。auさんもソフトバンクさんもきっと欲しがるものでもあるわけですから、売るためにやってくれる。
神尾氏 ドコモの方針としては、日本のユーザー全員が必要とするローカライズに関してはメーカーと調整しながらやれるところはやる。ドコモとしての要望であるカスタマイズに関しては、できるだけ負担の軽い方法でやる、という感じですか。
伊倉氏 そうですね、例えばFeliCaですが、フィーチャーフォンのときはアプリが3キャリアでバラバラでしたが、スマートフォンになって全部同じような仕様になった。つまり、差異化の領域というよりはインフラになってきた。だったら基本としてやらなくちゃいけないし、コンテンツプロバイダ(CP)さんが対応できないと困るからちゃんと揃えましょう、ということでやっています。
神尾氏 となると、キャリアニーズの部分はかなりサービスレイヤーに寄せていくんですね。
伊倉氏 spモードの場合、iモードの機能を全部移植するのではなくて、メールアドレスを引き継げるとか、プッシュで届くとか、デコメに対応するとかに絞って実装し、あとはアプリ側で対応していく。いろんな要望に応えていこうと思いますが、端末に手を入れるんじゃなくて、なるべくアプリ側、あるいはサーバ側でやることを前提に動いています。
神尾氏 iチャネルやiコンシェルなどは、端末のハードウェアをかなりいじっていますよね。こういったものは、サービスの形やコンセプトは維持しながら、提供方法は大きく変えなくてはいけなくなりますね。
伊倉氏 そう、変えないといけません。iモードの価値を、ステークホルダごとに分けなきゃいけない。お客様とCP、販売代理店ですが、お客様にしてみると、例えば、SIMを差し替えてもiチャネルを使えるということ、スマートフォンでもiチャネル相当のものが使えるということです。それはつまり、バックエンドで契約が引き継がれるということですね。そして、スマートフォンは当然、タッチパネルになっているから、タッチパネルに即したiチャネルがある。
クラウドの活用も強化
神尾氏 従来からサービスはネットワーク側でやっていましたが、アプリやソフトウェアの環境もクラウド寄りにしていかないと今後は厳しそうですね。
伊倉氏 そうですね。OSがコロコロ変わりますし、バージョンがたくさんあるので。
神尾氏 理想型は、新しいドコモのスマートフォンを買ってきてSIMカード入れ替えると、それを認識して、クラウド側にバックアップされていたデータが、新しい端末に自動でダウンロードされて、一晩で再セットアップされるという世界観ですよね。
伊倉氏 そうです。今はまだこなれていませんが、例えば「電話帳バックアップ」サービスが始まりました。原則はバックアップなんですが、iモード端末からスマートフォンへの移行も当然できます。iモード(ケータイデータお預かりサービス)のサーバから電話帳バックアップのサーバにデータを移動し、スマートフォンとシンクして完了、というイメージです。
神尾氏 それが全環境でできればドコモの差別化にもなりますし、ユーザーにとってありがたいですね。
伊倉氏 だけど、そういういのってすぐに周りも追いつくんですよ(笑)。だってクラウドでやるんですから。いいかどうかは分からないけれど、OSに関わらず何でも手元で見られる環境ができれば、究極的にはシンクライアントになるわけです。
今はそこまでいかないので、アプリを介在させながらやっていく。ただアプリはバージョンが変わると動かなくなる可能性が大なので、なるべくすぐにエアダウンロードでアップデートできるようにするわけです。
神尾氏 ドコモマーケットは今、Android Marketと連動してレコメンド中心でやっています。しかし今後は、クラウドでユーザーが使っているアプリの情報を預かるなど、販売だけでなく管理的な機能も必要になるかなと思うんですが。
伊倉氏 今できていないのが、アプリの引き継ぎなんですね。自分のGoogleアカウントで同期できるというのはありますけど、それだけじゃなくて、ドコモがレコメンドしたものなども含めてやっていく。今は、主にiモードの人たちが移ってきていますが、これからは“スマートフォンからスマートフォンへ”という動きが当然起きてくる。そうなると例えばGALAXY SとLYNXではものが違うので、どういうふうに対処するか、そこがこれからの工夫ですよね。
神尾氏 その際、ひもづいているアカウントの考え方なんですが、Androidのスマートフォンを使うと、Googleアカウントが必要になりますね。従来だと、キャリアの持っている電話番号やiモードのアカウントなどとひもづいていた。Googleアカウントの比重がどんどん重くなると、キャリアアカウントの価値が減ってしまうと思うんですが、このあたりはどう考えられますか。
伊倉氏 アカウントやIDはものすごく重要だと思っています。GoogleにしてもFacebookにしてもTwitterにしても、これらのアカウントは世界中どこにいっても使える。つまりマルチキャリアなわけです。電話番号の番号ポータビリティがありますけど、それこそモバイルIDポータビリティみたいなものですね。Googleができているということからすると、ドコモもやっぱりそういうことを考えていかなければならないと思っています。
ただ、例えば「@docomo.ne.jp」をソフトバンクユーザーさんに提供するかといえば、将来的にやるかもしれないけど、今はやってない。今どういうことをしなくちゃいけないかというと、Googleアカウントを設定してもらった後に、@docomo.ne.jpを中心に使ってもらうことです。ドコモマーケットを充実させることが、僕は重要だと思っています。
ドコモマーケットでのお客さんのアクティビティを増やすには、例えばSNSみたいなものも取り入れたりして、色々な形でドコモマーケットに来ていただく回数を増やす。トランザクションを集中させることによって、ドコモのIDとパスワードを意識させる、ということをやっていく。それがドコモマーケットの進化の形だと思います。詳細は申し上げられませんが、そういうことは思っています。
(後半に続く)
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