夢のエネルギー「核融合発電」、その実現を目指す国際プロジェクト「ITER」とは?

地球のエネルギー問題を解決する可能性を秘めた「核融合発電」。夢の発電方式といわれていたこの技術を、実現に近づける国際プロジェクト「ITER」が現在進行形で進められている。そしてこのITERには、核融合領域だけにとどまらない、さまざまな日本人の技術者が参画できる可能性があるという。

» 2019年06月03日 10時00分 公開
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エネルギー問題を解決する可能性を秘めた「核融合発電」

 昨今、化石燃料に頼らない持続性のある発電技術に注目が集まっている。風力発電や太陽光発電が広まっている他、既存の水力発電もある。小規模な発電として進化を続けているものとしてはバイオマス発電があり、研究・実証中の技術をみると、潮力発電や地熱発電なども含まれてくるが、現在および近未来の社会を維持する大電力の代替としては難しい。そのため、こうした複数の発電技術を駆使して、大電力を効率良く生み出す発電技術の研究開発を進めつつ、徐々に脱化石燃料のステップを踏まざるを得ないというのが実情だ。

 一方、将来的に大電力を生み出す技術として、20世紀から研究が進められている核融合発電がある。“地上につくる小さな太陽”ともいわれる核融合発電は、いわゆる原子力発電に属するが、既存の核分裂炉とは異なり、燃料の元となるのは、ほぼ無尽蔵な資源といえる海水のみ。さらに、この海水を元に生成した燃料(重水素とトリチウム)1gで、なんと石油8tを燃やした時と同等のエネルギーを得られるという特徴がある。核融合反応の維持ができなくなった場合、即座に核融合が停止するため、既存の原子力発電と比較しても安全性が高いとされている他、再生可能エネルギー電源と同様に二酸化炭素(CO2)を排出しないため、環境負荷も低いという、まさに夢のような発電技術だ。

核融合発電の実現を目指す国際プロジェクト、ITER計画とは?

 人類は、既に地球上で核融合を起こすことに成功している。しかし、最も身近な核融合炉である太陽のように、定常的な核融合の実現には至っていない。太陽の場合は太陽自身の重力が強く、比較的低温で核融合が起きるが、地球上で同様のことをしようとすると、プラズマを1億2000万℃にまで加熱する必要があり、その状態の維持が課題だった。しかし、世界各国にある核融合実験施設が研究を進めた結果、その実現にメドがつきつつある。

 こうした定常的な核融合の実現に向けて、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの7極30カ国以上が参加するプロジェクトがある。その名はITER(イーター)。実際に大型の核融合実験炉を作り、将来的な核融合発電の実現に向けた基礎研究を進めるという、大型の国際プロジェクトだ。

フランス南部のサン・ポール・レ・デュランスで建設が進められている実験炉

 2007年に発足したITERは、現在フランスで実験炉の建設が進められている。実験炉は2025年にファーストプラズマを迎え、そこから試験運転を開始し、2035年から実燃料を使った核融合に向けた本格的な実験を進める形だ。2019年5月時点では基礎工事の大半が終了し、各国で必要な機器の生産が進んでいる。2025年の実験炉の完成と試運転に向けて、いよいよ最終段階に近づきつつある状況だ。

ITERで建設を進めている実験炉のイメージ図

日本企業・エンジニアも参画中

 ITERは日本との関わりも深い。日本ではITER以前から核融合に関する研究を先端的に進めている他、国内でのITER中心組織である那珂核融合研究所では、ITERのサテライトとして「JT-60SA」を建設中だ。ITERの核融合実験炉よりも小型なものとなるが(それでも巨大だが)、ITERと同型の核融合実験炉で、2020年から先行して実験を開始し、将来的な人材育成を進めていく。期間の長いプロジェクトであるため、後進の育成にも当然ながら積極的である。

 ITERには多くの日本企業も参加している。「超伝導コイル」「高周波加熱装置」「遠隔保守機器」「計測装置」など、実験炉の実現に必要な多くの機器を日本企業が調達・納入する計画となっている。こうした背景もあり、さまざまな国籍の850人以上のメンバーによって進められているITERだが、その中には数十人の日本人メンバーが在籍しており、現在進行系でプロジェクトに携わっている。

技術者を世界から募集中、核融合領域以外の技術者募集も盛んに

 ITERでは、世界各国からプロジェクトに参加する人材の募集を定期的に行っている。当然ながら、日本からの応募も可能だ。ただ、「核融合」というと、「原子力関連の研究者・技術者でなければプロジェクトへの参画資格がないのでは」と思う方も多いのではないのだろうか。

 実はそうではなく、ITERでは直接的に核融合には関連しないさまざまな種類の技術職に加え、事務関連の職種も募集している。核融合といっても、実験炉などの実現に必要な機器や技術はさまざまであることに加え、世界各国の人材が集まる大型のプロジェクトであるだけに、プロジェクトマネジメントや経理など、組織の運用に関わる文系職種も非常に重要だからだ。

 具体例の1つに、溶接に関する技術者の募集がある。核融合を起こす真空容器内は極高真空である必要があり、水素原子1つ分の隙間も許されないだけでなく、容器自体が実験時に磁力の影響を受けて変形をする。そのため、こうした計算込みで溶接を行える技術者の出番となる。

 また、核融合実験において重要となる加熱についても、その道のプロフェッショナルを募集している。加熱するための技術が必要であるため、核融合工学に関する知識はそれほど要求されない。これは冷却についても同様で、日本から冷却機器開発メーカー出身の技術者がITERに参加しているという。この他、プラントの運用保守に関する技術者や、ロボットアームを利用した作業も多いため、機械工学方面の技術者の募集もあるという。また、ハードだけでなく、日本からソフトウェア関連のエンジニアが採用された事例もあるという。

 このように、実はさまざまな職能の募集があるITERだが、参画を検討したいと思った場合はどうすればよいのだろうか。ITERの採用公募は、必要な職種が発生した場合に、その職種を指定したピンポイントな公募が行われる仕組みとなっている。そのため、応募の前に、まず自分のスキルに合った職種が公募されているかどうかをまめに把握する必要がある。

 そのため、ITERの国内機関である量子科学技術研究開発機構では、「ITER機構職員公募に関する情報提供のための登録制度」というサービスを提供している。これはe-mailを登録しておくと、最新の公募ポストの案内や、ITERに関するさまざまな情報提供が受けられるというもの。ITERへの参画に興味がある、情報が欲しいという方は、まずこちらに登録しておこう。

 ITERの公募は、当然ながら世界各国の人材を対象としている。そのため、実際にマッチする職種の公募があった場合、そのポストを巡っては各国の人材との競争になる。実はこうしたITERへの応募を検討する人材に向けて、日本国内機関ではITER機構職員公募情報提供だけでなく、応募書類添削、面接の対策や英語のトレーニングなど、ITERへの参画を希望する人材に対する手厚いサポートを提供中だ。

 日本国内機関では全国でITERに関する説明会も実施している。「実際にITERに参画している日本人の方はどんな生活を送っているのだろう?」「これまでにどういった経歴の方が参画しているのか?」など、まずは話を聞いてみたいという方は、ぜひ説明会に参加しよう。説明会のスケジュールや公募内容は、日本国内機関のWebサイトで確認できる。

 ITERはラテン語で「道」や「旅」を意味する。原型炉、社会実装に至るまで長い旅となるが、将来的な実現に向け各国の技術者が集まり、日本から参加する技術者も増加中だという。すぐに身近な技術になるものではないが、人類の大きな課題であるエネルギーの問題を解決できる可能性を秘めた、大きな社会的意義を持つプロジェクトであることは間違いない。そして、そのプロジェクトの実現には、核融合にとどまらない、あらゆる領域の知見と技術が求められている。どこかに自身のスキルが役立つ可能性もゼロではないのだ。興味を持った方は、ぜひ一度プロジェクトの詳細にアクセスしてみて欲しい。

ITERプロジェクトに携わる日本人の方々

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提供:ゼネラルエンジニアリング株式会社
アイティメディア営業企画/制作:スマートジャパン 編集部/掲載内容有効期限:2019年6月9日

ITER Webサイト

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