再エネ普及と脱炭素に貢献する「VPP(仮想発電所)」、企業が参加するメリットや意義とは?

脱炭素社会の実現に向けて、分散電源を統合管理する「VPP(バーチャルパワープラント、仮想発電所)」への期待が高まっている。需要家である企業の目線で考えたとき、VPPへの参加にはどのようなメリットや意義があるのか。需給調整市場の創設に伴い、企業により身近になったVPPについて、VPP事業に詳しい東京電力エナジーパートナーに聞いた。

» 2021年09月27日 10時00分 公開
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脱炭素化を目指す企業が押さえておきたい2つのキーワード

 政府が「2050年のカーボンニュートラル」を発表するなど、日本国内においても脱炭素化を目指す動きが加速するなか、ビルや工場、物流施設など、自社で保有する産業施設の脱炭素化を模索しはじめる企業が増加している。そしていま、こうした脱炭素化を目指す企業であれば、必ず押さえておきたい注目のキーワードがある。

 それが、2021年4月に始まった、電力需給の調整力を取り引きする「需給調整市場」と、「VPP(バーチャルパワープラント、仮想発電所)」だ。これまでは“まだ実証フェーズ”という認識を持たれることもあったVPPだが、数々の実証や技術開発を経て、いよいよ“実践フェーズ”へと移行し、その真価を発揮しはじめている。そして需給調整市場の登場により、VPPは再生可能エネルギーの普及や脱炭素化に大きく貢献するキーテクノロジーであると同時に、電力需要家である企業にとって“新たな収益化の機会”にもなりつつあるのだ。

新たに誕生した「需給調整市場」が果たす役割とは?

 新たにスタートした需給調整市場とは、そもそもどのような目的で創設された市場なのだろうか。その役割について、東京電力エナジーパートナーの長尾泰司氏(販売本部 法人営業部 スマートコミュニティ開発グループ)は、次のように話す。

東京電力エナジーパートナーの長尾氏

 「需給調整市場は、変動する電力の需給バランスをリアルタイムに調整するための“調整力”を、一般送配電事業者が調達するための市場です。従来、調整力の調達は、各エリア内の公募で、相対で個別対応していました。これを、全国を対象に広域的な調達・運用を行えるようにしたのが需給調整市場です。需給調整力にはいくつかの種類があり、まず第一弾として4月から取引がスタートしたのは、『三次調整力②』という名称で分類されている調整力です。この市場において、売り手として入札を行うのは、調整力を生む発電設備などを持つ発電事業者や、需要家のリソースを統合管理するアグリゲーターと呼ばれる事業者になります」(長尾氏)

 そもそもの前提として、電力は常に需要(負荷)と供給(発電)を一致させる必要がある。このバランスが崩れると、電力系統の安定性が保てず、停電や設備機器への支障が生じることにもなりかねない。この需要と供給を一致させるための電力が調整力だ。そして需給調整市場において取引されるさまざまな調整力のうち、三次調整力②は、“再生可能エネルギーの導入拡大を支える調整力”である点が特徴だという。

 「三次調整力②は、太陽光発電など天候の影響を受けやすい再生可能エネルギーの発電量が急変した場合への対応を主目的とした調整力です。再生可能エネルギーの普及拡大と電力系統の安定化を両立させる、非常に重要な役割を担っています。そして、この再生可能エネルギーの普及を支える調整力を、従来のように火力発電の出力調整などで生み出すのではなく、需要家のみなさまが保有する蓄電池や生産設備などをVPPリソースとして活用して創出すれば、よりクリーンなエネルギー社会が実現できます。調整力の創出方法として、分散電源を統合管理するVPPの仕組みが役立つというわけです」(長尾氏)

VPPを活用して調整力を生み出すことで相対的なCO2削減が可能に

 従来、電力需要が増加した場合には、火力発電を焚き増すなどして供給力を高め、これを調整力とすることでバランスを取るケースが多かった。しかし、昨今は再生可能エネルギーの普及拡大により必要な調整力も増しており、その調整力をVPPなどを活用してクリーンな電源で賄うことが求められている背景もある。

 需給調整市場では、より多くの電源(売り手)に公平な参加機会が与えられ、一般送配電事業者(買い手)にとっては、より効率的で柔軟な調整力の確保が可能になる。そして、この市場において、新しいクリーンな調整力の創出方法として注目されるのがVPPというわけだ。

複数の電力リソースを統合管理して調整力を生むVPP

 VPPとは、需要家が持つ蓄電池などの電力に関連した設備や、生産設備のように一時的に稼働停止できる可能性がある設備を「VPPリソース」と捉え、統合管理することで調整力の創出を目指す手法だ。例えば、再生可能エネルギーの発電量が予測を下回るなどして供給が不足しそうなときには、VPPリソースの使用状況を調整して電力需要を減らし、需給バランスを整えるといった運用を行う。VPPリソースは、蓄電池などの蓄エネルギー設備や、自家発電設備、工場の生産設備、照明や空調、電気自動車など、多岐にわたる。

 一般にVPPの実運用においては、複数のVPPリソースをアグリゲーターと呼ばれる事業者が束ね、各需要家と連携しながら一元管理し、大きな調整力の創出を可能にする“仮想的な発電所=バーチャルパワープラント”として機能させる。東京電力エナジーパートナーもアグリゲーターの1社であり、これまでに契約先の需要家が保有するVPPリソースの管理において、国内でも有数の豊富な実績と経験を持つ。同社は需給調整市場にも参画しており、先述した三次調整力②に対し、国内で初めて、VPPの活用による調整力の供給を実施した事業者でもある。

※同社は、2021年5月に需給調整市場(三次調整力②)において、東京電力ホールディングスをアグリゲーションコーディネーターとするコンソーシアムに、VPPのリソースアグリゲーターとして参画。

企業が需給調整市場/VPPに参画するメリットとは?

 VPPを利用した需給調整市場の具体的な運用の流れを、東京電力エナジーパートナーをアグリゲーターの立場に置いてみてみよう。まず、需給調整市場において、売り手の立場にある調整力の供給事業者=東京電力エナジーパートナーは、一般送配電事業者から指令を受け、その内容に応じた調整力を生み出す作業を進める。具体的には、アグリゲーターとして契約先の需要家が持つVPPリソースの制御――例えば、蓄電池を放電したり、自家発電に切り替えたり、節電要請するなどして、必要な調整力を生み出す――という流れだ。

 では、需要家の目線で見た場合、こうしたVPPによる調整力の供給に協力することには、どのようなメリットがあるのだろうか。東京電力エナジーパートナーの太尾健氏(販売本部 法人営業部 スマートコミュニティ開発グループ)は、以下のように話す。

東京電力エナジーパートナーの太尾氏

 「例えばデマンド調整や停電対策、設備の安定操業のために導入した既存の設備を需給調整市場におけるVPPリソースとして有効活用していただくことで、需要家のみなさまには、主に2つのメリットがあると考えています。1つ目は“コストメリット”です。需給調整市場で調整力の供給によって得られる収益は、VPPリソースを所有する需要家のみなさまにも還元されますので、新たな収益源にもなります」(太尾氏)

 多くの需要家にとって、新規投資をすることなく、既存の設備がそのまま新たな収益源になり得るというのは大きなメリットだ。また、これから新たに蓄電池などの導入を考えるという場合でも、VPPを通じた需給調整市場への参画による収益が見込めれば、投資回収期間を短縮できるという期待もある。更には、カーボンニュートラル化を目指し電化生産設備の導入を目指す場合にも、VPPリソースとして活用することで思わぬ副収入を得られる可能性もある。

 「2つ目のメリットは、脱炭素化に資する取り組みに参加することによる“企業価値の向上”です。VPPは、需給調整のためにこれまで用いてきた火力発電所の焚き増しなどを代替するものであり、脱炭素化に貢献できます。さらに、再生可能エネルギーの利用率を高める上で調整力としてのVPPの役割は大きく、再生可能エネルギーの一層の普及拡大にも資する技術といえます。ですから、多くの需要家のみなさまにご参加いただければ、それに伴ってCO2の排出量は大きく減ってくるはずです」(太尾氏)

高度な技術と豊富なノウハウが求められるVPP

 前述のとおり、東京電力エナジーパートナーは、需給調整市場への参画に、需要家リソースによるVPPの活用を初めて実施した事業者だ。ここに至るまでには、経済産業省の「需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業」に2016年から参画し、市場開設に先立ってスタートした「調整力公募(電源I')」にも2017年度からVPPの活用で参入するなど、豊富な実績を積み上げてきた経緯がある。そうして培った知見とノウハウが、需給調整市場にVPPとしての初参入を可能にしたともいえるだろう。

 なぜなら、需給調整市場に参画するためには、厳しい事前審査をクリアしなければならないからだ。一般送配電事業者からの指令にいかに迅速に応動できるか、必要とされる調整力に対していかに少ない誤差(±10%以内)で応えられるかなど、市場参入には極めて高精度な制御技術が求められる。さらに、最低入札量(=調整力の供給量)は1000kWとなっているため、相当量のVPPリソースを管理できる必要もあるのだ。

三菱マテリアルの保有するNAS電池で高精度なVPPを実現

 国内初の事例となった需給調整市場(三次調整力②)へのVPPの活用において、東京電力エナジーパートナーが活用したのは、これまで「調整力公募(電源I')」に活用していた三菱マテリアルの大型蓄電池(NAS電池)だ。このNAS電池は、それだけで最低入札量の1000kWを超える出力を有しているため、他のVPPリソースと束ねられることなく、単独でのVPPとなっている。これもまた、これからの普及に期待がかかるVPPの一つのかたちだ。参入から4カ月が経過し、実際の運用実績も明らかになってきた。

VPPに利用している三菱マテリアルのNAS電池

 「これまで大きな失敗はなくほぼ毎回、需要家リソースの調整(DR:デマンドレスポンス)に成功しています。これらを実現するには、細かな調整に柔軟に対応できる高精度な制御技術はもちろんですが、応答性能に優れたNAS電池をVPPリソースに活用しているメリットも大きいと感じています。

 三次調整力②は、再生可能エネルギーの発電量の予測誤差を補正することが主目的のため、予測誤差に基づいた一般送配電事業者からの指令値に従って電力を調整する必要があります。意外かもしれませんが、入札していても当日、予測誤差がなければ指令値はゼロであり、その場合には電力(受電電力)を事前に入札していた基準値(ベースライン)の通りに動かすことになります。また、基準値よりも電力を抑制し過ぎると需給バランスを崩すことになるため、指令値の通りに電力を維持する必要があります。つまり、抑制量を一定範囲内に収める必要があり、その範囲から逸脱するとDR失敗となります。

 実際に、三次調整力②に参入以降いくつかの運転パターンを経験しました。制御時間帯(3時間)全て、指令値がゼロであるケースもありました。また、3時間すべてでフル指令(応札量100%分の指令値)であった日もあります。さらには、3時間の途中で指令値が変更になったときもありました。こうしたさまざまな運用の経験を、今後のVPP運用にも生かしていきたいと考えています」(太尾氏)

実際の応動実績の一例。調整力量の指令が変化したタイミングで、即座に出力を制御できていることがわかる

 需要家の立場からVPPに協力した三菱マテリアルでは、今回のVPPおよび需給調整市場に参画した背景について、次のように述べている。

 「当社では、以前より1万4400kWhという大容量のNAS電池を活用して、夜間に貯めた電力を昼間に使用することで電力の平準化を行ってきました。また、東京電力エナジーパートナーからの提案により、NAS電池をデマンドレスポンスに活用することで、逼迫(ひっぱく)する電力需要の改善にも協力してきました。今回、需給調整市場の創設にあたり、新たにNAS電池を調整力に活用する提案を受け、将来の再生可能エネルギー普及拡大にも役立つ取り組みであることから、進んで協力させていただくこととしました」(三菱マテリアル)

 さらに、需要家としてVPPに取り組むことは、「負荷平準化により施設の安定的な稼働を確保しつつ、新たな社会的要求であるデマンドレスポンスにも対応することで、企業として社会貢献できることが大きなメリット」(三菱マテリアル)だという。同社では今後も東京電力エナジーパートナーと共同で、新たなVPPリソースの運用方法を追求していく方針だ。

VPPや再エネ活用など、企業の脱炭素化に向けた取り組みをサポート

 需給調整市場におけるVPPの活用において、高い制御技術が求められるのは上述した通り。そしてもう一つ非常に重要なのが、VPPに協力する需要家に不便を強いたり、事業活動などに大きな影響を与えたりすることなく調整量を生み出す技術だ。これには、需要家の電力使用状況に対する広く深い知見、そして運用に関するノウハウが欠かせない。

 東京電力エナジーパートナーでは、これまでの電力供給事業を通じて培った知見とノウハウを生かし、今後、幅広い需要家にVPPリソースの活用を提案していく方針だ。2024年に市場開設予定の高速な調整力(一次調整力)の技術開発も実施中であり、需要家に還元できる収益の拡大施策にも積極的に取り組んでいる。VPPへの参画による収益還元を組み込んだ需要家向けの新しい電力契約メニューなども準備しており、今後提案を加速させるという。

 VPPの参画は既存リソースを活用するかたちでも可能だが、現在、VPPに対応する産業用蓄電池の導入には、国の補助金も用意されている。昨今トレンドとなりつつある工場や物流施設への太陽光発電の導入だが、発電した電気の自家消費率を高めるために、蓄電池は欠かせない存在になりつつある。せっかく蓄電池を設置するなら、VPPにも有効活用したいところだ。

 なお、東京電力エナジーパートナーでは、こうした産業用蓄電池の新規導入に向けたコンサルティングも行っている他、もちろん基本的な電力コストの削減や再生可能エネルギーの活用など、さまざまなサポートを実施している。VPPへの参画といった新しいエネルギーの利活用の方法など、今後の脱炭素化時代に向けた施策に悩む需要家にとっては、心強いパートナーとなるはずだ。

 「VPPの普及拡大は、電力の系統の安定化に貢献するとともに、脱炭素化に貢献していくという観点でも、お客さまもメリットを得られるという面でも、非常に意義のある施策だと考えています。東京電力エナジーパートナーでは、需要家のみなさまが所有する設備について新たな活用方法を提案し、収益面でも、企業価値向上の面でも、また再生可能エネルギーのさらなる拡大という社会への貢献の面でもプラスとなる“新たな価値”をみなさまと一緒に創り出していきたいと考えています」(長尾氏)

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提供:東京電力エナジーパートナー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:スマートジャパン 編集部/掲載内容有効期限:2021年10月26日