電力事業のミライの形――「送配電のデジタル化」を実現するために必要な技術とは?

社会環境の変化に伴う収益減やインフラの老朽化への対応など、多くの経営課題を抱える送配電事業者。経営の効率化に向け各社がデジタル化の推進を掲げているが、その実現を阻むのが「ネットワークのサイロ化」だ。この課題を解決するためには、どのようなネットワークインフラを構築すべきなのか?

» 2021年11月19日 10時00分 公開
[PR/スマートジャパン]
PR

 電力自由化を背景に、2020年に実施された送配電部門の法的分離。それまでも2003年の制度改正により送配電部門に会計分離が導入されてはいたが、この法的分離により発電・小売部門と送配電部門が同一会社で業務を運営することが禁止となり、電力会社の送配電部門は分社化され、送配電事業者となった。

 送配電事業者の主な収入源は、送配電網の利用料金である託送料金だが、今後は、電力需要の減少などを理由とした収益減が懸念されている。そのため、経営の効率化を図るとともに、新規事業の創出など託送料金以外の収入源の模索が急がれている。加えて、送配電を担うインフラの老朽化への対応や、維持管理コストの効率化、送配電網のより高度な運用手法の確立など、送配電事業者は事業内容やコスト構造そのものを⾒直す必要に迫られている。

 こうした送配電事業者が抱える課題の解決にあたり、不可欠となるのがデジタル技術を活用した既存の業務やインフラの構造改⾰だ。送配電ネットワークをデジタル化し、データ活用を進めることで、例えば変電所内の設備監視の効率化・省人化による現場業務の安全性や作業性の向上、新たな技術への活用なども期待できる。これを「デジタル変電所」と呼び、海外では変電所内のテクノロジーの活用が進んでいる。

デジタル化を阻む「サイロ化」をどう解決すべきか?

 デジタル化を実現するためには、現場にあるさまざまな情報を見える化し、データとして組織全体で有効的に活用できる体制の構築が欠かせない。しかし、現状の送配電インフラは用途や場所ごとにネットワーク構成が異なる、いわゆる「サイロ化」しており、配線コスト高が生じるとともに、システム同士のデータ連携も難しいというのが現状だ。送配電事業者のデジタル化においては、この「サイロ化」の打開が必須のテーマといえる。

 では、こうした「サイロ化」の課題に対してどのようなアプローチをとるべきなのか。その解決策として「用途別に別れた複数の配線インフラを共通のネットワークインフラ上に集約する」というアプローチを提案しているのがシスコシステムズだ。

シスコシステムズの中川氏

 シスコシステムズの中川貴博氏(IoT製品スペシャリスト)は「海外の事例をみても、送配電事業者が抱える『サイロ化』の課題を解決するためには、ネットワークインフラの見直しや刷新が欠かせません。シスコシステムズではSCADA用、監視カメラ用などのさまざまなネットワークを一本化し、制御所で統合管理するというアーキテクチャをご提案しています。インフラ全体をシンプル化することで、資産効率の向上、現場の安全性や生産性向上、さらにはクラウド上で電力の需給予測などの業務アプリケーションを起動させるなど、外部サービスとの連携も可能になり、まさにデジタル変電所を実現できます」と述べる。

送配電ネットワークインフラの現状と理想
デジタル送配電で実現する世界と広がるデータ活用

デジタル変電所を支えるシスコの強固なネットワーク

 デジタル化の実現に向けた、サイロ化の課題を解決する手段としてのネットワークインフラの刷新。しかし、電力を届けるという、非常に大きな社会インフラとしての役割を担っている変電所に導入するネットワークインフラには、当然ながらさまざまな機能・要件が求められることはいうまでもない。

 代表的なものの一つが、変電所には遅延が許されないアプリケーションが多く存在するという特性から、速さだけではなく「低遅延アプリケーションの優先制御」機能も求められるという点だ。シスコシステムズでは保護リレーなど遅延が許されないアプリケーションに関して、国際規格であるIEC 61850で定義された「GOOSE」や、「IEEE 1588v2 PTP」などの時刻プロトコルにも対応。電力インフラにもとめられる水準を達成しているという。

 そして、忘れてはならないのがセキュリティ対策だ。変電所の機器がインターネットにつながることで、セキュリティのリスクも増大することになる。

シスコシステムズの石黒氏

 この点についてシスコシステムズの石黒一将氏(公共・法人システムエンジニアリング 官公庁・社会インフラシステムズエンジニアリング システムアーキテクト)は「今はイーサネットスイッチを閉じた環境で使っているケースがほとんどであり、閉じているが故に安全という状態です。しかし、今後はイーサネットをクラウドや今まで連携していなかった社内のシステムと連動させて、インテリジェントデバイスのデータを活用する方向にシフトしていかなければなりません。それはリスクもありますが、そこに着手しない限り本当の意味でのデジタル化は進まないでしょう」と述べる。

 こうしたセキュリティ対策を行う上でも、シスコシステムズが提案する「ネットワークの一本化」には優位性があるという。「レガシー設備も含めた変電所の機器に対し、個別にセキュリティ対策を施すのは現実的とはいえないでしょう。しかし、ネットワークを一本化し、制御所で統合管理するというアーキテクチャであれば、セキュリティの観点でも見るべきポイントがはっきりするため、セキュリティツール導入の際にもコストを抑えることができます」(中川氏)

デジタル変電所に求められるネットワークの要件
デジタル変電所ネットワークの全体イメージ

デジタル化を支えるシスコの製品ラインアップ

 シスコシステムズは、ネットワークの専門企業として、オフィスなどを中心とした企業向けネットワークで多くの実績を抱える企業だが、「IEC 61850」や「IEEE 1613」といった電力会社向けの国際標準規格に対応した産業用ネットワーク製品も幅広く展開。国内の電力会社にも多くの産業用ネットワークスイッチの導入実績があり、インフラ業界特有の課題や事情にも精通している。

シスコシステムズの新谷氏

 同社の新谷智宏氏(公共事業 西日本第二営業本部 営業本部長)は「シスコと電力会社さまとのお付き合いは、約20年前に行われた電力会社さまのレガシーなバックボーンシステムをIP化する取り組みからスタートしています。その後、産業用スイッチを導入する際にも、高圧DC電源のサポートや耐環境性をご評価いただき、シスコの産業用ネットワークスイッチをご利用いただいております」と話す。

 シスコシステムズのさまざまなエネルギー業界向け製品の中で、昨今特に注目したいのが、ネットワークハブとしての役割も果たす高機能なイーサネットスイッチだ。変電所のデジタル化に伴い制御信号のハブとして導入が広がっているイーサネットスイッチ。しかし、デジタル変電所を実現する上では、単なるハブの役割を超え、「情報インフラネットワークのハブ」として、IT(Information Technology)とOT(Operation Technology)のゲートウェイとして活用していくことが大きなカギとなる。同社ではこうしたネットワークのハブとしても利用可能な高機能なイーサネットスイッチの展開に注力しているという。

シスコシステムズの島崎氏

 このイーサネットスイッチについてシスコシステムズの島崎直人氏(アーキテクチャ システムエンジニアリング IoT テクニカルソリューションアーキテクト)は「制御信号配線をイーサネットによって集約することは、比較的容易に実現できることから既に広く取り組まれ成功を収めています。一方でイーサネットやTCP/IPの本当のメリットは多様な用途の通信を同一配線上に相乗りさせてこそ発揮されます。しかし単純に相乗りさせるだけで適切な優先制御や通信の保護を行わないとネットワーク全体にトラブルをきたす恐れがあり、事実そのような事案も起きています。シスコのスイッチはそうした優先制御や通信を保護する機能を備えており、ネットワーク利用の高度化と投資額の抑制を両立させることが可能です」と述べる。

変電所に求められる「ネットワークのハブ」の役割

 シスコシステムズでは、こうした高機能な製品とともに、これまで世界の電力事業者にネットワークソリューションを提供してきた実績とノウハウを組み合わせて体系化し、デジタル変電所を実現するための「ベストプラクティス」の提案が可能だという。「我々は個別最適ではなく、全体最適によるコスト削減を目指します。これまで世界中の電力事業者さまにネットワークを提供してきたノウハウを、お客さまのご要望に合わせて体系的にまとめて提案することが可能です」(中川氏)

Ciscoによる変電所のリファレンスアーキテクチャー

海外では送配電のデジタル化によりクラウドを活用する動きも

 海外においては、イタリアのエネルギー⼤⼿ENELグループのデジタル変電所および配送電ネットワークをシスコシステムズがデザインした。データ収集のためにLPWA(省電力長距離通信)の一つであるLoRaWANを使いたいというクライアントの要望に対し、LoRaWANのゲートウェイを持っているシスコシステムズだからこそ、全てを一括で提供できた事例だ。

 また、クラウドの利用を前提としたアーキテクチャを構築している点も、この事例の特筆すべき点だといえる。「コーポレートガバナンスが厳しい日本では、送配電インフラにおけるクラウドの活用はまだ難しい状況にあります。一方でクラウド上には電力会社さまの業務改善や事業の効率化に寄与するであろうアプリケーションが多く存在しており、またこれからも数多く出てくることが予想されるため、将来的には日本でもクラウドも活用してコスト削減をしつつ、スピード展開をしていくという動きが出てくるのではないでしょうか」(石黒氏)

 さらには膨大な数のネットワークスイッチやルーターを一元管理できる「DNA Center」の導入にクライアントの手応えを感じたという。「管理性、運用性というのは極めて重要なファクターです。特に規模が大きいほど、システムの展開後にいかに手間を掛けずに運用できるか、という点がポイントになります。その部分は多くのさまざまな知見のあるシスコに一日の長があります。規模が大きくなればなるほど、シスコを選んでいただくメリットは大きくなると考えています」(島崎氏)。

シスコがネットワーク構築を支援したイタリアのエネルギー大手ENELグループの事例

送配電のデジタル化には将来を見据えた設計が必要

 電力自由化からしばしの時を経て送配電事業者の課題が浮き彫りになってきた昨今において、送配電のデジタル化は待ったなしの状況といえる。送配電のデジタル化を進めるうえで重要となるのが送配電ネットワーク整備だが、根本の問題である「サイロ化」を改善せず部分最適を繰り返すようでは、いつまでも真のデジタル化は実現できないうえ、結果的にコストの増大を招くことにもなりかねない。

 限られたコストでのデジタル化が急務であればこそ、「急がば回れ」の視点で将来を見据えて全体を俯瞰し適切なネットワークを構築する必要がある。その最初の一歩に迷っているのなら、電力会社固有の事情にも精通し、海外での実績も豊富なシスコに相談するのが近道かもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:シスコシステムズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:スマートジャパン 編集部/掲載内容有効期限:2021年12月14日