現在は荒川線のみになってしまった東京都電。しかし、かつては広大な路線網があり、最盛期の営業距離は200キロメートルを超えていたという。その栄華は完全に消え去ることはなく、各地に車両や遺構が残っている。とくに都電38系統の専用軌道部分は緑道として整備され、人々の憩いの場だ。電車が走らなくなった今、そこは意外にも楽しい散歩道だった。
地下鉄東西線の東陽町駅から地上に出るとそこは永代通り。大手町から日本橋、茅場町、門前仲町を経由して、東陽町から西へ行くと葛西に至る。地下鉄東西線はこの道の下を走っている。
東陽町駅近く、永代通りと四ツ目通りの交差点に立つとバスの多さに驚く。永代通りには緑色の都バスがズラリと並び、四ツ目通りへ曲がるバスも多い。この交差点は都営バスの乗り場が6カ所もあって、永代通りの西方向だけで3つの乗り場が並ぶ。ここ東陽町は14もの系統が発着し、まるで都心のターミナルに匹敵する賑わいだ。そして交差点近くの東陽公園前からは成田空港行きと羽田空港行きのリムジンバスも発着する。
さらに永代通りはJR高速バスも頻繁に通る。ここからは乗ることはできないけれど、この町の南にはJR関東バスの車庫があって、東京駅始発の高速バスの回送ルートになっている。路線バスからハイデッカーまで、車種もさまざまで興味深い。もし私が東陽町に生まれ育ったなら、鉄道ファンではなくバスファンになっていただろう。
東陽町……というより江東区にバス路線が多い理由は、南北方向の鉄道路線がないから。東西方向はJR京葉線、JR総武線、りんかい線、メトロ有楽町線、メトロ東西線、都営地下鉄新宿線と6つも鉄道路線がある。これに対して南北方向は大江戸線だけ。だから南北交通を補完するようにバスの路線網が形成された。江東区は「有楽町線の豊洲から分岐して東陽町を経由し住吉に至る地下鉄路線」の建設に向けて動き出したという。しかし、東陽町のバス銀座は当分は安泰といえそうだ。
さて、なぜかバスについて熱く語ってしまったけれど、今日は地下鉄にもバスにも乗らない。歩く。バスが充実する明治通りに並行して、東陽町から亀戸まで緑道が続いているので、そこを歩く。なぜか? これが都電38系統の廃線跡だからである。
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