建築物の耐震構造を応用――振動に強いG-SHOCK「GW-4000」の秘密開発者インタビュー(1/2 ページ)

» 2012年02月22日 09時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]
パイロット仕様のG-SHOCK「GW-4000」。52.9×50.4×15.6ミリ(縦×横×厚さ)、約75グラム。2月29日発売で、価格は4万2000円

 「タフな時計」の代名詞ともいえるG-SHOCK。G-SHOCKには最上級ラインの「MR-G」、メタルと樹脂を組み合わせた高級機「MT-G」、初代以来のスクエアデザインを引き継ぐ「ORIGIN」などいくつかのラインアップがあるが、その中でもパイロット仕様とされるのが「SKY COCKPIT(スカイコックピット)」シリーズだ。飛行機の操縦、それもエアレースのような極限状況で操縦かんを握るようなパイロットでも問題なく使えるような、堅牢かつ視認性の高い時計だけが、このシリーズ名を名乗ることができる。

 そのSKY COCKPITシリーズの最新作が、2月29日発売予定の「GW-4000」だ。これまでの耐衝撃・耐遠心重力に加え、耐振動性能を兼ね備える「トリプルGレジスト」が特徴であるGW-4000が製品化できたのは、入社2年目の若い社員の専門知識があったからだという。GW-4000はなぜ振動に耐えられるのか? 開発担当者2名に話を聞いた。


GW-4000の商品企画を担当した斉藤慎司さん(左)、外装設計を担当した川岡裕康さん(右)

「最大20Gの振動にも耐えるG-SHOCK」を目指せ

 古くからG-SHOCKを知る人にはデジタル時計のイメージが強いかもしれないが、現在のラインアップでは、針で時間を指し示すアナログモデルがかなり増えている。SKY COCKPITシリーズもその一つで、許されるサイズギリギリまで文字盤を広く使い、長い針を配置。パッと見てすぐに時間が分かるよう、見やすさを重視した視認性の高いデザインが採用されている。

 しかしデジタル表示の時計に比べ、実際に針を動かしながら時を刻むアナログモデルは、時計にかかる重力や振動といった物理的な「力」の影響を受けやすい。SKY COCKPITシリーズでは従来のモデルでも耐衝撃・耐遠心重力性能を実現してきたが、GW-4000では最大20Gの振動に耐える「耐振動性能」を備えた。「20Gの振動」とは、どれくらいの揺れなのだろうか? 商品企画責任者の斉藤慎司さんに話を聞いた。

 「GW-4000の開発に先立ち、さまざまな振動の規格を調べました。JISとか、工事関連規格とか、いろいろな振動の規格があるんです。その中でも最も厳しいのが自動車やバイクに適用される規格でした。自動車やバイクにはたくさんのセンサーやメーターが付いていますが、これらは大抵、最大20G(までの振動に耐えるように作られている)なんです。私はバイクに乗るのですが、あまりに激しい振動だと『デジタルモデルならいいけど、アナログ時計だと針が壊れてしまうかも』と不安になることがあります。エアレースのような極限状況で使われることを想定したSKY COCKPITシリーズの新作として、『20Gまで耐えられるものを作ろう』という商品コンセプトは、こうして決まりました」

大学院の専門は「構造エネルギー工学」

 最大20Gの振動に耐えるG-SHOCKを作る――コンセプトが決まったところで問題となったのが「どのように振動を押さえ込む構造を作るか」。そこを解決したのが、GW-4000の外装設計を担当した川岡裕康さんだった。

 川岡さんはカシオ計算機に入社して2年目の若いエンジニアだ。大学院では構造エネルギー工学の研究室に所属しており、住宅の耐震構造や、地震が起きたときに建築物はどのように揺れるのかなどについて研究していたという。

 「まずは『振動について教わろう』ということになったんです。『振動について教えてくれない?』と川岡に頼みに行きました(笑)」(斉藤さん)

 川岡さんにとって、振動は大学院で研究していた専門テーマである。「振動には大きく2つの特徴があります。1つは、一瞬で終わらない、続く力であるということ。もう1つは同期する力であるということです。揺れが同期していちばん揺れることを『共振』といいます。時計にかかる振動を考えると、速い動きもゆっくりと大きな動きもありえます。これらすべてに対応しないと『耐振動』とは言えません」(川岡さん)

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