「金持ち球団が強い流れに戻っている」――『マネーボール』のビリー・ビーンGMインタビュー(2/2 ページ)

» 2012年03月28日 13時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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金持ち球団が強い流れに戻っている

――アスレチックスはセイバーメトリクスを導入して、2000年代前半のレギュラーシーズンの成績は非常に良かったのですが、ポストシーズン(プレーオフ)ではあまり勝てていないと思います。セイバーメトリクスはポストシーズンに勝つための指標を見つけ出せていないのではないでしょうか。

ビリー そうですね。野球に限らずどのスポーツでもそうですが、ポストシーズンはゲーム数が少ないわけです。レギュラーシーズンに比べると運であったり、変動値がより大きなインパクトを与えてしまったりするんです。

 スポーツに限らず、ビジネスでもそうだと思うのですが、完全に運、変動値を取り去るのは不可能です。その中で私たちができることは位置取りを目指すこと、つまりまずポストシーズンに参加できる位置に付けることですね。あとは幸運に見舞われるのか、不運に見舞われるのか分からないわけです。

――確かにポストシーズンのゲーム数は少ないですが、通算で見てもビリーさんがゼネラルマネージャーになった1997年以降のアスレチックスは11勝16敗とポストシーズンを負け越しています。そこではチャンスに強いといったようなセイバーメトリクスでは否定されてきたことが重要になっているのではないかとも思うのですが。

ビリー 公平な質問だとは思います。ただ、スポーツにせよ、ほかのビジネスにせよ、短期的な結果のみで断定的な考察をするのは違うのではないかというのが僕の意見です。

 一流企業であっても1年のうち数日間は商売が良くない日があるわけで、スポーツでもそういう日が長く続くとポストシーズンにはたどりつけないわけですね。ビジネスでもスポーツでも長期的に成功させようとするなら、先ほど言ったように、どんな運に見舞われようともインパクトを最小に食い止められるような位置取りをすることが肝心なんです。

――これは正しいと思っていたけど、認識を改めたという指標はありますか。例えば、『マネーボール』では犠牲バントや盗塁を重視しないと描かれています。しかし、アスレチックスは2000年代前半は確かに盗塁が少ないのですが、ここ数年は結構行っているので、認識を改めたのではないかと感じました。

ビリー だって成績良くないじゃん、うちのチーム(笑)……ということです。それは私たちのチームの最近のパフォーマンスに反映されているだろうということで、つまりあまり盗塁を重視していない、「盗塁は勝率にゼロのインパクトしか与えない」といまだに考えているということです。

 だから、資金に余裕があってどんな選手でも獲得できるのであれば、出塁率や長打率を見て獲得します。ただ不幸なことに、そんなことはもうどのチームも分かっているので、ヤンキースやレッドソックスのような財力のあるチームに獲得されてしまうことが多くなっています。

SBが盗塁成功数。2011年のアスレチックスの盗塁数は117だが、2000年代前半は40程度だった(出典:MLB公式Webサイト)

――セイバーメトリクスの先行者利益がなくなっているということですが、今はどのようにスカウティングしているんですか。

ビリー スカウトに対するアプローチは同じですね。ただ、だんだん厳しい状況になってきているわけで、私たちが一番欲しい選手を獲得する、もしくは見つけるのが困難になってきています。

 フロントオフィスの立場から言うと、現代野球は非常に知的なゲーム、頭脳ゲームになってきているんですね。そのため、資本の大きさが結局、球団の成功につながるというところに戻ってきてしまっています。もちろん、資本がない球団でも短期的な成功、ちょっとした成功を手にすることは可能なのですが、究極的にはお金を持っている球団が強いということになってきています。資本力がある球団も同じように賢くなってきているので、手ごわい敵になっているということです。

マネーボール

選手からフロントに転身し、若くしてメジャーリーグ球団アスレチックスのゼネラルマネージャーとなったビリー・ビーンは、自分のチームの試合も観なければ、腹が立てば人やモノに当たり散らす短気で風変わりな男。ある時、ビリーは、イエール大学経済学部卒のピーターと出会い、彼が主張するデータ重視の運営論に、貧乏球団が勝つための突破口を見出し、周囲の反対を押し切って、後に“マネーボール理論”と呼ばれる戦略を実践していく。当初は理論が活きずに周囲から馬鹿にされるが、ビリーの熱い信念と、挑戦することへの勇気が、誰も予想することの出来なかった奇跡を起こす!!

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