誠 Styleでは4月、5月と2カ月にわたって特集「自転車通勤2012春」を展開した。自転車通勤に対する企業の取り組みを紹介したり、実際に自転車で通行するには危険だといわれている都内の交差点を走行してリポートしたりしてきた。
自転車通勤に関して取材を重ねるうえで、関係者の多くが口にしたのが「保険にはちゃんと入っていますか?」ということだった。というのも、自転車通勤を制度化している企業の多くは、自転車保険への加入を必須としているからだ。
警察庁の資料(PDF)で自転車が絡む事故の総件数を見ると、2001年に17万5223件だったものが、2011年には14万4018件へと減少している。しかし、これは対自動車や対二輪車の事故が減少しているからであって、対歩行者で見ると1807件から2801件へと増加しているし、自転車同士の事故は2498件から3611件へと増加している。
歩行者との事故の場合、自分がけがをするだけでなく、相手にもけがを負わせてしまう可能性が高い。しかも、2011年の対歩行者の事故のうち6件は死亡事故に至っている。
事故を起こさないような安全運転を心掛けるのは当然のことだが、被害者への賠償金についても考えておかなければならないだろう。はたして、賠償金額はどのくらいになるのか。
au損害保険の福岡孝夫執行役員は、「残念ながら、携帯電話を使いながら、音楽を聴きながらといった危険な運転をする自転車利用者が増えています」という。
「万が一、事故を起こしてしまい加害者となった場合、自動車事故と同様の高額な損害賠償を命じられる判決が続出しています。一方で、自転車には自賠責保険に当たる仕組みがなく、社会問題化のきざしも見え始めました」(福岡さん)
例えば、男子中学生が夜間、無灯火で対面歩行の女性(75歳)と衝突し、女性に重大な後遺障害が残ったケースでは3124万円の損害賠償が命じられた(2004年9月、名古屋地裁)。
また、女子高校生が昼間、携帯電話を操作しながら前方を歩行中の看護師(57歳、女性)に衝突し、看護師に重大な後遺障害が残ったケースでは賠償金は5000万円となった(2005年11月、横浜地裁)。
ほかにも、成人男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に突入し、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突し、女性が亡くなったケースでは5438万円の賠償を命じられている(2007年4月、東京地裁)。
賠償額 | 事故の概要 | 裁判所名 | 判決日 |
---|---|---|---|
5438万円 | 成人男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入し、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突。⇒女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡 | 東京地裁 | 2007年4月11日 |
5000万円 | 女子高校生が昼間、携帯電話を操作しながら無灯火で走行中、前方を歩行中の看護師(57歳)の女性と衝突。⇒看護師には重大な後遺障害(手足がしびれて歩行が困難) | 横浜地裁 | 2005年11月25日 |
4043万円 | 男子高校生が朝、赤信号で交差点の横断歩道を走行中、旋盤工(62歳)の男性が運転するオートバイと衝突。⇒旋盤工は頭蓋内損傷で13日後に死亡 | 東京地裁 | 2005年9月14日 |
3138万円 | 男子高校生が朝、自転車で歩道から交差点に無理に進入し、女性の保険勧誘員(60歳)が運転する自転車と衝突。⇒保険勧誘員は頭がい骨骨折を負い9日後に死亡 | さいたま地裁 | 2004年2月15日 |
3124万円 | 男子中学生が夜間、無灯火で自転車を走行中、対面歩行の女性(75歳)と衝突。⇒女性には重大な後遺障害(2級) | 名古屋地裁 | 2004年9月27日 |
このような高額な損害賠償をカバーするためのものとして自転車保険が注目されているのだ。
なお、日常生活において第三者の身体や財物に損害を与えた場合について損害賠償をカバーするものは「個人賠償責任保険」であるが、すでに自動車保険や火災保険、傷害保険などに加入している人は、「日常生活賠償特約」といった名称で同様の特約が付いている可能性があるので、まずはその内容を確認してみるといいだろう。
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