SASが開拓した北極航路と、北欧の自由気ままな休日秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/6 ページ)

» 2012年11月16日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

自転車のある暮らし(コペンハーゲン)

 朝9時。市の南側に位置する市庁舎前の広場を起点に、街歩きをスタートする。コペンハーゲンに来るといつも思うのは、やたらと自転車が多いな、ということ。みんな職場まで自転車で通っているのだろうか。この街は道が平坦だし、道路には自転車専用レーンも整備されているので、走りやすそうだ。信号待ちしていた自転車の女性に「これから会社へ?」と聞いてみた。

 「いいえ、大学の授業です」と彼女は答えた。「郊外のアパートから毎日15キロの距離を自転車で通っています。健康にもいいですからね」

 4年ほど前にここを訪ねたとき、街の関係者が「コペンハーゲンは世界一、自転車の乗りやすい街です」と胸を張っていた。たしか1970年代に自転車優遇政策がスタート。当時街のあちこちに出没していた“ヒッピー”たちも、自転車文化の普及にひと役買ったらしい。彼らは「自然と共生し、クルマに頼らない暮らしを」と人々に訴えた。いまでは無料の自転車が街のあちこちに置かれ、観光客たちにも大人気だ。自由に使えるし、市内のどの駐輪場に返却してもいい。荷物や小さい子どもを乗せられる3輪自転車や、2人漕ぎ自転車などもよく見かける。

 市民の自転車通勤率は4年前の時点で「40%弱くらい。2015年までに50%を目指す」関係者は言っていたが、現在はどのくらいまで上がっているのだろう。

飛行機と空と旅 市庁舎前の広場から街歩きをスタート
飛行機と空と旅飛行機と空と旅 (左)コペンハーゲンの街はどこも自転車だらけ(右)荷台をつけた3輪自転車もよく見かける

ニューハウンのカフェで(コペンハーゲン)

 コペンハーゲンを訪れると、私が必ず足を運ぶのがここ──運河沿いに広がるニューハウンだ。歩き疲れたら、適当なカフェに入ってちょっとひと休み。この一帯はかつて気性の荒い船乗りたちが闊歩したそうだが、現在はお洒落なカフェやレストランが軒を連ねるコペンハーゲンきっての観光スポットになっている。

 ニューハウンはデンマーク生まれの作家、アンデルセンが好んで住んだことでも有名である。生涯家を持たなかったアンデルセンは、ここから近くの王立劇場に通い、数々の童話作品や詩を残した。運河のある街の風景には、なぜか創作意欲をかき立てらる。オランダのアムステルダムなども、私の大好きな街の1つだ。中央広場から放射状に伸びる運河沿いの小径を歩くと、イマジネーションが冴えわたる気がして。そういえば、ミステリー作家の宮部みゆきさんが創作活動の拠点を置くのも、たしか東京の深川だった。宮部作品のあの精巧なプロットは、隅田川のほとりを散策しながら積み上げられるのだろうか。

 ビールを運んできたウエイターに「私もここに住んで仕事をしてみたい」といったら、彼は「アンデルセンが住んだころならまだしも、いまは世界中から観光客がやってきて、創作どころじゃないよ」と笑った。冷たいビールがのどに染みてゆく。目の前の運河をぼんやりと眺め、あまりのんびりしていては時間がもったいないなと思いながら、ついつい先ほどのウエイターに手で合図。別のテーブルを片づけていた彼は指でOKサインをつくって微笑み、こう口を動かした。「ワン・モア・ビア?」

飛行機と空と旅 運河沿いに広がるニューハウンの街並み
飛行機と空と旅飛行機と空と旅 (左)現在はお洒落なカフェが並ぶ観光スポットに(右)市庁舎の横に立つアンデルセンの像

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