朝9時。市の南側に位置する市庁舎前の広場を起点に、街歩きをスタートする。コペンハーゲンに来るといつも思うのは、やたらと自転車が多いな、ということ。みんな職場まで自転車で通っているのだろうか。この街は道が平坦だし、道路には自転車専用レーンも整備されているので、走りやすそうだ。信号待ちしていた自転車の女性に「これから会社へ?」と聞いてみた。
「いいえ、大学の授業です」と彼女は答えた。「郊外のアパートから毎日15キロの距離を自転車で通っています。健康にもいいですからね」
4年ほど前にここを訪ねたとき、街の関係者が「コペンハーゲンは世界一、自転車の乗りやすい街です」と胸を張っていた。たしか1970年代に自転車優遇政策がスタート。当時街のあちこちに出没していた“ヒッピー”たちも、自転車文化の普及にひと役買ったらしい。彼らは「自然と共生し、クルマに頼らない暮らしを」と人々に訴えた。いまでは無料の自転車が街のあちこちに置かれ、観光客たちにも大人気だ。自由に使えるし、市内のどの駐輪場に返却してもいい。荷物や小さい子どもを乗せられる3輪自転車や、2人漕ぎ自転車などもよく見かける。
市民の自転車通勤率は4年前の時点で「40%弱くらい。2015年までに50%を目指す」関係者は言っていたが、現在はどのくらいまで上がっているのだろう。
コペンハーゲンを訪れると、私が必ず足を運ぶのがここ──運河沿いに広がるニューハウンだ。歩き疲れたら、適当なカフェに入ってちょっとひと休み。この一帯はかつて気性の荒い船乗りたちが闊歩したそうだが、現在はお洒落なカフェやレストランが軒を連ねるコペンハーゲンきっての観光スポットになっている。
ニューハウンはデンマーク生まれの作家、アンデルセンが好んで住んだことでも有名である。生涯家を持たなかったアンデルセンは、ここから近くの王立劇場に通い、数々の童話作品や詩を残した。運河のある街の風景には、なぜか創作意欲をかき立てらる。オランダのアムステルダムなども、私の大好きな街の1つだ。中央広場から放射状に伸びる運河沿いの小径を歩くと、イマジネーションが冴えわたる気がして。そういえば、ミステリー作家の宮部みゆきさんが創作活動の拠点を置くのも、たしか東京の深川だった。宮部作品のあの精巧なプロットは、隅田川のほとりを散策しながら積み上げられるのだろうか。
ビールを運んできたウエイターに「私もここに住んで仕事をしてみたい」といったら、彼は「アンデルセンが住んだころならまだしも、いまは世界中から観光客がやってきて、創作どころじゃないよ」と笑った。冷たいビールがのどに染みてゆく。目の前の運河をぼんやりと眺め、あまりのんびりしていては時間がもったいないなと思いながら、ついつい先ほどのウエイターに手で合図。別のテーブルを片づけていた彼は指でOKサインをつくって微笑み、こう口を動かした。「ワン・モア・ビア?」
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