「東京とコペンハーゲンを結ぶ現在のSASの路線も、55年前に開設された北極航路が間違いなくベースになっています。その開拓に汗を流してくれた先輩たちへの感謝の気持ちを、私たちは忘れてはいけないと思うんですよ」
食事を運んでくれたスウェーデン出身の男性クルーが、そういって笑顔でうなずいた。SASでのフライト歴12年というベテランのスチュワードだ。彼らはコペンハーゲンをベースに、欧州域内の短距離路線からアジアへの長距離路線までさまざまなフライトに乗務している。その中でも、一番のお気に入りは日本路線での仕事だとか。
「離陸して1、2時間で着陸準備に入らなければならない短距離路線では、忙しくてなかなか乗客のみなさんとの交流が持てません。その点、長距離路線なら落ち着いてミールサービスなどをしながら、相手と言葉を交わすこともできる。これまでのフライトを通じ、日本の方ともたくさん知り合うことができました。トータルするとこの仕事に就いて15年以上になりますが、東京/コペンハーゲンの便に乗務する前の晩はワクワクしてなかなか寝つけません」
レストランのシェフのような姿がよく似合う。このユニフォームを着用できるのは、レストランなどで一定期間の接客経験を持つ人か、SASで数年のキャリアを積んで資格を取得したクルーだけらしい。ミールサービスの時間になると、数名のクルーがこのシェフスタイルに早変わり。ギャレー(厨房)での作業に携われるのも資格取得者だけという徹底ぶりだ。フレンドリーなクルーたちは、機内での撮影にも全面的に協力してくれた。
「こうして取材のお手伝いができるのも、やっぱり長距離便を運航するための北極航路が開拓されたからですよ」と彼は続ける。「これが何カ所も経由する南回りだったら、私たちが協力できることも、またお客さまと交流できる時間も限られてしまう。北極航路の開設は、私たちクルーの活動の幅を、サービスの可能性を広げてくれました」
だからこそ、先輩たちには心から敬意を表したい──彼は先ほどの言葉をもう一度繰り返して、白い歯をのぞかせた。成田を飛び立って10時間が経過し、SK984便はあと30分もするとコペンハーゲン・カストラップ空港に向けて徐々に降下を開始する。日本と北欧という離れた地域で暮らす人たちの交流促進を目標に、両者の距離を縮めることに努力を傾けてきた先代たち。そのパイオニア精神は現在のSASのクルー一人ひとりに確実に受け継がれていることを実感しながらの、有意義で快適なフライトだった。
次のページからは、コペンハーゲンを皮切りにSASの国内線とバスやフェリー、鉄道を使って訪ねたデンマークとノルウェーでの休日の様子を、ダイジェストで紹介する。
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