そこで彼らは、「なぜJINS PCなのか」というストーリーづくりに注力した。とにかくエビデンス(証拠)を集めた。こういった健康系アイテムでは学術的な裏付けがしっかりしていないと、とたんにうさん臭いものとして消費者に受け取られることを知っていたからだ。
「われわれは、これを『情報開発』と呼んでいます。生産する商品をきちんと説明できる『情報』も開発して、一緒に消費者に届けたい。JINS PCの場合、最低限必要だった情報は、ブルーライトに関する情報のほかに『JINS PCには本当に効果・効能があるのだ』ということを眼科医に検証してもらうことでした」(矢村さん)
まずは発売前のJINS PCを20人前後の被験者を対象に、JINS PCを装着した場合と、装着しなかった場合の目の疲れ方の違いを検証した。目の疲労度を測定するためのフリッカーテストの結果、効果があることは分かった。この「情報」をより補強するために、日本マイクロソフトの協力を得ておよそ500人の社員を対象に実証実験を続けた。JINS PCの発売以後も、情報開発は続いている。
JINS PCの発売当初から、JINSは「ブラウン管や蛍光灯の一種である冷陰極管をバックライトに使う液晶ディスプレイに比べると、LEDバックライトの液晶ディスプレイの方がブルーライトを多く発生している」といった説明をしている。これは事実だ。
この説明に反応した液晶メーカーもあった。ただし、JINSは当初からLEDを悪者にしようと思ったことはないという。
「現実問題として、人類はかつて経験したことがないくらいブルーライトを時間的にも量的にも浴びています。でもLEDが悪者だというつもりは全くありませんでした。省エネはもちろん、情報化社会の中でPCを使うな、スマホを使うなというのは無理な話。どうやって共存していくのかという1つの手段としてJINS PCを提案したいのです」(矢村さん)
「そもそもメガネをかけていない人は、眼のまわりにモノがあることが嫌だ、わずらわしいと感じるでしょう。ですから乗り越えるべき障壁はいくつかありましたね」と振り返るのは、デザイン面をリードした井上一鷹さん(現アイウエア事業部企画グループマネジャー)。軽く、細く、締め付けないこと。とにかくストレスを感じさせないものを模索し続けた。
その1つが、自分で耳かけの部分を調整できる「ラバーモダン」の採用だ。JINS PCパッケージタイプはダテめがね。ユーザーが耳かけ部分を快適だと思う形に変えていい。「室内でのPC作業用と割り切って考えれば、激しい運動を考慮したフィット感よりも締め付けないことを優先できました」(井上さん)
そもそもラバーモダンはフィッティングを不要にするために生まれたアイデア。視力矯正用のメガネは、レンズの位置が重要なのでメガネ屋できっちりとフィッテングをする。耳かけの形を勝手に変えるのはご法度だ。
このラバーモダンの採用によって、JINS PCはパッケージ商品として売りだすことができた。「店頭に並んでいるパッケージをレジに持っていき、お金を払い、そのまま持ち帰るだけ」という手軽さで、メガネを買ったことがない人の心理的な障壁を取り払った。また、パッケージ商品にしたことで、Webサイトや自動販売機での提供という新しい販売経路の開発につながった。
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