ラバーモダンは、ほかにもメリットをもたらした。通常、メガネは鼻と両耳の3点で支える。レンズが重い既存のメガネでは重心が前にいくことで、鼻に重さがかかる。一方、JINS PCではラバーモダンによって重心が後ろ寄りになる。結果として、顔に鼻パットの跡がつきにくい。
また、外したときのことも考慮にいれた。メガネを持ち歩かない人は、メガネケースも持たないことが多い。そこで、JINS PCは折りたたんだときに薄くなること(JINSのメガネは左耳側から折りたたむと薄くなるようにデザインされている)、そのままカバンにサッと入れてもかさばらず壊れないことを目指した。
こうして「万人の顔になじみやすい」スクエア型フレームを持つJINS PCは、全16色のカラーバリエーションを用意して発売。違うデザインのフレームが登場するまで9カ月間、同じ商品を売り続けた。
「結果的に、このことが『PC用メガネとはこういう形です、標準形です』という認知につながったと思います。16色展開は、社長から『16色の色鉛筆セットに入っている色は何かをしっかりと考えるように』と厳命されました。JINSの勝ちパターンの1つである選ぶ楽しみにもつながりますから」(井上さん)
最後に、矢村さんと井上さんに「今だから話せる秘密はないか」と尋ねた。するとしばらく考えたあとに「あ、あれだ。ツーポイントの残念感(笑)」という答えが返ってきた。
JINS PCのプロトタイプは3つあった。最初に考案したのがレンズの周りにフレームがない「ツーポイント」だ。軽いし、視界に邪魔なものが入り込まないし、ほかの人からメガネをかけていないように見えるツーポイントこそが、メガネをかけない人に受け入れられるデザインではないかと考えたのだ。
「女性社員数名に試着してもらったら大不評。『これ、いつまでかけていなければならないの? オバサンくさいから、テストするのも嫌だ』ときっぱりと拒否されてしまいました」(矢村さん)
最初のサンプルはテンプルが茶色だった。色が悪いのかと透明のものを作った。でも答えは同じ。「色の問題じゃないんだよ、そもそも見た目がダサいから嫌なんだよって。もしもJINS PCをツーポイントで出していたら、本当に売れてなかったと思います(笑)」。
その後、Air frameで定番人気のユニセックス用フレームにレンズを入れてみたそうだ。
「本当に『試しに入れてみるか』くらいのつもりだったんですが、そうしたら『あ、こっちのほうがいい』って。これで方向性が見えてきましたね。その後、マイクロソフトでの実証実験で『せっかくのダテめがねだから、おしゃれなフレームがいい』というメガネ未体験者の意見も踏まえて、最終形が決まりました。でもね、いつかは残念じゃないツーポイントをデザインしてみせますよ」(井上さん)
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