第60鉄 お魚市場とメンチカツと水戸藩の歴史とモコモコの丘――ひたちなか海浜鉄道杉山淳一の +R Style(1/6 ページ)

» 2013年12月12日 07時55分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 茨城県のローカル線、ひたちなか海浜鉄道湊線が開業100周年を迎えた。前身の茨城交通時代は廃線の危機があり、第三セクターになってからは東日本大震災に被災。2度の大きな危機を乗り越えて、今日も列車は元気に走る。地域の人々に支えられ、延伸計画もあるという。

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NEWS:この連載が本になりました!

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 この連載「杉山淳一の +R Style」が単行本になりました! 『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』(幻冬舎)。誠 Styleに掲載した全60本の記事の中から、33本を厳選。大幅に加筆・修正を加えて再構成したものです。

 日々の生活に+Railwayするだけで、毎日がぐっと楽しくなる――そんな本連載のコンセプトが丸ごと楽しめる1冊です。Webで連載を読んだ人も、これから読む人もぜひ本書を手に取ってみてください。


水戸駅のひとつ先、勝田駅から出発

 常磐線の上野駅からの下り列車は、土浦行と勝田行が多い。土浦駅は霞ヶ浦の近くで東京からの通勤圏。勝田は水戸のひとつ先。どうして県庁所在地の水戸行きではなく、ひとつ先の勝田まで行く列車が多いかというと、勝田には大きな車両基地があるからだ。勝田駅は東京・上野駅から特急で約1時間半、各駅停車なら2時間20分ほど。日帰り圏内である。

 この勝田駅を起点とするローカル線が「ひたちなか海浜鉄道湊線」だ。終点は鹿島灘に近い阿字ヶ浦駅。14.3キロメートルの単線で、所要時間は約26分。途中の那珂湊(なかみなと)駅はネコ駅長「おさむ」で話題になったし、鉄道ファンの間では昭和時代のディーゼルカーが残っている路線としても知られている。そして、実はロック音楽ファンにも知る人ぞ知る鉄道だ。日本最大の野外ロックフェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」開催地、国営ひたち海浜公園は、阿字ヶ浦からバスで行ける。水戸駅や勝田駅からシャトルバスも出るけれど、湊線ルートがもっとも渋滞の影響を受けにくいという。

那珂湊のネコ駅長「おさむ」。Twitterでも発信中

 勝田駅はすごく立派だ。白くて、四角くて、ガラス張りの橋上駅舎。ひたちなか市に合併する前の勝田市の中心で、現在はひたちなか市役所の最寄り駅。付近には日立製作所関連の大きな事業所がいくつかあって、陸上自衛隊の駐屯地もあるという、日本の重要拠点である。ひたちなか海浜鉄道は、この立派な勝田駅の構内から出発する。しかも1番線ホーム。ホーム上に小さなプレハブ小屋があって、これが湊線の駅事務室と改札口。1日乗車券は800円だ。

勝田駅、かっこいい……
ひたちなか海浜鉄道は1番線。栄光の1番はJR東日本ではなく、ひたちなか海浜鉄道が持っている。おそらく、駅長室に近いのりばから番号を振っているだけだとは思うけど

駅名標にドリル? 戦車?

 常磐線の長編成の電車が2番線ホームに発着する。それとは対照的に1番ホームはたった1両のディーゼルカーだ。上半分がクリーム色、下半分が深い緑色。平成生まれの3710形。ありがたいことに冷房車だ。ひたちなか海浜鉄道は昭和の頃からの古い車両も有名で、主に週末に運行されている。それが目当てなら、ひたちなか鉄道のサイトで運行時刻を確認しよう(参照リンク)

車両形式3710形。「みなと」にちなんでいるそう

 ロングシートがすべて埋まるほどのお客さんが乗りこんで、3710形は勝田駅を発車した。しばらく常磐線に沿ってから左へカーブし、最初の駅「日工前」に停まった。道路の向こう側には日立工機の広大な敷地がある。駅名標の漢字の一部が回転カッターの刃やドリル、チェーンソーに見える。

 この駅名標デザインも、ひたちなか海浜鉄道の名物のひとつ。ちなみに次の金上(かねあげ)駅はジェット機と戦車だ。陸上自衛隊勝田駐屯地の最寄り駅だから、という理由。

日工前駅。駅名標に注目
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